それは、どっちつかずのたちいち
ぱんぱんと白煙の花火が弾ける。
ノイズの溢れる門の向こうを眺めて、雪之丞はほうと息を吐いた。
学生のエネルギーというものは、何処から生まれて、社会に出るようになると何処へ消えて行ってしまうのだろう。
馬鹿になって馬鹿騒ぎ出来ることは、ある意味幸せなことなのだろう。
卒業してから懐かしく思い出すのは、意外とくだらないことが多かったりするのだ。
真夜中に道路に寝転んで星を見たり、ひとり暮らしの友人の家に集まって闇鍋を突いたり、居酒屋で朝まで議論を闘わせたり。
そんな風に失くしてしまったものを思いながら、雪之丞は門を潜った。
直ぐさきの受付で招待券を見せると、ぼけっとしていた少年の代わりに横から少女がパンフレットを差し出す。
「ようこそ。楽しんでいってください」
「ありがとう」
ぺらりとパンフレットをめくると、ちょうどアンケートの挟まっていたページが開いて、でかでかとした文字が目に入った。
「演劇、ですか」
有志による演劇のタイトルは、『星の流れる日』。
思いついて出演者の名前に視線をやると、主役の所に『黄波戸』と予想通りの名前がある。
小さく微笑んで、雪之丞はパンフレットを閉じた。
取り敢えず、これは見に行くことにしよう。
「問題は、」
鞄の中の袋に視線を落として、雪之丞は僅かに首を傾げる。
あれだけ目立つ人間なので、特に探さなくても見つかるだろうとは思っていたのだけれど、果たして、見つけて声をかけても良いものだろうか。
雪之丞と春真の今の関係は酷く曖昧だ。
問題が解決したとははっきりと言い切れないし、取り敢えずこれを渡すことだけが、目的ではあるのだけれど。
「お姉さん、フランクフルトどう?」
「クレープ美味しいですよ」
「超常現象研究会ですけど、UFOに興味ありませんか?」
「二階で妖怪喫茶やってまーす」
「中庭で有志による演奏会やってるので、良かったら」
不特定多数に向けた客引きを躱すのは、そんなに苦労しない。
けれど、
「お姉さん、一人?」
「何処か探してるの? 良かったら案内するよ?」
「そうそう」
ゆく手に立ちはだかった妙な格好の三人組に、雪之丞は肩を竦めた。
祭事というのは、得てしてこういう面倒な輩も必ずいるのだ。
「いえ。待ち合わせしているので大丈夫ですよ」
「だったら、待ち合わせ場所案内してあげるよ」
「ていうか、待ち合わせ時間まではいいじゃん」
「そうそう。俺ら面白いとこいっぱい知ってるよ」
やはり緑川でも連れてきた方が面倒がなかったかな、と考えていると、すっと間に影が差す。
「俺の連れに、声かけないでくださいね」
「うわ、紅野先輩!?」
「げ、先輩の彼女ですか?」
「すみませんでした!」
「鶴の一声、ですか。思った以上に、人気者なんですね」
「見かけるたびに声かけれられてる雪さんには負けると思うけどね」
ばたばたと逃げるように去っていく三人組を見送ると、いつかと同じ一言で相手を退散させた春真が小さく笑って振り返った。




