34話『実際』
武道大会が終わりを告げてから数週間、凪は安寧の中を歩いてきた。
それなりに名が広まったお陰か、学園内でも凪の立ち位置は悪くなかった。所謂カースト内でも上位に位置している。実際に大会を通して凪の強さを見た人間は凪をこう呼んだ。
魔法殺し、と。
前代未聞である魔力を使った、内部への攻撃。その二つ名が示す通り、対魔法使いのみと限定的ではあるが一部を相手に凪は無敵を誇っていた。特別クラスで行われる戦闘訓練、その最後は必ずアルフと凪の二人が残るのが恒例になりつつある。
最初の頃に凪が負けた、獣人のユーリ。肉体強化に必要な時間こそ負けるものの、試合内容では凪が圧倒していた。学園内でもそれなりの強さを持っていたユーリを圧倒したことにより、凪を見る目に畏怖が備わってきたのは最近だ。
曰く、流れ者が地味に強いと。曰く、攻撃されると死んだ方がマシだと思える痛みを受けると。
その全てが凪には疎ましく感じられた。目立つことを嫌い、最近では授業にすら出ていない。そしてそのことがより一層噂に尾ひれが付くことを煽った。
神出鬼没の流れ者がいると。
♢
「はぁ」
「どしたのさ、溜め息なんて吐いて」
「吐きたくもなるさ、こんな状況」
学園内では一番端に位置する、古い建物。かつては合宿所として生徒が寝泊まりする場所として使われていたが今はもう使われていない。
そんな人気の無い場所に凪はアルフとルティシアの三人でいた。
思えばこの三人で行動するのが当然になりつつある。アルフはともかく、武道大会から帰ってきてからのルティシアの反応には驚かされた。何処に行くのも、何をするにも背後にぴったりとくっついて行動するのだ。
トイレにもお風呂にも着いてくるので凪としては非常に迷惑だったが本人はそれを無視する。アルフの言葉を借りるなら寂しかった、らしい。
大会の開催期間はルティシアと顔を合わせていなかった為、その反動が出た。ここ最近は落ち着いてきたがそれでも凪と共に行動するのが彼女の中では当たり前になっていた。
「ルティは離れないし学園には居づらいし…はぁ」
「ルティシアは兎にも角にも、学園に居づらいって?」
疑問を返すアルフもルティシアと負けず劣らずの行動を見せていた。大会期間中、試合以外は常に凪と行動をしてせいで帰ってきてからも凪の側を離れないのだ。ルティシアのようにくっついて行動する訳ではないが凪が移動すればアルフも当然のように一緒に移動していた。
本人は無意識のうちの行動らしく、そのことにはなにも言わない。トレードマークの金縁の丸眼鏡が怪しく光っている。
「俺は目立ちたくないの。 細々とのんびり生きていきたいんだよ…」
「あー…仮にも決勝まで残っちゃったしね、有名人だから仕方ないよ」
「………アルフに負けてるようじゃまだまだ」
「ルティシアに勝てる人がいるなら私も見てみたいよ」
苦笑いをするアルフだが、凪以上にアルフの人気が高まっている。凪にも人集りが出来るがアルフはそれ以上だ。人が密集し過ぎて小さいアルフが見えなくなってしまう程に。元々見た目は悪くないアルフには隠れファンが多かったらしく、今では非公認ながらファンクラブまで出来ている始末だ。
余談だが凪はそれに入っていない。勧誘されたがそれを蹴った。
「色々と考えなきゃいけないこともあるしなー」
「私も一緒に聞いてたから何のことかは分かるけど…そんな今すぐに考えなきゃいけない問題かな?」
「死活問題だ、早急に対応策が必要な、由々しき問題だ」
「何もそこまで力説しなくても…」
あの日、皇帝から聞いた話。学園に戻ってきてから凪はアルフを連れて学園長に確認をしに行った。あれは本当なのかと。笑顔で肯定をされた時には思わず殴り掛かってしまった。
腹を割って話そう、そう決めてから色々と聞いた。聞かなきゃ答えてくれないことを含め、必要なことは全て聞いた。その全ての話を統合した結果、出た結論。
まさに主人公だった。
思い当たる節がない訳ではない。ラッキースケベ的な展開や様々な問題を抱えた女の子と知り合っているのはつまりそういうことなのだ。
主人公補正。一度疑ってしまうとキリがない。魔力の具現化もそれを上手く扱えているのも補正のお陰なのか、肉体強化も補正の効果で行えているのか、疑心暗鬼に陥る。挙げ句の果てにはアルフやルティシアも世界から指示を受けて凪に接近してきたのかと最低な思いに駆られる。
