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最弱は最強!!!  作者: ハムハム
合宿編
8/20

第8話 移動中のバスの中

どうぞ読んでください。

合宿当日、太陽は快晴で初春にしては暑いくらいの陽気だった。

今年入学した新入生312人は1人も休むことなく学校の校庭に集まっていた。ルベリエール魔法学校の校庭は312人も余裕で入るほど広く、サッカーグラウンドが四つ入るほどの大きさだった。

その中で新入生たちは一か所に集まりながらも、思い思いの時間を過ごしていた。レンとジルはそんな人ごみから外れ、校庭の周りにある草むらの上でレンは本を読み、ジルはその隣で寝そべっていた。そして人ごみの中をリエラは1人の友人を探していた。


「あっ、シリカさん!!」


リエラは探していた友人を見つけ、小走りで駆け寄った。シリカも自分を呼ぶ声に気付き、リエラに手を振っていた。


「おはよう、リエラ」


「おはようございます、シリカさん」


お互い、小さく微笑みながら朝の挨拶をした。


「もうバスが来ていますね」


「そうね。早くバスに乗って、この暑さから解放されたいわね」


「本当ですね」


そんなことを言うシリカにリエラが苦笑しながら同意する。ちなみにこの世界のバスとは船のような形状をしており、陸上を滑るように移動する乗り物だ。普及し始めたのもここ数年の事で庶民のは今だ高額なため、誰でも乗れるというものではない。

シリカにリエラが話していると校舎から合宿の引率の教師たちが出てきた。先頭を歩いているのは、学年主任のゴルバ・シギール先生だった。シギール先生は年齢は40代後半だが、十三師団の小隊長をしていた経験があり、その体は程よく筋肉がついていた。

ゴルバ先生が金の髪が薄くなっている頭を掻きながら、大声で言った。


「全員整列しろ。これから各クラスの先生方とは別に引率する先生方を紹介するぞ」


シギールが生徒たちの前に3人の先生方を並べ、1人ずつ説明していった。


「まずはお前たちから見て、右側の先生は魔法戦の講師ガイウス・ローラン先生だ」


ゴルバから説明を受けると体格のいい先生が軽くお辞儀をした。歳の頃は30代前半、体は筋肉で覆われ、いかにも体育会系な感じだ。顔もゴツく、赤い髪を短く切り、立たせていた。

また、ガイウスが教えている魔法戦は一対一の魔法戦を教える学問の事をいう。


「続いて、真ん中の先生は魔戦術学のウリウス・べリスト先生だ」


今度の先生も軽くお辞儀をした。歳は60代前後で腰が少し曲がっている年老いた先生で、体も細く、青い髪が軽く薄くなっていた。

また、ウリウスが教えている魔戦術学とは魔法を使った戦術の事で小隊長格には必ず必要な学問の事だ。


「最後に保険医のルナシス・ルーナリア先生だ」


ゴルバが保険医の先生を紹介すると整列していた生徒達は驚いた顔をし、今まで静かだった生徒たちがざわめきだした。そんな中、ルナシスは前2人と同じようにお辞儀をして下がった。


「質問があります」


ざわめいている生徒たちの中から、シリカが手を挙げた。


「何だ、ブレイズール。質問か?」


「はい。ルーナリア先生は月のルーナリア家の人ですか?」


ゴルバに質問を許可されて、シリカはざわめいている生徒たちを代表して聞いた。その質問にシギールは眉を寄せ、ルナシスに視線を向けた。その視線にルナシスは小さな笑顔でうなずき、一歩前に出た。


「えぇ、そうですよ」


「なんでルーナリア家の人が保険医をしているのですか?」


「別に深い意味はないわ。保険医は私の夢だったから保険医になったの」


実に簡単で分かりやすい理由だった。しかし、シリカは納得できていない顔をした。当然だ。月のルーナリア家の現頭首は王立魔法師団の第四魔法師団の団長を務めており、彼女も余裕で入団できたはずだ。魔十導家の人間は国から様々な特権が与えられているため魔法師団に入り、国を守る責任がある。それにルーナリア家は娘が2人いて、彼女はその長女。つまり、次期頭首候補筆頭ということになる。それなのにこんな所で保険医をやっているルナシスをシリカは許せなかった。シリカは拳を握りしめながらルナシスを睨み、口を開こうとした時、別の方から声が飛んできた。


