21話『大会』
「武道大会だぁ?」
「そう、それに君たち二人で出て欲しい」
学園長室、朝から呼び出しを受けて凪とアルフは二人で学園長から話を聞いていた。
「アルフ君は知ってるね?」
「はい、知っています」
「俺が知ってる訳ねぇだろ。 説明してくれや」
「まぁそうだろうね。 アルフ君、ナギ君に説明を」
どうしてこうお偉いさんというのは自ら説明せずに下の人間に任せるのか、凪には分からない。自分の口からキチッと説明した方が何かと面倒な人為的ミスを犯さずに済むというのに。
学園長に頼まれたアルフは面倒な顔一つもせずに学園長へ向けていた顔を凪へと向き直す。綺麗な双眸が凪を捉えて思わず綺麗だなとどこか場違いな感想を抱いてしまう。
ここ、異世界に来て凪の驚いたことの一つに顔が関係している。所謂ブスやブサイクが存在しないのだ。皆一様に整った顔立ちをしており、誰一人として似通った顔立ちをしていない。皆、それぞれ特有のモノがあり、多種多様なイケメン、美人が揃っていた。無論、トップと比べたら劣る人間もいたがそれでも地球基準で考えたら充分綺麗でかっこいい部類に入る。
「毎年、三大国が合同で武道大会を行なっているの。 各国の学園から魔法や武力に秀でた生徒が国の代表として選抜されて、国の威信を背負って戦う、大規模な戦闘訓練みたいなものと思ってくれると分かるよ」
「ふーん」
「優勝した国は自国が強い証明が出来て、負けた国は弱いことになる、一種の政治的なやりとりの場でもあるわ。 この大会の結果次第では外交に大きな影響を及ぼすとも言われてる…ですよね?」
アルフの言葉に学園長が大きく頷く。それを確認してアルフは言葉を続ける。
「私が入学して五年、皇国は優勝したことがない。 優勝者には相応の報酬が発生する。 出場権は各学園の最高学年の人だけ。 …私が知ってるのは以上です」
「ありがとう。 理解出来たかな?」
「理解出来た上で言わせて貰うが今年はルティシアを出せば万事解決じゃん」
「それは…」
例え弱体化している状態とはいえルティシアは世界でも最高峰の力を所持している。出場さえ出来れば優勝は充分可能だ。学園長もそれを理解しているはずだ。なのにルティシアを出さない、それが意味することを凪は薄々感付いていた。それでも敢えて確認の為に言ったのだ。アルフも返事に窮する。
「彼女が鬼族だから、だよ」
「…学園長」
アルフの言葉を繋ぐように学園長が凪の質問に対する明確な答えを紡ぐ。
「鬼族は皇国以外でも?」
「残念なことにね。 皇国以上に畏怖する国もあるんだよ。 武道大会は三大国が主催するとはいえ国賓として周辺諸国からも国の上層部が集まってくる。 無論、観客としてもね。 そんなところに鬼族が出たら何が起こるか、君なら多少は理解出来るだろう?」
暴動すら生温いと感じられる程の騒動が起きる、学園長はそう暗に示す。凪とてそれは同じだ。
「国の重要人物を守る為にも余計な不安因子は排除する、か」
「ナギ君、そんな言い方は…」
「構わないよアルフ君。 悪い言い方だがナギ君の言葉は真実だ」
「だが尚更分からんな。 そこへ何故俺が出る?」
どうやら鬼族は古くから全世界で暴れていたようだ。その脅威は世界に深く根付いている。ルティシアの手前あの時は全てを知ったような口を利いていたが凪の想像以上に鬼族とっては生き辛い世界なのかもしれない。
だからこそ、そういった危険分子を排斥してまで行う武道大会に何者なのかも分からない流れ者である凪が出る理由が見つからないのだ。学園長が苦笑しながら和やかな表情で凪の質問に答える。先程までの重たい雰囲気を無かったことにしたいのか、不自然なまでの表情は凪に不信感を抱かせるのに充分だった。
「あぁ、それは君が流れ者だからだよ」
「余計に意味が分からんことを言うなよ。 流れ者が関係あるのか?」
「うむ、アルフ君も知らないだろうから私から説明をさせて貰うよ」
アルフがメモを書きそうな勢いで真面目な表情で学園長からこれからされる説明に耳を傾ける姿勢を見せる。八方美人なのか、それとも目上の人間に対して当たり前の姿勢なのか、社会人として数年の歳月を生きてきた凪にもそれで正しいのかどうか、分からなかった。
「まぁ説明と言っても簡単なことだよ。 流れ者が来た年、その流れ者が学園に在籍していたらその実力に問わず必ず出場する、そういう決まりがあるんだ」
