それは、かけごとのしょうぶん
待ち合わせ場所で絡まれていた彼女に、春真は小さく肩を竦めた。
一人で待つ時間が長いと、声をかけられやすい。
いつもの癖で時間ぴったりに来たことを少し申し訳なく思ったので、春真はするりと彼女と男二人の間に割り込んだ。
対処を間違うと、極めて危険な人間もいる。
特に男の場合は尚更だ。
しかし見た目から爽やかな二人組は、春真の登場にあっさりと身を引いた。
宣伝効果も狙って誘った手前、厄介な相手でなかったことは幸いだった。
けれどもっと幸いだったのは、彼女があっさりと打算目的に頷いてくれたことだ。
「客寄せパンダ、了解です」
流石にそこまであからさまなことを考えてはいなかったので、思わず笑ってしまう。
それから少しだけ、彼女に興味が沸いた。
どういった外因で、環境で生活すると、こう言った性格は生成されるのだろう。
わざとらしい誘導で、屋上にあがって行くと、各階で何人かが釣れた。
屋上に設置された客席は親子連れで三分の一程度が埋まっている。
「食らえっ」
「バリアー!」
「必殺!」
ステージの周りを走り回る子供達。
世間話に興じる母親の集団。
所在なげに誰もいないステージを眺める父親らしき男達。
「屋上って良いですよね」
独り言のように紡がれた言葉に、春真は隣に目をやる。
「高いところが?」
「いいえ。移動遊園地のようなところが好きなんです」
「サーカスも?」
「はい。一夜にして出来上がるテントは、本当にわくわくします」
走り回る子供達と同じようにきらきらと輝く瞳に、春真は瞬いて、それから小さく苦笑した。




