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3話『対峙』



「やぁ、良く来たね」



およそ、学園のトップが居座る部屋には似つかわしくない簡素な作り。実用性に特化した執務机の書類を片手に学園長が軽く手を挙げ、来訪者に応えた。



「学園長、」


「いや、堅苦しいのはいいよ。 それで我が学園の特別クラスの君が今日は何の用だい?」



アルフが作法通りの動きをしようとしたのは凪にも察せられた。だが学園長はそれを制し、用件を促した。



「随分と若いんだな」


「こら! ナギ君!」



アルフには怒られたが学園長は本当に若々しい容姿をしていた。腰にまで届いてるんじゃないかと思う程の長い黒髪、優男を思わせる顔立ちにどこか掴めないような雰囲気を纏った男性に凪には思えた。



「君は?」


「遠野凪、こちらの世界では流れ者と呼ばれている存在、だと思う」


「ナギ君! 言葉遣い!」


「アルフはうるさいなぁ」



こちらを見透かすような視線を受け流し、怒り心頭といった感じのアルフの頭をぽんぽん叩く。アルフの身長は凪と比べ、二十以上は下なので丁度いい位置に頭が来るのだ。



「あははは、いいよ、アルフ君。 流れ者の彼にそこまで求めるのは酷だろう。 それでナギ君?だっけ?」


「間違いありませんよ」


「色々と聞きたいこともあるだろう。 少し、話そうか」



朗らかに笑う学園長はこちらの意思を汲み、早々に本題へと入ってくれた。さぁて色々聞こうかと凪が意気込んで口を開こうとする前にアルフの口が開いた。



「あの…私も同席しても?」



言葉とは裏腹にその表情は早く帰りたいと物語っている。王道展開ならこのままアルフと凪は良い仲に進展するのだが現実はシビアだ。



「あぁ…悪いが君は外で待機していてくれないか? この後ナギ君に色々と案内を頼みたいのだ」


「…それ、私じゃなきゃダメですか?」


「随分と凪君も嫌われたね〜」


「いやはや、女心は秋の空とは正にこのことかと」


「別に嫌ってなんかないけど、そこまで面倒は見きれないかなーて」



薄情者のような発言だが実際は正論だと凪も思う。事実、逆の立場に立った時のことを考えると凪も同じことをしただろう。学園長もそう思ったようで思案気な顔をしている。ついでに言えば少々肉体的接触をし過ぎて警戒をされていることもある。



「ふむ、まぁ一理ある、か。 分かった、ご苦労だったアルフ君。 下がっても構わないよ」


「はい、失礼します。 凪君、ばいばい」


「あぁ、また会った時はよろしくな」



学園長には真面目な顔を、凪には笑顔を見せて退室したアルフ。二人になった室内は華を一つ失い、若干のむさ苦しさを帯びてきた。



「さて、本題に入ろう…それとこの部屋は魔法により完全防音になっている。盗み見や盗み聞き類の魔法に対する抵抗もあるから安心してくれ」



こちらの不安を先読みしての言葉なのだろうが凪はそんな心配を一切していなかった。むしろそこまで考えていなかったと言い換えていい。



「ここはどこなんだ?」


「はて? ルミデット学園の学園長室なのは君もご存知のはずだが」



瞬間的に凪の中で殺意が沸く。



「いや失礼、こんな冗談を言える雰囲気ではなかったね」


「頼むから察してくれ、いや察してるなら無理して空気をほぐすようなことはしなくていいから」


「ふむ、それはすまなかったね。 先の質問だが…君のいた地球とは別次元の世界、が正しい答えだ。 世界の名はエルフィン」


「別次元…」



凪にとっては概ね予想通りの回答。難しい言葉で飾っているが結局は異世界なのだ。



「国家圏の情勢は?」


「ここ、ユナイリー皇国が世界最大規模の国だ。 皇国は剣と魔法の国としてその名が広く知れ渡っている。 そしてユナイリー皇国を中心とし、周辺国として知識や学問を国是とするゼクシオ国、商業国家が集まって出来たアサム国の三つが主要国家になる。 残りは吹けば飛ぶような小さい国が幾つか点在しているがこれに関しては気にする必要がない程小さい」


「魔法学園ってのは全ての国にあるのか?」


「規模はバラバラだが三大国では存在しているよ。 その中でもルミテッド学園が最大規模を誇っているはずだ」



異世界は異世界なりに国を築き、国境を作り、そして若人の育成に努めているようだ。



「現在、戦争は?」


「把握してる限りでは起こってないね」



これは最重要事項だ。戦争中の国にいきなり放り出されるのは正直勘弁して欲しいと思っていた。とりあえずこれをクリアしたということは凪にとっては全ての問題が解決したに等しい。



「戦争なんていつでも起こり得るモノだし安心は出来ないと思うけどね」


「ですよねー。 次の質問!」



調子に乗って元気良く挙手をしてみたりしたが完全な悪ノリだ。



「はいどうぞー」



学園長も地味にノリが良いなと判明した瞬間だった。



「流れ者について」


「流れ者か…」



雰囲気が一転し、重苦しい空気に包まれたのが凪にも分かった。



「アルフ君から聞いているかも知れないけど流れ者が来るのは不定期だ」



口調が重い。余程話し辛いことでもあるのだろうか。



「流れ者はどこの地域からでもやって来ることが確認されている。 既に君の世界のことについてはある程度の知識はこちらも流れ者から聞いて有している。 流れ者が住んでいた地域は全世界にまで広く範囲が広がっており、こちらの情報では世界各国から一人は必ず来ているのが分かっている」


「全世界…そんなに?」


「私達の立場からは正直その規模が分からない。 けど君が驚くということは余程のことなのだろうね」



凪の想定を超えている。所謂神隠し的なモノで日本だけでの話だと思ってたが規模が大き過ぎる。



「ちなみにナギ君はどこの国かな?」


「俺は日本だ…言語の問題はどうなってる?」


「それが不思議なことでね…全て問題なく理解出来るんだよ…聞き取り調査によって君達の世界では国によって言語が違い、理解が出来ないはずなのだがね…」


「…人智を超えた存在の可能性、か」


「そう、こちらの世界でも同じ結論が出ている。 そしてそれは未だに判明していない」



ますます自分がどうしてこうなったのか、理解が出来ない。人選に何かしらの法則があるのかもと考えたが全世界に範囲があるならそれも通用しない。



「結局、何も分からないってことか」


「すまない、力になれなくて…。 現在確実に判明しているのは流れ者が元の世界に帰ることは叶わず、全員この世界、国は違うがここで人生を終えていることだけだ」



少し遊び気分を捨てて、気を引き締めた方が良いのかもしれない。緩んだ気持ちを改めて引き締め直した凪だった。

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