「ブレイズール、お前が何を言いたいのか何となく分かる。分かるが今はやめろ。後で本人同士で話し合え。いいか?」


「分かりました」


激しい口論になりそうな雰囲気だったがゴルバにより、この場では口論にならずにすんだ。引率する先生方の紹介が終わり、全員がバスに乗るために移動を開始した。荷物は先に合宿場へ贈ってあるため、みんなハンドバックやリュックなどの荷物を持ち、続々とバスに乗り込んでいった。


「レン・ルベリエール、ちょっと来い」


レンはジルとバスに乗り込もうとした時、ゴルバがレンを呼び寄せた。


「何か・・?」


「先ほどハンツ理事長補佐が来られてな、この封筒をお前に渡してくれ、と頼まれた」


シギールは1枚の封筒をレンに渡した。レンは眉を寄せながら封筒を開き、中身を覗いた。その中には紙が数枚入っており、取り出そうとした時、シギールに止められた。


「それはバスの中で見ろ。もう出発の時間だ」


「分かりました」


そう言うと、レンは紙を封筒の中へ戻し、再びバスへと向かった。


---------------------------------------


「何もらったんだぁ?レン」


バスの前方の席でハンツからの封筒を見ていると、隣に座っていたジルが話しかけてきた。


「ここ最近の魔物の動きだね。近頃、北の魔物が東の方でも見かけられているみたいだ」


「北の魔物というと・・・、暴食王かぁ?」


「たぶん」


「うへ~、マジかよ。三年前みたいな戦争はこりごりだぜぇ~」


この世界には人類以外の種が多数存在している。獣人、エルフ、幻獣人、龍人、そして魔人。それぞれの種の間にはここ100年以上争いも交流もないが、魔人やその配下の魔物は頻繁に他種の領土に侵攻してくる。魔人たちは力こそが絶対で、そのため自分の領土を増やすため、または魔人たちの頂点に立つために他種に戦いを挑むのだと考えられている。そして、現在魔人・魔物達には七人の王がおり、それぞれの領土で魔人・魔物の頂点に立っている。暴食王は七人の王の1人だ。アルファスの北にある魔の山[食王山しょくおうざん]を領土とし、たびたびアルファスへ侵攻してくる。


「まったくその通りだね」


レンはジルに同意しながら、溜息をついた。すると、ジルはふと何かを思ったらしく、真剣な面持ちでレンに振り向いた。


「しかし、なんでハンツさんは今その資料をお前に渡したんだぁ?それを見せる相手はお前じゃなくて、魔法師団の方だろぉ?」


「理由は分からないけど、なんだかこの合宿がキナ臭くなってきたような気がする」


「ったく、お気に入り様はモテモテだねぇ~、こっちまでとばっちりが来なきゃいいけどなぁ~」


「それはあまり期待できないと思うね。あっちは俺とお前をセットで考えてるだろうから、俺に厄介事が来たらもれなくお前も一緒ということになると思うね」


「あっはっはっはっは~」


「あっはっはっは」


「「は~~~~ッ!!」」


2人は空笑いした後に盛大に溜息をついた。そしてレンは、(こんなに気苦労していると早く老けそうだな~)と心の中で思った。


---------------------------------------


「そっか、ジル・アースガンに聞いたんだ。私とあいつの事」


レンとジルがバスの前の席で話している時、後列の席でジルからレンとシリカの関係を聞いたことをリエラはシリカに言った。


「私のこと、幻滅した?」


「いっ、いいえ」


シリカの問いかけにリエラは反射的に答えた。それを見てシリカは小さく笑った。


「リエラは嘘をつくのが下手ね」


「あぅぅぅぅ」


恥ずかしくて顔を真っ赤にしているリエラを見て、シリカは笑っていたが、笑い終わると小さく息を吐き、困った顔で窓の外へと視線を向けた。


「ま、軽蔑するのも分かるけどね」


「あっ、あの・・・。なぜそんなことを?」


「知っているでしょ?魔十の一族は力が全てになっている。力の無い者が一族内にいると何処かでそこに付け込まれる。ならば、力の無い者は一族内には必要ない。いてはいけない存在なのよ」


