それは、かくされたじょうほう
「春真、ちょっといい?」
個人レッスンを終えて部屋を出ると、待ち構えていたように桃澤が腕を取る。
「何処か行くの?」
「もう、授業ないでしょ?」
「バイトがあるから、あんまり時間はないよ」
やんわりと言葉を紡ぐと途端に桃澤が唇を尖らせた。
「バイト先、結局教えてくれないの?」
「うん。秘密」
「狡いわ。黄波戸は行ったんでしょ?」
きょとんとすると、桃澤はバツが悪そうに視線を逸らす。
「ぐ、偶然聞いちゃったのよ。別にあいつが密告したわけじゃないわよ」
「桃澤は、どうして来たいの?」
「え? だって、春真が働いてる姿とか興味あるもの」
「じゃあ、やっぱり秘密」
「えぇ? どうしてよ?」
ぷくと頬を膨らめた桃澤の頭をぽんと叩いて、春真はその腕の中から自分の手を引き抜いた。
「用件は、紺谷の劇の話?」
「違うわ。遊びの誘いよ」
この間、言ったでしょ? 微かに首を傾げた桃澤に、春真は先日の教室での会話を思い出す。
「知り合いにチケット貰ったの。春真、好きでしょ?」
差し出されたコンサートのチケットに、春真は微かに瞬いた。
日付は来月の初め。
それは、サクソフォンとのライブの翌日の夕方だった。




