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17話『真価』



翌日。休息日として丸一日を自由時間に特別クラスの生徒は貰っている。翌日の二回戦に向けて鍛錬をする者、彼女とデートする者、惰眠を貪る者。各々が好きなことに貴重な青春時代の限られた時間を費やす中、凪は鬼族の少女と蜜月を過ごしていた。


無論、蜜月というのは凪の主観であって、ルティシアからは特に特別な感情をその時間に感じている訳ではない。


中庭のベンチに腰掛けて座る二人を遠巻きに他の生徒が憐れみの視線を送るが凪は気にしない。ルティシアも慣れたといった感じで完全に無視している。



「ふーん…角の有無か」


「そう、だから今の私に全盛期の力は無い」



ルティシアから鬼族の件で質疑応答の時間。鬼族はかつて、その頭部に角が生えていた。その角に鬼族の力の秘密が関係している、がルティシアの言葉だ。



「角があると力が出るとか?」


「簡単に言ってしまえばそう」



難しく言うと凪が理解出来ないことを考慮してのルティシアの返答。実際、空気中に存在する魔力を角が吸収し、有り余る過剰魔力を全て肉体強化に回しても尚余る魔力を種族全体で角を介して分配、超高密度の魔力で武器及び防具を精製し最強の矛と盾を持って食物連鎖の頂点に君臨していたと説明しても言葉で理解の意を示しても頭ではきっと理解出来ない。



「どうして角が生えてこないんだ?」


「…………分からない。 一族に残る書物にはある日突然生えてこなくなったと記されているけど…」


「原因不明か」



鬼族が衰退する直接的な原因は角にある。角がなければ頂点に君臨することが出来ないのだ。勿論角がなくとも人間を圧倒するだけの力と魔力を所持しているのだがそれでも物量で攻められてしまえば徐々に仲間は倒れていく。さらなる要因として鬼族の意識の低さだ。角が存在している時、鬼族は傷を負うことがなかった。どんな存在であろうと超高密度の魔力によって精製された鬼族の纏う鎧を傷付け、貫くことは成し得なかった。それ故に当時の鬼族は回復するという概念を持っておらず、傷を回復させて戦線に復帰する、それをしなかった。大小様々な傷を負っても、麻痺や毒を受けても気にせず戦闘に参加していた。


そして倒れた。生き残りはただ一人。


今の鬼族は食物連鎖の頂点に捕食される立場だ。かつての栄光はそこにはない。



「角が生えてない状態で学園中の生徒と戦っても?」


「圧勝」


「お前すげぇな」


「…それもあるけど生徒がそもそも弱い。 これが皇国の騎士団千人だと私は負ける。 七割程削ってから倒れる」


「それでも七割かよ、やっぱすげぇな」



皇国の騎士団という存在をそもそも知らない凪には比較されてもよく分からない。



「…ナギは皇国の守護者を知ってる?」


「あぁ、勿論知らないよ」


「思わせぶりな返事は止めて」



最初だけ聞けば知ってるような口調だが実際は知らない。



「たった一人で皇国全戦力を合わせても足りない程の力を有する、英雄。 あれと戦ったら確実に負ける。 それも数秒で」


「数秒戦えるルティが凄いのか、皇国の騎士団千人を相手に立ち回ることが出来るルティに数秒で勝てるそいつが凄いのか、どっち?」


「両方」


「お前って結構な自信家だよな。 いや、まぁ事実だし良いんだけど」



皇国の守護者。文字通り、最終防衛ラインとして扱われているのだろうか。皇国の全戦力がどれ程のモノか分からないが仮に自衛隊以上あるとしたら最早強さがカンストしてる。守護者というよりは破壊神だ。



「ちなみに俺の強さを十とするとルティは?」


「数千。 守護者は数万」


「途方もない数字だなおい…アルフは?」


「………数百」


「あいつもすげぇな」


「角がある私なら数十万」


「すげぇな。 語彙力が足りなくてすげぇとしか言えない俺もすげぇな」



鬼族には終始驚かされてしまう。そしてアルフの強さにも。学園序列三位というのは嘘ではなさそうで安心した。地味に自分の周りには強い人間が集まっているんだなと改めて実感する。



「………明日は勝てる?」


「さぁ…どうだろうな。 進んで負けようとは思わんけど、勝てるともあまり思えんし」



二回戦の心配をするルティシアに答えたのは凪の本心だ。どちらかというと負けず嫌いに分類される方だと自覚している。進んで負けるのは何か悔しいのだ。かといって勝てるともなかなか思えない。土台が違うのだ、昨日勝ったことは奇跡のようなものだと凪は思っている。



「特訓する?」


「断固拒否する。 苦しい思いをしてまで強くなろうとは思わんわ。 当然痛い思いもやだ」


「…ワガママ」


「至極真っ当な返答だ」



こうなるとご都合展開で突然強くなる主人公が羨ましく思えてくる。そもそも異世界に来た時点で何かしらのチートを所持してないのは何故なのか。凪はここに来ることになった日を思い出す。


ルティシアは凪が思考の海に沈んでいるのが分かったのか、空気を読んで大人しくしている。これが凪ではなくアルフの場合は敢えて空気を読まずに話を続けるのだから扱いに大きな差がある。


起きたら訳の分からない洞窟にいて、奥から聞こえてくる女の声で異世界に来た。



「どうしよう、本当に訳が分からない」


「…」



よくある物語のように事故で死んで気付いたら神様が目の前にいた訳でもなく、強大な魔力と肉体に生まれ変わった訳でもない。死んだことがないので分からないが死ぬと時が巻き戻る可能性も低い。日本で古武術を習っていた訳でもない、本当にただの一般市民であった。


ゲームの世界に気付いたら入ってた場合は例外だ。ゲーマーの凪はあるネトゲにハマっていた。その中でなら無双出来る可能性は充分にあった。かなりやり込んでおり、廃人といっても過言ではない程のキャラとアイテムを所持しているからだ。



「あーあ、なんかある日よく分からん存在と契約していきなり強くなったりしないんかねぇ」


「………あると言えばある」


「マジっ!?」




この時の凪を食い付き具合を後にルティシアはアルフにこう語ったという。


『飢えたケダモノの目だった。あれで迫られたら…きっと私もアルフも断れずに最後までヤってしまう』


それを聞いたアルフが頬を染めて妄想の世界に入っていったのをルティシアから聞いた凪はまた一つからかうネタを入手出来たと喜んだという。




「その方法は!?」


「召喚」


「…あー、それは盲点だったわ」



既に自身が異世界人の為に日本からまた異世界人を召喚してしまう可能性は十二分に低い。また仮に異世界人が召喚されてしまったとしてもその召喚された異世界人が何かしらの特殊な能力の刻印を体に刻まれている可能性はマンボウの子供が生き残る確率並みに低い。



「けど却下」



バッサリと切り捨てる凪にルティシアは困った顔を浮かばせている。彼女自身も妙案だと思い、自信があったから提案したのにこうもあっさりと諦められては少し悲しいらしい。



「どうして? 手軽に強くなれる可能性はあるはず…」


「面倒。 以上」



この人はこういう人だったと痛感したルティシアだった。

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