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綺羅と嘘とその先  作者: 蛍灯 もゆる
雪の序
3/102

それは、やっかいなおねがい



特に表情を変えることもなく次の言葉を待てば、青柳は少し慌てたように手を振った。


「突然ごめんね。あ、えっとね。どこから説明したらいいかな」

「相手は、誰なんですか?」


話の筋より先に、それは聞いておきたかった。

どんな嘘かよりも、何のためかよりも、誰に対して、という方が先に知りたい。

それを予期していなかったようで、青柳は一瞬呆気にとられてそれからくすりと笑った。


「大丈夫、というのも変だけど。雪ちゃんの知らない人よ」


意味が解らずに眉根を寄せると、青柳が困ったように男を見遣る。


「どう、説明したら良いかしら」

「気になるようだから、嘘の内容や理由よりも先に彼の事を話したらどうかな」

「じゃあ、そうしようかな。意味が解らなかったり、説明が足りなかったら、その都度聞いてくれて良いから」


了承の意味を込めて頷くと、気合を入れるかのように、青柳は冷めかけの珈琲を一気に煽った。


「相手は、彼。紅野春真。漢字は、(クレナイ)に、野原の野で紅野。季節の春に、真実の真で春真、よ」


準備が良いというのかなんなのか、机の上に差し出されたL版の紙をひっくり返すと、其処に映っていたのは、写真に写ってさえ人目を惹く一人の青年。


「因みに、実物は5割増しよ」

「はぁ」


写真を見るまで半信半疑だったが、本当に全く知らない人間だ。

紅野、という苗字には覚えがない。


「あぁ。心配しなくても両親に離婚歴があったり、養子縁組制度を利用したわけでもない。生まれてから今まで、彼は紅野春真という名前で生活している」


思考を読んだわけでもないだろうが、男は補足のようにそう言って美味しそうに珈琲を飲んだ。


「そうですか」

「その、紅野春真を、騙してほしいの」


その言葉で、漸くおぼろげながら話の輪郭が見えてきた。

嘘、という言葉はあまりにも漠然とし過ぎていたけれど、騙す、というのなら話はもっと簡単だ。

わざわざ自分を指名してお願いをするのだから、多分、そういうことだろう。


「つまり、その人を相手に芝居を打ってほしい、ということですか?」


零れた溜息を受け止めてくれたのは、いつの間にか冷めてしまった珈琲だった。



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