軽く頭を振り、思考に囚われる意識を解放する。
「ともあれ暫くは暇だな」
「そうでもないよ?」
最早当然になりつつある、非日常を日常として味わう凪をアルフが否定する。休みの日に皇都で買って、プレゼントとして渡したネックレスがその首にある。氷の結晶を模した、可愛らしいネックレスをアルフは気に入ってくれたようで毎日のように付けていた。
「………ランキング戦」
「学園内の序列を決める?」
「そうだよー。 私たちはもうじき卒業だからあまり意味は無いんだけど、最終的な評価だったり、自分の実力を見極める為にも参加するんだよね」
学園序列、強さの象徴。他国の学園にもそれが存在しているのはカイルとウィルトの言葉で判明している。
「強制なん?」
「最高学年の人はね。 今回が最後のランキング戦だからほぼ強制だよ」
「下級生は?」
「自由参加のはずだったかなー。 なるべく参加した方が得が多いんだけど」
「…今回は私も参加する」
参戦表明をするルティシアにアルフの口が塞がらない。鬼族である彼女が参加したら結果が見えてしまう。
「最後はお前も参加しろってティール先生が…」
「そ、そう…まぁ程々にね?」
「うん」
「ところでアルフの言う得ってのはなんだよ」
鬼族であるルティシアに人並みの思い出を作って欲しいティール先生の僅かばかりの配慮に思わず涙ぐむ、が、ルティシアが戦う相手に祈りを捧げたくなる。凪は未だに鬼族の戦闘を見たことがないので想像は出来ないがアルフの言葉を聞くに、相当やばいと思われた。
「得っていうのはね、まぁ権限みたいなものかな?」
「立ち入り禁止区域に入れたりするのか?」
「そういうのもあるよ。 色々と他にもあるけどナギ君にとってのメリットは禁止書物の閲覧を許可される、かな? 流れ者に関する情報とかね」
「ふむ…一位の人だけにそれが与えられる?」
「五位までは与えられてるけど、上位の人はやっぱり権限が強くなるよ」
他国においてもそれは同じで、序列が高い程、有する権限が強くなる。強さ以上のモノが手に入るのだ。情報とは時に人の生死を左右する、非常に大切な物だった。
「アルフは確か三位だったよな? 三位の権限ってのはどんなもんだ?」
「私の場合はさっきも言ってた立ち入り禁止区域へのある程度の立ち入りを許可されてること、ある程度の禁止書物の閲覧、使用禁止の建物を使えたりギルドに登録が可能だったりかな? 他にも細々とした権限が与えられてるけど大きいのはそんなもんかな」
最早異世界モノの定番である、ギルド。ここにきてその名前を聞いたことで思わず感慨深いモノを感じる凪。なんだかんだいって、ここが異世界である証でもあった。
「けど、ナギ君には悪いこともあるよ」
そんな感情を打ち消すかのように重い口調でアルフが続きを話す。揺らめくネックレスが窓から差し込む太陽に照らさて綺麗に光っていたのが何故か印象に残る、そんなワンシーンである。
「学園の序列で上位に入るということは強いってこと。 その強さに応じて様々な権限が与えられるのは全てはこの為とも言われている、有事の際の、戦闘参加」
「それはつまり….戦争する時にはその力を貸せってこと?」
「それも強制でね。 私も皇国から命令されたら最前線で戦わなきゃいけないし」
凪にとっては大き過ぎるデメリット。先程話したメリットと比較して、どちらを取るべきなのか。
この世界を知らない凪、流れ者が導かれる運命、知りたいことは山ほどある。今日に至るまでの間に自分でも色々と調べてはいたが重要なところは意図的に隠されており、当たり障りのない内容しか凪には閲覧出来なかった。
おそらく、序列一位になればその全てが閲覧を可能になる。だが、その反面、有事の際には表舞台へ強制的に導かれてしまう。
「難しいな」
「勝てることを前提に考えてるかもしれないけど、結構難しいんだよ? ランキング戦って」
「………勝つとポイントが手に入る。 全試合の工程を終えた時、ポイントが高い順が序列になる」
「負けた奴から消える訳じゃないんだな」
「相性とかもあるからね。 一概には強いと言えない人がたまたま勝って強いって思われるのを防ぐ為だよ。 だから試合数も多くなるし大変なのっ」
考えることが多い時、凪は優先順位を決めて行動する。一つずつ終わらせていき、同時進行出来るモノは同時に終わらせる、効率を重視したやり方だ。
目下の課題をランキング戦に定めて、行動を起こすことにした。




