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それは、こううんをえてこそ
誰もいないことが、不幸だと思ったことはなかった。
誰かがいることが、幸福だと思ったことはなかった。
たーん
鍵盤に触れれば響く聲。
それは、いつだって求めるままに周りを満たしてくれた。
沢山の音の洪水が、空間を埋めるように溢れて満ちる。
たーん
触れることもなく届く聲を知らない。
そんなものがあることも、考えなかった。
そんなものが必要だとも、思わなかった。
たーん
息をするように、聲を響かせて、瞬きをするように、音に身を任せる。
多くの喝采にも、言祝ぎにも、淡泊に見えるからだろう。
『君は、どんな幸運に出会ったら心から喜び、どんな不運に出会ったら心から憂えるんでしょうね』
あの日、告げられた言葉が不意に蘇って、目が覚めた。




