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4話『転換』



その後、学園長から説明を小一時間ほど受けた。世界のことや自分自身の今後、学園長のことなどから他愛ない世間話まで多岐に渡る。


学園長の年齢を聞かされて驚いた。学園長はどうやら長寿の種族らしく、現在の年齢は三桁らしい。それでも種族の中では若い方で高齢の者は四桁に届いているらしく、最早生き字引のような存在らしい。国が存在する以前から生きているのだ、それも当然だろう。


凪の身柄を今後どうするか、学園長と相談したところ快くこの学園に在籍することを許可してくれた。実年齢を鑑みれば年齢詐称にあたるのだがこの世界で凪はまだ学生として通る見た目であり、肉体的にもまだまだ未成熟であった。


住居については学生寮を勧められた。実際住むところをどうしようかと思っていたところで凪には正直渡りに船だった。あのアルフも学生寮に住んでいるようで凪がこの世界で目を覚まして初めて見た天井が学生寮の天井であったことが分かった。



「俺のクラスは?」


「君にはアルフ君と同じ、特別クラスに入って貰うよ」



話し合いも大詰めになり、最後の確認作業をしていたところ、先程のアルフとの会話でも出ていた特別クラスという単語が出てきた。名前の通り、特別なクラスであることは間違いないのだろうが何が特別なのだろうか。



「なぁ、その特別クラスってのは何が特別なんだ?」


「そういえば説明してなかったね。 特別クラスとは特別な人が集まって出来たクラスなんだよ」


「んなこたぁ分かってる。 何が特別なんだよ」



拗ねたような口調で言ったのが気に入ってくれたのか、口元に微笑みを浮かべ、詳しく説明してくれた。



「簡単に言ってしまえば、出生が特別であったり魔力が特別であったり剣技に秀でていたり…まぁ他のクラスと違って優秀なクラス、我が学園のエリートがいるクラスだよ」


「エリートねぇ…」


「おや? 余り好きではないのかな?」



正直特権階級は苦手だった。主に職場の上司のせいで。



「気難しい人が集まっているが気にすることはない」


「尚更嫌になってきたんだけど」



元々人見知りな凪は初対面の人間とは上手く喋れなかった。アルフは状況が状況だったので特別枠だ。



「無理矢理転校生として捻じ込んでおくよ。 明日から来てくれ」


「はいよ…気乗りしないが仕方ないか」


「ははは、すまないね」



微塵も謝罪の気持ちを持っていないだろうその笑顔にやはりこいつは面倒な奴だと再認識する。



「それとこれを君に」



そう言って手渡してきたモノは指輪だった。



「これはアルフのと同じ?」


「そう、リベアの指輪という学園専用の魔道具だ」


「念じれば学園内の望んだ場所に行ける?」


「そうそう、例外はあるが基本的にそう考えて貰っていい」


「学生寮にも?」


「自分の割り当てられた部屋の前までなら」



成る程、便利だ。主に覗きの時に使える。



「学園の風紀を乱すことに使用すると大変なことになるから気を付けるように」


「…大変なこと?」


「数年前に覗き目的に使った男子生徒が指輪を嵌めていた指を失くしたよ」


「気を付けます」



成る程、便利ではないな。



「さぁそろそろ行ってくれ。 私もこれでも忙しい身でね」


「そうだな、色々と助かったよ」


「いえいえ、どういたしまして」



指輪を嵌め、学生寮を念じる。念じる。念じる。………何も変化が起きない。



「あぁ、言い忘れたが部屋の外に出ないと使えないよ」


「死ね」



学園長に罵声を浴びせて扉を乱暴に閉めた凪だった。





「面白い子だ…さて」



学園長、リノアールが本棚の前に立つ。無数にある本の一つを触るとリノアールの姿が消えた。後に残ったのは先程までの喧騒とは打って変わって静寂のみだった。





「この扉の先が俺の部屋か…」



学園長の部屋を出てから直ぐに学生寮を念じるとアルフの時と同じように視界が歪み、景色が再構築されて現れたのは寮生の住まう場所であろう扉だった。片隅に視界をやればネームプレート。そこに凪の名前が入っていた。



「プレートの隙間から察するに相部屋なのか」



凪の名前の下には不自然な空白があった。そこにもう一人の名前が入るとしたら納得だ。



「荷物も何も無いんだけど…平気か」



若干の手持ち無沙汰を感じながらも新たな人生の第一歩を踏み出した凪だったが。



「………」


「………」



先客がいた。着替え中のアルフが。上半身裸のアルフが。下半身はパンツ一枚のアルフが。


その光景を網膜に焼き付け、海馬に焼き付け、魂に焼き付ける。


こんなお約束な展開を味わえるなんてなんたる僥倖。男として至福の時間をほんの数秒だけだが過ごし、そして何事もなかったかのように扉をそっと閉じた。


その数瞬後に学園全土に鳴り響いた悲鳴は学園七不思議として怪異の如く扱われる。





「よお、さっき振りだな」


「死ね」



何事もなく再び扉を開けて室内に入ると着替えを終えたアルフが罵声で凪を優しく迎え入れた。



「俺はどっちで寝ればいい? それとも添い寝をご所望?」


「死ね」



室内には左右のベッドが一つずつと勉強机と思しき机が一つずつ。どちらを使って良いのかとアルフに聞けば返って来るのは照れ隠しの罵声のみ。



「なぁ、機嫌直してくれよ〜」


「死ね」


「そういえば俺が初めてこの世界で起きた時、お前はここは私の部屋だよって言ってたよな? 今の部屋と違うけどどうしてだ?」



答えは分かっている。大方進級に伴い部屋替えをしたとか凪が来たせいで部屋の移動を余儀無くされたのだろう。兎にも角にも予定外の部屋替えであったことはネームプレートにアルフの名前が入っていないことから容易に想像つく。


聞いたところで答えが返って来ないのは内心でまぁ無理だろうなと思いつつもこの気不味い空気を打破する為に凪は動く。



「綺麗なピンク色だったよ」


「死ねっ!」



凪としては褒めてるつもりなのだが照れ隠しなのだろうか、拳が飛んできた。



「未使用だろ? 異性には当然、自分でも触ったことが無いと見た…どうだ? 正解か?」


「死っ! ねっ!!」



先程の拳も敢えて避けずに受け止めた。そして再び飛んできた拳も敢えて受け止める。顔面で。



「なかなか整った顔立ちを壊そうとしないでくれよ。 自分でもこの顔はなかなかイケメンの部類に入ると思ってるんだからさ」


「死ね」



最早死ね以外の言葉を発することをしないアルフを見て流石の凪もお手上げ状態。受け止めた顔面がひたすら痛い。だがそれだけの価値はあった。



「異性での相部屋は普通にあるのか?」


「死ね」


「同室の人はコミュニケーション能力が不全か…残念な頭を持った人と同室になってしまったもんだ」



今度は枕が飛んできた。魔法による強化がされているのか、カチコチに固まった枕はこれまた魔法による身体能力の底上げによるものなのか、年頃の女の子が投げてはいけないスピードで凪の顔面を直撃。



「ぶべらっ」



悲惨な血飛沫を残して凪の意識は闇に沈んでいった。

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