それは、れんたいかんをうむ
緑川は料理がうまい。
見た目は何の変哲もないポテトオムレツだが、雪之丞が作るものとは雲泥の差だ。
雪之丞の料理は、人に出してもまぁ問題ないレベルの料理だが、緑川の料理は胸を張って人に出せるし、お金を取っても良いくらいだ。
派手な料理は作らないが、家庭料理にかけては天下一品だと雪之丞は常々思っていた。
「報告できるほど、解ったことがありませんけど」
出された朝ご飯を確実に消化しながら、雪之丞は肩を竦める。
その答えに、身体ごと振り返った緑川が眉を顰めた。
「なに言ってる? 第一印象が肝心じゃねぇか。インパクト与えろよ」
「過ぎたことを言われても、今さらどうしようもありません」
僅かに片目を眇めて、緑川は少しばかり悩むように腕を組む。
「何考えてるんですか」
「吊橋効果と共戦はどうだ? 手っ取り早く仲良くなれるだろ」
「どんな例えのつもりですか?」
唐突な台詞に雪之丞が眉を顰めると緑川はにやりと笑った。
「死に立ち向かった二人が、思いがけず生き延びて結ばれるってのは良くあるだろ?」
「ドラマの見すぎです」
あっさりと切って捨てて、雪之丞はロールパンを口に運びながら溜息をつく。
「だいたい、結ばれる必要はありません」
「お前、その餓鬼に口説かれたいんだろ?」
「誤解を生む発言は止めてください。頼まれたのは、あくまで原因究明です」
「青柳社長の話じゃ、お前に惚れさせてこっぴどく振るってニュアンスだったぞ?」
「確かに、始めはそういう話でしたけど、青柳さんも納得してくれましたよ」
「どうだろうな」
嫌そうな視線を向けると、緑川が微かに笑った。
「まぁ、頑張れよ」
「他人事だと思って、楽しそうですね」
「お前、本当お人よしだよな」
「褒められてる気がしません」
「褒めてるだろ。だから、こっちもよろしくな」
「ちょ、」
「打ち合わせの日程は、調整してまた連絡いれる」
それきり振り返らずにひらひらと手を振って、緑川が部屋を出ていく。
机の上のCDと絵本をちらと眺めて、雪之丞はもう一度小さなため息を零した。




