それは、もっともじゅうような
「御蔭で、予想以上に早く配り終えられました。ありがとうございます」
すっかりなくなったチラシに、彼女がぺこりと頭を下げる。
「健人君も、ありがとう」
「どういたしまして」
「予想より、って随分チラシの数があったみたいだけど、そんなにお客さんが必要なの?」
春真が首を傾げて見せると、彼女は小さく笑って、実は、とマスターが対抗意識を燃やしていることを教えてくれた。
「という訳で、300枚あったんです」
「なるほどね」
「紫村さんと、頑張って100人と目標を立ててはいるのですが」
彼女の口から零れた名前に、春真は微かに眉を顰める。
「そっか、昼間は紫村さんがいるんだよね」
「え? はい。とっても仕事が出来て、気さくな良い方ですよね」
「そう?」
「はい。喫茶店は今日初めてで不安だったんですが、的確にフォローしてくださるので、凄く助かりました」
「ふうん」
「そういえば、二人はこれからどちらへ?」
春真と少年を交互に見て、彼女が微かに首を傾げた。
「春真兄ちゃんは、楽器屋さんで、僕は本屋さんに行くところだったの」
「そうでしたか。もし急がなければ、少し早いですがお店でお昼を食べていきませんか? 手伝っていただいたお礼に御馳走、ということで、お店の売上に貢献しようと思いますので」
「え? いいの?」
「はい」
「春真兄ちゃん」
懇願するように見上げた視線に、春真は小さく苦笑する。
「雪さん、随分気に入られたみたいだね」
「え? そうですか」
「ま、俺も急いでないし、マスターにはいつもお世話になってるから協力しようかな」
「ありがとうございます」
にっこりと笑う彼女と少年と連れ立って、春真は店の入り口を潜った。




