それは、ゆうきとはいえなくても
黄波戸と雪之丞が向かい合うのは、大通りにある全国チェーンの喫茶店。
通り沿いのその席は、ガラス張りの向こうに通りを行き交う人が良く見えた。
「ちょっと、付き合ってくれ」
腕を取られるなり響いたのは固い声で、雪之丞はその表情になんとなく理由を悟る。
それ以外に、黄波戸が向こう見ずにやってくるような事柄には思い至らなかった。
だから雪之丞は反論することもなく、彼に従って此処にいる。
「理由、解ってるみたいだな」
「紅野君のことですよね」
「紅野はあんたを責めなかったらしいけどな。俺は簡単に納得できない」
「はい」
「騙して楽しいか? そんなのは、全くヒーローらしくねぇ」
ぴしゃりと言いきって、黄波戸は雪之丞をねめつけた。
「持って生まれた見た目は仕方なくてもな。心気だけは、男気溢れるヒーローでいろよ。それがヒーロー好きの資格ってもんだ」
思わず微笑むと、途端に黄波戸は苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「笑うな」
「すみません。素敵な演説でした」
「あんたは狡い」
「はい?」
「嘘つきのはずなのに、嘘は口にしなくて、その言葉だけは本物だって思わせる。俺がこうやって嘴を突っ込むのが、馬鹿みたいだ」
「友人思い、と言うことでしょう」
「どうかな。ヒーローぶりたいだけの、端からみたら迷惑な人間かもしれないだろ」
自嘲気味に笑う黄波戸に、雪之丞は瞬いて、それからごそごそと鞄の中身を漁る。
目当てのものは鞄の底の方にあって、雪之丞はそれを取り出すとずいと黄波戸の方に押し出した。
「ヒーローは、得てして孤独なものですよ。でも、仲間がいるから、大切な人がいるから、理解されなくても、心のままに頑張れるんじゃないですか?」




