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綺羅と嘘とその先  作者: 蛍灯 もゆる
嘘つきの承
26/102

それは、あんがいおおいよのなか


「どうだった?」


嬉々として紺谷が現れたのは、例によって中庭で昼食を取っている時だった。

幸いにも中庭での昼食は人が疎らだ。

いや、確かに人はいるのだが、ベンチの距離や芝生の位置から、食堂や教室にいるときよりは悠々とした空間があるのは確かだった。

コンビニのサンドイッチをぱくつく春真と、生協の幕ノ内弁当を突く黄波戸の前に仁王立ちした紺谷は、酷く楽しそうだ。

その顔を見上げて、黄波戸が嫌そうに目を細める。


「不正直な顔したって駄目だなぁ、黄波戸。貴方の好みだってことは解ってるんだから」

「うるせぇ!」

「で、実際どうだった?」

「…悪くはねぇ」


渋々黄波戸が吐き出した言葉に、紺谷は途端に満面の笑みを浮かべた。


「だよね!」

「だがな、出るからには、気にいらねぇ部分は断固議論させてもらうからな」

「ふうん。例えば?」

「色仕掛けはいらねぇ!」

「えーそう? ていうか、色仕掛けってほどあからさまじゃないから良いと思うなぁ」

「卑怯だろ」

「何言ってるかねぇ。女の子が自分の武器で戦って何が悪いのさ。守られるだけのヒロインなんてつまんないじゃない。まぁ、その辺りは実際やってみて考えようよ」


不満げにけれど頷いた黄波戸から、紺谷が春真に視線を移す。


「王子は? どうだった?」

「うん。面白そうだと思うよ」

「じゃあ、出てくれるよね? 本当助かるよ」

「なぁ」

「なに、黄波戸?」

「本家は何やるんだよ?」


彼女が率いる演劇サークルが文化祭を二本立てで構成することは周知の事実だ。

所属部員だけでなる一本と、学生会と連動した所属員以外を主役にした一本である。

ある時期までは、事前に行われる学内人気投票と連動していたのだが、最近はサークルと学生会の総意で人選に当たっているらしい。

とはいえ、客足に影響するので、サークル側では人脈の広い人間や、それこそ人気投票の上位に上がりそうな人間をリサーチしてアタックをかけているらしい。


「なに? 気になる?」

「まぁな。こっちがファンタジーだと、現代劇か?」

「簡単に言うとね、現代版ピーターパンが近いかな」

「はぁ?」

「大人にならない子どもと、いつか大人になる子どもの話だよ」


訝しげな顔をしたままの黄波戸に、紺谷はけらけらと笑う。


「まぁ、楽しみにしてなよ」

「紺谷は、こっちも出るのか?」

「出ないよ。そうなんだよ。キャストがね」


唐突に考え込むように紺谷が腕を組んだ。


「何人か決まってないんだよね」

「は?」

「いや、ほら。うちのメンバーは割り振りしたんだけど、君たちの台本に出るメンバーがまだ足りなくてさ」

「例えば?」


春真が尋ねると、紺谷はさらさらと登場人物の名前を口にして指を折る。

その中には、春真が台本を読みながら目を止めた一人の脇役の名前も挙がっていた。


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