それは、のぞまれないくりかえし
「なんか良さそうな人いたら教えてよ」
「あぁ」
肩を竦めた黄波戸は、一瞬だけ春真を見て追い払うように紺谷に手を振った。
「解ったから、また連絡しろ」
「了解。あ、黄波戸に連絡するから、王子は黄波戸から連絡貰ってね」
「連絡先、教えようか?」
微かに首を傾げた春真に、紺谷は一瞬目を見開いてから大袈裟に首を振る。
「良い良い。戦争するのは御免だってば」
「は?」
「王子のメアドなんて知ってたら、学校中の女の子敵に回すよ。渦中の人とか御免だからね」
苦笑して肩を竦めて、紺谷は大袈裟に手を振りながら去って行って、渡り廊下に上がるところで躓いた。
「あの注意力散漫さは何とかならないのかよ」
呆れたように零して、黄波戸がふと視線を戻す。
「おい、紅野」
「ん?」
「誰想像したんだ?」
「え?」
唐突な言葉に瞬くと、黄波戸が先ほど紺谷が上げた名前を淀みなく繰りかえした。
「良く覚えてるね」
「ヒーローたる者、あれくらいの暗記ができなくてどうするんだよ」
「台詞も完璧?」
「ある程度は一回読めばな」
「それはすごいね」
「おいこら、話を逸らすんじゃねぇよ」
「逸らしたつもりはないけど」
僅かに苦笑して、春真は黄波戸から校舎に視線を移す。
顔に出したつもりはなかったのだけれど。
「台本読んでると、つい人を当てて読むものなんだな、と思って」
「はぁ?」
「無意識に、黄波戸と桃澤を当てて読んでたってこと」
「まぁ、な。で?」
「うん?」
「余程想像にあった人間がいたんだろ?」
曖昧に笑って答えないでいると、まあいいやと黄波戸は肩を竦めた。
「今日、バイトだろ?」
「そうだよ」
「有言実行。今晩、聞きに行くからな」
唐突な言葉にキョトンとすると、黄波戸は幕ノ内弁当のエビフライを咥えたまま箸で宙を指す。
「昨日言ったろ。今日もヒーローは休業なんだ」
「そうだったね」
「練習室19時まで取ってるから、その後行く」
「混みそうなら、カウンター予約入れてもらうよ」
「あぁ。よろしくな」
最後の一口を食べきって、黄波戸は幕ノ内の蓋を閉じた。




