表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/70

24話『利点』



「おいおい、随分とやる気のねぇツラしてんな」


「実際やる気なんざねぇよ」



広い闘技場、四角いステージに立つとより一層感じることがある。流れ者を物珍しく見る視線、ヒソヒソと話す声、値踏みするかのような会話、その全てが凪に突き刺さる。



「俺の紹介を聞いてくれたか?」


「ちゃんと右耳から入れて左耳から出したさ」


「そりゃお前、聞いてないってことだろーが」



対戦相手が馴れ馴れしく話しかけて来る中、凪の頭は目まぐるしく回転していた。逃げることが現状不可能なのは仕方ない。ならばここからどれだけメリットを回収出来るか。



「改めて自己紹介してくれ」


「ゼクシオ国、リンストン学園所属のカイルだ。 よろしく頼むぜ流れ者」


「カイルか…」



ふと思いつく。そういえば同性の友人がいないことに。クラスメイトで仲のいい男はいるが友人というより知人に近い。ぶっちゃけそこまで仲は良くない。ここらで同性の友人が欲しいと思っていたことを思い出した。



「………なぁ、賭けをしないか?」


「はぁ?」



普通に言っても面白くない。何より自身のモチベーションを上げる為にもここで一つ手を打つ必要がある。



「俺が勝ったら友達になってくれ」



凪の顔は至って真剣だ。同性の友人、それも他国の友人を作ってもなかなか会えないことの方が多い。だが長い目で見れば良いことがあるかもしれない。先のことなんて誰にも分からないのだから。


凪の言葉を聞いたカイルは暫し呆然としてから爆笑した。腹を抱えて笑うその姿は本気でおかしいと思っているようだ。



「くっはははは! 賭けで友達作んのかよお前!」


「普通に作ったって面白くないだろ? それにこっちの方が面白い」


「はっ、全くだ」



審判の声が聞こえる。カイルは腰に下げていた長剣を鞘から抜き取り正面に構える。短く揃えられた青い髪が凪を見据える。



「いいぜ、その賭け受けてやる」


「カイル、お前が勝ったらどうする?」


「そうだな…」



髪色に合わせた青い服が目に痛い。凪は学生服のままだがカイルの服は学生服に見えない。この大会の為に用意した戦闘服と思われるその服はカイルの美的センスを疑うのに充分なインパクトを凪に与える。



「俺が勝ったら友達になってくれ」



凪と同じことを告げるその顔は笑っている。心底、面白い奴に会えたと、その笑顔が語っていた。獰猛な犬歯が剥きでているその笑顔は見る人によっては恐怖を感じそうだが。



「構わないな?」


「あぁ、俺が勝ったら友達になる。 カイルが勝ったら友達になる、成立だ」



審判から試合の合図が送られる。歓声が強くなりこの先の試合を楽しみにする観衆が揺れ動く。




「行くぞっ!」


「来いっ!」




全身に魔力を浸透、以前戦闘訓練で見せた獣人以上の動きを見せながら凪が突進する。風すらも置き去りにするそのスピードにカイルは驚くことなく冷静にサイドステップで距離を置く。直情型で動くタイプでは無かったことに内心で舌打ちをしながら更に凪から距離を取ろうとするカイルに追い迫る。



「得物を使わないってことは肉弾戦がメインか? それとも何か隠し持ってるとか?」


「さぁ、ね!!」



一定の距離を保ったまま、カイルは凪に近付かない。流れ者を警戒してなのか、戦術的意味合いなのか、凪を探る言葉をかける。


フェイントを使って懐ろに潜り込もうとするが看破されてしまう。難なく凪の突撃をいなしてカイルは変わらず距離を置く。



「はぁ…疲れた。 なーんで離れるんだよ」


「男とくっつきたがるような趣味は持ってねぇよ」


「その剣はお飾りか? さっさと戦って終わらせて友達になってくれや」



無意味を悟った凪が脱力して止まる。行動の全てに歓声が沸き、ブーイングが起こる。前者は凪に、後者はまともに戦おうとしないカイルに向けてだ。



「さっきは来いって言っただろ。 行ってやったのにどうしてお前が逃げんだよ」


「そりゃお前、ノリだろ。 それに敵戦力の分析ってのは結構重要なんだぜ?」



周囲のブーイングを意に介さず冷静に凪の動きを分析する余裕がある、それはつまりそれだけの力があるということ。芯を持っている人間は凪の中で好意に値する。再度カイルの評価を改める。


