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綺羅と嘘とその先  作者: 蛍灯 もゆる
綺羅の転
55/102

それは、もっともじゅうような

「御蔭で、予想以上に早く配り終えられました。ありがとうございます」


すっかりなくなったチラシに、彼女がぺこりと頭を下げる。


「健人君も、ありがとう」

「どういたしまして」

「予想より、って随分チラシの数があったみたいだけど、そんなにお客さんが必要なの?」


春真が首を傾げて見せると、彼女は小さく笑って、実は、とマスターが対抗意識を燃やしていることを教えてくれた。


「という訳で、300枚あったんです」

「なるほどね」

「紫村さんと、頑張って100人と目標を立ててはいるのですが」


彼女の口から零れた名前に、春真は微かに眉を顰める。


「そっか、昼間は紫村さんがいるんだよね」

「え? はい。とっても仕事が出来て、気さくな良い方ですよね」

「そう?」

「はい。喫茶店は今日初めてで不安だったんですが、的確にフォローしてくださるので、凄く助かりました」

「ふうん」

「そういえば、二人はこれからどちらへ?」


春真と少年を交互に見て、彼女が微かに首を傾げた。


「春真兄ちゃんは、楽器屋さんで、僕は本屋さんに行くところだったの」

「そうでしたか。もし急がなければ、少し早いですがお店でお昼を食べていきませんか? 手伝っていただいたお礼に御馳走、ということで、お店の売上に貢献しようと思いますので」

「え? いいの?」

「はい」

「春真兄ちゃん」


懇願するように見上げた視線に、春真は小さく苦笑する。


「雪さん、随分気に入られたみたいだね」

「え? そうですか」

「ま、俺も急いでないし、マスターにはいつもお世話になってるから協力しようかな」

「ありがとうございます」


にっこりと笑う彼女と少年と連れ立って、春真は店の入り口を潜った。


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