それは、うたがわしいじじつ
不意に響いた呼び鈴に、緑川が雪之丞を制して立ち上がる。
「お疲れのようだからな、労ってやるよ」
これでは誰の家なのか解らないが、良くあることなので、雪之丞もひらひらと手を振って了承の意を示した。
実際セールスの類は、緑川の方があしらいが上手い。
「ありがとうございます」
「桜さんからだぜ?」
しばらくして戻ってきた緑川は、両手サイズの箱を一つ持っていた。
母親の名前に、雪之丞はそういえばと先日の電話を思い出す。
「中身は、本? にしてはでかいな」
「確か、気に入った本があるから送ると言ってましたけど」
机に載せられた箱の梱包を解いて、雪之丞は出てきたものに瞬いた。
「へぇ」
それは、布張りに金縁の見るからに高級そうな作りの厚い本。
「童話か?」
「えぇ」
僅かに目を細めて、雪之丞は金字を追う。
厚い本のタイトルは、
「妖精の子どもと雪国の王子?」
「妖精?」
「チェンジリングは知ってますか?」
眉を顰めた緑川に、雪之丞は両手を上げて見せる。
「可愛らしい人間の子どもを妖精が攫って行って、代わりに取り替え子を置いていくんです」
「つまり、それが妖精の子どもか?」
「えぇ」
「お前は攫われそうだな」
多分何気なく言ったらしい緑川の言葉に、雪之丞はぴたりと動きを止めた。
彼女は、何と言っただろうか。
「御冗談でしょう」
『その主人公がね、雪に良く似てるのよ』
母親の声が耳元で響いた。