カイルの動きに注意しながら静かに凪の中で魔力が流れる。魔法はまだ使うことが出来ない。特訓したのは肉体強化のみ。ルティシアから聞いた情報を元に今の自分に出来る最高の状態へと体を持っていく。



「…何をする気だ?」



凪の様子に気付いたカイルが腰を落として臨戦態勢を整える。手に持った長剣の鋒を下げ、いかなる状況にも対処出来るように無駄な力を抜く。それが剣士として高い技術を持っている証なのを凪は知らない。



「知ってるか? 肉体強化のことを」


「当然だろ」


「それが本当に全てなのか?」



凪の言葉にカイルは押し黙る。それを無視して凪は言葉を続ける。異世界人の自分にしか理解出来ない言葉を。



「インパルス信号を知ってるか? 目で見て、脳が処理し、肉体が動き出すまでの時間は?」



カイルの反応も待たずに矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。凪の異常な態度にカイルの警戒の色が濃くなる。



「人間の反応速度の限界は0.1秒。 それ以上は構造上不可能とされている」



事実、神経系の構造上から人類最速でも0.11秒が限界だ。一般人は0.2秒が妥当とされるその数値を凌駕する為に魔力を流す。



「魔法による肉体強化、本当に強化出来るのは肉体のみか?」



身体中に漲る魔力。神経伝達速度、伝達物質の速度を強制的に上げる。同時進行でさらなる強化を肉体に施す。その反応速度に肉体が壊れずに行動出来るよう。




「見せてやる、本当の肉体強化を」




その言葉が終わると同時に凪の姿が消える。全神経で凪の動きを注視していたカイルでもそれに反応することは叶わない。そのスピードは試合開始の時よりも数倍速い。



「こっちだ」


「っ!?」



背後から聞こえる声に咄嗟に長剣を振るうカイル。しかし今の凪にはそれがスローモーションに見える。動体視力、反応速度、それが人外の域に達している故だ。



「遅い」


「がはっ!」



カイルが長剣を動かしてから僅か一秒、鋒が未だに明後日の方向を向いている。そのたった一秒は凪にとっては十二分過ぎる程の時間だ。無防備な背中に蹴りをお見舞いする。



「こんなもんか? カイル。 お前が負けたら俺の友達になるんだぞ?」



観客の熱気は最高潮だ。その観客に凪の動きを視認することが出来る人間はいない。解説をするはずのアナウンスが驚愕の声しか出していないことを責める人間は皆無だ。無様に地面へキスをするカイルへ煽りの言葉を投げる。



「くはっ、おもしれぇ、お前おもしれぇぞ!!」


「昔は芸人目指してたからな。 どうだ? 本当の肉体強化は」


「すげぇよ!」



この世界の人間が使う肉体強化は文字通り、肉体を強化するだけなことをルティシアから聞いて思い付いた技だ。ただ体を強化するだけではなく、脳も強化し神経も強化、普通の肉体強化が筋力や耐久、敏捷のみを上昇させるのに対し、凪の使った肉体強化はそれに加えて反応速度や思考速度、視力の強化も含む人体としての能力の底上げだった。


魔法による強制的なリミッター解除はそれなりのリスクが伴う。だが人が何かを手に入れる時、何かを捨てる覚悟が必要だ。リスク無しで手に入るモノには限度がある。


このままでは埒が開かない、そう判断した凪は通常の肉体強化で勝つことを諦め、ハイリスクに首を突っ込む。リターンは勝利と友人だ、それは凪にとってメリットとなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