表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぼくは幸せになりました

作者: 頭山怛朗

ヤフーブログに再投稿予定です

「本当、退屈だ! 耐えられない 」と、ぼくは白い砂浜と青い海を見下ろしながら言った。ぼくのプライベート・ビィーチだ。「何かしてもお金にならない時間つぶしはないかな? 」

 ぼくは「二流」と言うとほめすぎの大学を卒業したけれど、就活で連戦・連敗を繰り返しで時間切れになり大学を放り出された。親父とお袋は数年前に交通事故で亡くなって、その時の生命保険金・賠償金で生活していた。それから名前だけ聞いていたおじからこの屋敷と莫大な資産を受け取った。

その後、異星人が企てたゲームに参加し負けた。その結果、死ぬことができるかな……。と、思ったのだが百歳まで生きられる健康な肉体を得られた。かつ、名も知らない叔母から把握不可能なほどの資産を受け取った。死のうと思って車を暴走させ事故を起こしたら、ぼくも相手も奇跡的にかすり傷一つですんだ。かつ、事故の相手は懸賞金付きの殺人犯で懸賞金まで得た。それに……。車のメーカーから「車の欠陥が見つかった。これが原因なので賠償金を支払う」と言ってきた。また、ぼくの口座には莫大な金額が振り込まれた……。

 でも、ぼくは少しも幸せでなかった。退屈! 退屈、退屈、退屈、退屈、……、退屈。

 耐えられない退屈。それで、ぼくが何かすればするほど口座残高を増える…。

 何もしないのが一番だ! それでは退屈!?


「もう一度、ゲームに参加しませんか? 」と、あの女が突然目の前に出現して言った。あの女だ! 超美人異性人だ。

 でも、ぼくはあっさり言った。「いいだろう」


 次の瞬間、ぼくはあの室にいた。窓から血のように赤い月と透き通るような白い月が見えた。地球でない異星だ。

 そして、ぼくの前にはあの女と見知らぬ男がいた。

「“ゼノンのパラドックス”と言うのを知っていますか? 」と、女が言った。

「知らない」と、ブサイク男が言った。

女がぼくに説明を促した。前にも一度言ったことがあるけれど、ぼくは頭が良くないが変なことは知っているのだ。「“二分法”・“アキレスと亀”・“飛んでいる矢は止まっている”とか“競技場”がある。たとえば“飛ぶ矢は、どの一瞬一瞬でも静止している。静止している矢をいくら集めても、飛ぶ矢はあらわれないはずだ。したがって、矢は飛ぶことができない”。結論は馬鹿げているが、それに導く理屈は正しいように見える」

「その通り」と、女は言った。「我が国王はあなたたちの悩みを知って居られます。これから六時間で“新・ゼノンのパラドックス”を考えてもらいます。国王がなるほどと納得された方を勝者とします。国王はあなたたちどちらか勝者の悩みを解決します」

「敗者はどうなるのだ? 」と、男が言った。

「いい質問です」と女が答えたが、次の瞬間、ぼくは別室にいた。室内にはテーブルと椅子。テーブル上には紙と鉛筆があった。そして、室内にはぼくの好きなロックが流れていた。


 あっと言う間に六時間が経過した。

 ぼくは言った。「“豚もおだてれば大河を渡る” 豚が大河のほとりにやって来た。豚は左前足と右後足を河の流れに乗せる。出した足が沈まないうちに右前足・右後足を流れに乗せる。沈まないうちに次々と足を出して、やがて大河を渡りきる」

 自分でも前回の、ぼくが負けた相手のパクリだと分かっている。でも、国王は論理的な話より馬鹿馬鹿しい話の方がすきなのだ。そのことを知っているぼくは有利だ。自分の勝利を確信した。

 今度はあの男の番だ。「“直角二等辺三角形の直角をはさむ二辺の和は、他の一辺に等しい” 直角二等辺三角形の直角をはさむ二辺の中点から折って頂点(直角)を底辺に下ろす。二つの小さな直角三角形ができる。それぞれの三角形にこれを繰り返す。底辺は同じで四つの直角三角形ができる。これを果てしなく繰り返す。直角の頂点は底辺に限りなく近づき、やがてその違いはなくなる。“直角二等辺三角形の直角をはさむ二辺の和は、他の一辺に等しい”」

 正当すぎる。少しも面白くない。ぼくの勝ちだ!


 でも、ぼくは負けた。国王はブサイク男の説が“面白い”と言った。ぼくのは“面白くない”と言った。

“第一、パクリだ”とも言った。“許せない”

 ぼくは死を覚悟した。それも“死ぬほど辛い死”を……。それでも、このまま生き続けるよりはマシだ。



 ぼくは結局、異星の国王に殺されることはなかった。ぼくは、結局、今、あのプライベート・ビィーチ付きの屋敷に住んでいる。ただし、飼い猫として……。飼い主はあのブサイク男だ。

 ブサイク男は新婚だ。それも新妻はぼくが大学生の時思いを寄せていた女性だ。彼女はぼくと違って一流大学生だった。美人で背も高かった。彼女は学費を稼ぐため夜はK珈琲店でアルバイトをしていた。ぼくは毎夜、彼女に会うためK珈琲店に行った。毎夜、行った。ただ、それだけだ。時候の話をしたくらいで、デートはしたことはない。とても、言い出せなかった。

 屋敷に帰ってベッドに入り自分を慰めるしかなかった……。


 あのブサイク男は早朝に仕事に出かけ、夜遅くにしか帰ってこない。土日もまともにない。でも、ぼくは一日中彼女の膝の上にいる。一日に数回、リードをつけてもらって彼女と庭を散歩するし、一緒に風呂に入ったりする。

 彼女もぼくといるときは幸せそうだ。


ぼくは、今、とても幸せだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