それは、あるいはほめことば
大学の学食というのは安くて適当な味であれば割と文句はでない。
安くて美味しけるば言うことはないが、そうなると学生以外が大量に入ってきて混み合うことになる。
美味しいよりは、限りある時間で食べられることが求められているわけで、結局適当な味と言うのが一番妥当なのではないかと思う。
380円の日替わり定食を突きながら、ぼんやりそんなことを考えていると、唐突に肩を叩かれた。
「やっほー、王子」
にこにこと笑うのは、演劇サークルの部長。
平均を飛び越えても平気でぐんぐん伸びたらしい身長は、男に混ざっても遜色ない。
カレーライスを口に運んでいた黄波戸が、先に気付いてスプーンを口にしたままひらひらと手を振った。
「よう、紺谷。久しぶりだな」
「やぁ。相変わらず小さいねぇ、黄波戸」
「そんな簡単に伸びるわけねぇだろ」
「そうだよねぇ。もう少し大きかったら、黄波戸にも王子やってもらいたいんだけどなぁ」
「止めろ。王子とか、鳥肌が立つ」
黄波戸にスプーンを突き付けられて、紺谷はけらけらと笑った。
「ヒーローは好きなのに王子はダメとか、本当ウケるんだけど」
「はぁ?ヒーローは王子なんていう軟弱な野郎とは違うんだよ」
「でも王子はヒーローだよね?」
紺谷に話を振られた桃澤が当たり前だというように呆れて頷く。
「ヒロインが姫なら、王子はヒーローに決まってるじゃない」
「だよねぇ。それに鑑みれば、黄波戸も王子になるわけだよ」
「ないわ!」
「ねぇよ!」
見事にハモった桃澤と黄波戸に、紺谷は楽しそうに口笛を吹いた。
「息ピッタリ。折角だし、文化祭の演劇で王子と姫やらない?」
「はぁ?」
「嫌よ。春真が王子なら考えてもいいけど」
「心配御無用。抜け目はないよ。王子にも良い役用意してるから」
「別に俺は出なくて良いよ?」
小さく笑うと、途端に紺谷がちっちっと指を振る。
「勿論、出てもらいたいって。王子が出ると動員数も違うからね。だから、脚本が出来上がったらまたくるよ。楽しみにしてて!」
来たときよりも数倍高いテンションで飛び出していった紺谷は、そして、学食の入口で派手にこけた。