「見せしめだろーが。 公開処刑する気かよ、そのふざけたルールは!」
理不尽なルールに怒りを露わにする凪だが続く学園長の言葉にその怒りが鎮まることになる。
「この武道大会が毎年行われるようなったのは今から百年前。 発起人は当時の各国の国王や皇帝、そしてそれらを纏めていた流れ者。 ルールも全てその頃に出来たモノをそのまま継承しているんだ。 文句はその流れ者に言って貰いたいね」
「なっ…」
「流れ者が関係していたんですね…」
「まぁね。 それを知っているのは生きてる人間ではもう両手で足りる程しかいないけど」
学園長の言葉に開いた口が塞がらない。色々と驚く点はあるが何よりも衝撃を受けたのは流れ者が各国のトップと知り合いで、尚且つそれを纏める役であったこと。ただの異世界人がそこに登り詰めるのは不可能だ。それこそ小説の主人公と呼ばれる存在がご都合展開によって不可解なことに包まれて何の縁か、知り合う展開にでもならないと。王の選抜でもあったのか、工房を開いたら影響力を持ち過ぎたのか、王女を助けて内乱のお手伝いでもしたのか。
「………とにかく、俺は拒否する。 細々と生きていきたいんだ、あまり世界の謎と関わりたくない」
「ごめん、ナギ君が何を言ってるのか私には分からない…それより! どうして出ないのさ! すっごく栄誉なことだよ!?」
「アルフ、お前は疑問に思わないのか。 三位のお前が出て、どうして一位と二位が出ない」
面倒なことにはこれ以上関わりたくないし、謎に立ち向かう気も更々ない。それが凪の常識、だが世界がそれを阻むように凪に否応無しに迫る。今の凪には世界がそう見えた。
後先考えずに感情で口を開くアルフ、物語の中心に誘うように凪を誘う学園長。
「そういえば…学園長、どうして私が?」
「それは、」
「いい、俺が代わりに答えてやる」
学園長の言葉を遮り凪が続ける。頭のどこかで警鐘が鳴っている。推測でしかないそれをどこか確信を持って凪は口にしてしまう。
「お前の能力だよ。 魔法とはまた違った能力。 世界でも希少な存在。 それを見せつける為だ。 違うか?」
凪の言葉にアルフの顔から表情が消え失せる。目から感情が抜け出し、残っているのは敵意だけだ。学園長は歪んだ雰囲気を醸し出した室内でも変わらず笑顔で二人の視線を受け止めた。
「私は能力のことはナギ君にしか話していない。 ここに来てからも目立つように使ったことはない。 だから誰も能力ことは知らないはずです。 学園長、ナギ君の言ってることは本当ですか」
言葉こそ静かだがそこには威圧感がある。沈黙は許さない、攻撃することも厭わない、そんな覚悟だ。
「事実だよ」
拍子抜けするほど、アッサリとそれを認める学園長にさしものアルフも毒気を抜かれる。思っていた反応と違い、凪は拍子抜けした。
能力を見せつける。それは他国に対しての牽制だ。うちの国では希少な存在である能力者を保有してますよ、能力者はこんなに強いんですよ、それでも歯向いますか、それらの意味を持つ。強過ぎる力というのは時に政治にさえ活用される。本人の意思とは無関係に。
「アルフ君の能力については少し調べれば直ぐに分かったよ。過去、生い立ち、経歴、どこか不自然な違和感を感じていたがそれが能力のことが経歴から抜け出た穴だったとは最初は思わなかったけどね」
柔かな表情の学園長とは対照的にアルフの表情は暗い。凪も面倒なことが一気に起こってお疲れモードに入っている。
「ナギ君の言う通り、君の能力を他国に見せつける意図も込みで君を選抜した。 だが…こちらにも後には引けない事情があってね。 能力以外でも君は充分優秀だ。 それこそ優勝が狙える程に」
言い訳とも弁明ともつかない言葉を続ける学園長だが凪はもう聞いていない。アルフは真面目な顔つきでそれを聞いている。
「君が学園に来た時から本当は君を大会に参加させたかったが規定が邪魔をした。 そして今年、その規定もクリア、これでやっとアルフ君を推すことが出来た。 皇国の為、力を貸して欲しい」
その言葉で締めくくり、頭を下げる学園長にアルフは制止の言葉をかけない。
「少し、考えさせてください」
「あぁ、そうした方がいい。 能力者は忌み嫌われることが多いと聞く。 表舞台でそれを使うことの意味をしっかりと考えた上で皇国に力を貸す、いい返事を待ってるよ」
硬い声で保留を告げるアルフに対して学園長は終始穏やかな表情を浮かべていた。




