それは、りゅうちょうさのしょうめい
「ねぇ、あんた何かあった?」
言われるがままに姉の買い物に付き合って、会計の終わった荷物を受け取った春真に、唐突に姉がそう言った。
「何って?」
「だって、変だわ。らしくない」
「突然何?」
「気づいてないの?」
驚いたように瞬いて、姉は至極呆れたように口をあける。
「人の話、よく聞くようになったのね」
「え?」
「前は、あんたってば殆ど聞かないうちから、『ありがとう』とか言って遮ってにこにこして切り抜けてたじゃない」
それはどうやら、姉に付き合っていった宝石店の店員とのやりとりや、先ほど出会った宣伝活動中の劇団員や、姉が試着中で一人になった時に声をかけてきた少女達のことを差しているらしかった。
「そう?」
「そうよ。前のあんたなら、『とてもお似合いですね』で、『ありがとう』で相手を遠ざけてたわ。でも今日は、質問にも答えてたじゃない」
言い負かされたつもりはなかったが、姉の言葉に、改めてやり取りを思い返して、春真は自分でも少し驚いた。
もともと質問をされることはあまり好きではない。
特に話の接ぎ穂の質問は、厄介この上ないといつも思っていた。
一度中学の時に、ぽろりとアップルパイが好きだといったら、次の日からものすごい量のアップルパイが差し入れられたことや、女子の髪飾りは何が可愛いと思うかと、選択的に聞かれて、バレッタと答えたら、次の日から学校中の大半の女子がバレッタをつけてくるようになったとか、そんな笑い話のような出来事も、それに拍車をかけていたのだとは思う。
春真は、誰にも輪郭を読み取られることも、支配されることを好まなかった。
来るもの拒まず、去る者追わず。
そんな風にのらりくらりと生きていきたいのに、質問は春真の影を縫いとめ、はっきりとした形をくり抜こうとするのだ。
「幽霊、止める気になったの?」
「さあ。どうだろうね」
ことあるごとに、彼を幽霊と冷やかすのは姉の口癖だ。
春真は肩を竦めたが、自分自身の変化の兆しに一番戸惑ってるのは、やはり春真自身だった。




