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1話『真相』



遠野凪は困っていた。自宅の布団で寝たはずなのに起きたと思ったら洞窟の中に立っていたからだ。



「………」



無言で後ろを振り返るも退路は無く、眼前には岩肌があった。前を向けば続く道。誰がどう見ても前へ進めという無言の圧力であるのが見て取れた。



「はいはい夢ね、進みますよ」



早々に思考を放棄した凪は文句を垂れ流しながらも前へ進む。岩壁に設置された松明が揺らぐ灯りを灯してくれなければこの空間が真っ暗闇なことは容易に想像できる。



「ホントにここどこなんだよ…まさか異世界とか?」


「えっ!? なんで分かったの!?」


「っ?! びっくりしたぁ!! 誰だぁ! テメェ!」



何気なく呟いた言葉に反応する存在が暗闇の奥にいた。まさか声が返って来るとは思わず、凪の心臓が鼓動を速める。



「ネタバレする前からバレてるとかつまんなーい」


「いいからさっさと姿を見せろや!」


「えーっ? なんてーっ?」


「聞こえてんだろーがっ! 可愛い声で言ってんじゃねーぞ!」


「可愛い声だってー。 うふふふ、ありがと」



やっぱり聞こえてんじゃねぇか。凪をからかうような声音は女の声。それも子供の声に聞こえる。いつまでも暗闇から姿を見せずに声を掛けてくる存在に状況も含めて不信感と苛立ちが凪の中で募るばかりだ。



「バレてんならもういいや。 じゃ、行ってらっしゃーい」



どこに、誰が、そんな疑問を口にする前に凪の意識が暗闇に落ちていった。





「………知らない天井だ」



意識が覚醒し、最初に目にしたのはウッドハウス調の木材。体から感じるにおそらくベッドで寝ていることが分かった。


体を起こし辺りを見回す。今いるベッドの他はタンスだけが置いてある質素な部屋だった。他には何も無い。



「あっ、起きたー?」


「っあ?! えっと、どちら様で?」


「あはは…そんな驚かなくても」



ドアから顔を覗かせた金髪の眼鏡を掛けた少女がいきなり声を掛けてきた。思わず発音しにくい奇声を発してしまい、顔の温度が上がるのを自覚しながらも何とか疑問を口に出せた。



「私はアルフ。 あなたが森の中で倒れてたのを見つけてここまで運んできたのよ」


「森の中で…?」



アルフと名乗る少女は一緒に持ってきていた椅子をベッドの横に置き、座りながら状況を説明してくれた。

名前から察するに日本人ではないのかもしれない。の割に流暢な日本語を喋るなぁと思わず内心で感心してしまう。



「…何も覚えてないの?」


「あー…そう、なるかな。 正直ここがどこなのかも分からない」


「ここは私の部屋だよ! ねぇ、君の名前は?」



年頃の少女の部屋にしては随分と殺風景な気がしたが、初対面の印象を良くするべく、凪は黙って質問に答えることにする。実際、あの洞窟で意識が落ちてからのことは何も覚えていなかった。



「俺は遠野凪。 君には助けて貰った…ことになるのかな? 一応ありがとうと言っておくよ」


「どーいたしまして! けどトオノナギ…? あまり聞き慣れない名前だけど皇国出身じゃないのかな?」


「皇…国?」



アルフの顔には人を騙そうとする表情は見受けられない。本気の目だ。



「あー………今からする話を聞いてくれるか?」


「? うん、良いけど…変な服装だよね、君」



アルフの服装は何というか、ファンタジーの世界で王都に住む平民が着ているような素材で出来たワンピースだった。嫌な予感が助長される。



「俺、多分だけどこの世界とは違う世界からやってきたんだけど…」



言ってから凪は後悔した。アルフの表情が何言ってんだこいつ的な表情だったからだ。だがそれは杞憂だったようでみるみる笑顔になっていく。



「君、もしかして流れ者?! へーっ! 私初めて見たよ!」


「流れ者?」


「君以外にも君と同じように別の世界から来たっていう人が過去数百年の間に何人かいるんだよ! そんな人達を私達は流れ者って呼んでるんだけど…今の時代はまだ一人も存在してなかったような…」



アルフに詳しく聞いたところ、凪と同じように日本、もしくは外国の国からこの異世界に来た人がいたようだ。それは数年、数十年の単位で突然現れて誰かに保護され、一生をこの世界で終わらせており、皇国の図書館にその資料をまとめた本が何冊か置いてあるとのことだった。また帰る手段は存在しないとのこと。



「マジか…ってことは俺も帰れないってことかよ」


「の割にはあまり悲しそうな顔をしてないね」


「悲しんで帰れるなら泣いてやるよ」



泣き喚こうが何をしようと帰れないならそれは無意味だ。それより今後のことを考えねば。この世界で生きていく為に。切り替えが早いのが凪の長所で、早過ぎるのが短所であった。



「ねぇねぇ、行くとこが無いんだから私の学園に来ない? 過去に流れ者を学園に在籍させてたって学園の資料で読んだことがあるから入学出来ると思うよ?」


「今更学生に戻るのも嫌だなぁ」



日本では凪は社会人であり、妻帯者であり、二児の父親でもあった。失った青春を取り戻せるのは魅力的だが勉強がいかんせん苦手だった。



「? でも君、あ、ナギって呼んでいい?」


「あぁ、構わないが…」


「ナギ君の本当の年齢は知らないけど、今の見た目から判断するに、私と同い年くらいに見えるけど…」


「…俺の顔に髭は生えてるか?」


「ううん、生えてないよ」


「もしかすると若返っているのかも…ちょっと鏡を持ってきてくれ」



可能性としては有り得なくはない、と凪は思う。最早異世界にいる時点で全ての事象に対して須らく可能性があると思って間違いはない。思い込みで勝手に決め付けるのは馬鹿のやることだ。これから先、先入観は取り除いた方が安全だろう。



「はい、持ってきたよー」


「すまない、助かるよ」



アルフの持ってきた手鏡を見て愕然とした。どこから見ても高校生くらいの年齢にしか見えない。こんなに若くはなかったはずなのに。



「…とりあえずその学園とやらに行けば詳しい説明があるよな?」


「うん? 多分学園長からされると思うけど、それが?」


「連れてってくれないか? 何をするにもまずはこの世界の情報が俺には必要だ」



帰ることが出来ない可能性が現時点では高い。仮に帰ることが出来たとしても明日明後日には帰れる訳ではない。長居するだけにせよ居座るにせよ、知らなくてはいけないこと、知っておくべきことが山程ある。勿論目の前にいるアルフからもある程度は聞くことが可能だろう。だが、秘匿性が高く、機密性の高い情報を知っている可能性は低い。いずれにせよ、それなりの立場の人間と接触する為にも学園にコンタクトをとっておいた方が今後の為になる。



「いいよ! じゃあ行こうか、ルミテッド学園へ!」

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