それは、まれなるそんざいの
「ひとつ、誤解を解いておくよ」
「はい?」
「オレの友人にも、君に良く似た奴がいてね。まぁ、君ほど美少女ではないけど、女と勘違いされるのが大嫌いなんだ。だから、オレは君に対する春真の態度に違和感を持った」
それは、言外に春真を騙していたのだろう、と告げていたが、雪之丞は小さく肩を竦める。
「個として、墨吉雪之丞であることを認めてくれていると解れば、性別の観念はどうでも良いことだと思いますよ」
男らしく在りたい、と思った時期は合ったが、今の雪之丞は、美少女だ、と言われた所でムキになって否定するようなつもりはない。
勿論、女だと思って欲しいわけではないが、これが自分なのだと受け入れてはいる。
男らしさも女らしさも、ある意味では多分不要なものだ。
少なくとも、美少女だと思われることは、墨吉雪之丞を否定しないのだから。
その答えに、紫村は微かに目を細めたようだった。
「君みたいに考えられるのは、ごく少数だと思うね。うん、でも、そう言う考え方だから、春真は君の人間性に惹かれたのかな」
「紅野君が?」
思いがけない言葉に雪之丞が目を丸くすると、紫村はカップを持ち上げてくすりと笑う。
「あれ、自覚なかった?」
「ありません。影響、与えてたんですか…」
雪之丞が口を噤んだのを見て、ティカップの中身を飲み干した紫村が視線を上げた。
「雪之丞君、最後にひとつ聞かせてくれる? 君は、知りたいことが分かったらどうするの?」
質問の意図が解らずに眉を顰めた雪之丞に、紫村はかつんと机を叩く。
「二択だよ。春真についた嘘を開示するつもりなのか、それとも、開示しないまま姿を消すつもりなのか」