「し、しかし」


「貴方のハイヒールだって、そうじゃなかった?私たちは魔十導師の一角、この国を守るために最前線に立ち、守らなければならないの。その代わりに様々な特権が与えられている。権力だろうと魔法だろうと力を持てばそれに比例して責任が生まれる。だから、力の無い者がブレイズールを名乗ってはいけないの。ブレイズールの名には責任があるから」


シリカの言葉にリエラは何も反論できなかった。リエラもハイヒールの人間だからこそ、シリカの言うことには納得できた。しかし、珍しくリエラは引かなかった。可愛い顔で精一杯怒った顔をしてシリカを見つめ返してきた。


「しかし、いくらなんでも子供を傷つけていい理由にはなりません。魔法を当て、体を刃物で傷つけ、何度も殴り、挙句医者にも見せないなんてあんまりです」


リエラの小さいけど怒鳴る声にシリカは驚いて、引いてしまった。シリカが引いたのに気付き、リエラは慌てて、口元を押さえ「ごっごめんなさい」と小さな声で謝った。幸い周りが騒がしかったおかげで他の人には聞こえていなかったようだ。リエラは聞かれていなかったことに安堵してシリカの方を見つめ直した。すると、シリカはまだ驚いたまま固まっていた。


「あっ、あの・・・」


「どういうこと?」


「え?」


今度はシリカがリエラに詰め寄った。


「刃物の傷?医者に見せていない?なによ、それ。詳しく聞かせて」


「え、えっと・・・。ルベリエール君は毎日魔法を当てる練習台にされて、皮膚は最早炭化しているところがあったり、刃物で切られたり刺されたり、殴られたせいで内臓や骨を折られていたり、それでも医者に診てもらうことを許されなかったりしていたと聞きましたけど・・・」


「私はそんなの知らない」


「え?」


「刺された?魔法を当てられていた?骨を折られてても医者に見せてもらえなかった?・・・そんな!」


シリカは何かにショックを受けたように視線を下へ向けた。


「知らなかったんですか?」


「えぇ、私はあの人とは離れて暮らしていましたし、傷つけられているところも見たわ。でも、そこまでされていたなんて知らなかった。せいぜい子供同士だったから皮膚が炭化するまでやられていたなんて・・・」


「いえ、おそらく子供では炭化するまではいかないと思います」


「えっ?」


シリカはリエラの方へ振り向いた。


「子供だけではありません。大人も交じっていたそうです」


「なんですって!!!」


「ブレイズール君の体には明らかに子供では使えないような魔法の痕跡もあったそうです。ジル君は言葉を濁していましたがおそらく大人たちも彼を・・・・」


「そんな・・・」


シリカはもうどのような表情をしているのか自分でも分からなかった。ただ、リエラの言葉に何も言えなくなり、うつむくことしか出来なかった。シリカにとっては信じたくない話だった。シリカはレンを追い出したことに今でも異論や反対はない。しかし、子供の頃のイジメには負い目を感じていた。子供だったからといってやってはいけないことをしたと思っていた。だからこそ、委員長を決めた日、彼は自分たちに恨みは無いと言って、少し気が晴れた。そんな気がしていた。しかし、そこまでの傷を負わされたことを知った後では、あのとき言った「恨みは無い」と言う発言は異常だ。そこまでされ、普通は許せるはずはない。そう考えているとシリカの目に、急に涙が込み上げてきたり、体が震えたりともうどういう気持ちなのか自分でも分からなくなっていた。


「シリカさん?」


シリカの様子がおかしいことに気付いたリエラが、シリカの顔を覗き込んできた。リエラに気付いたシリカは表情を見られないように顔をそむけた。


「何でもないわ」


「・・・・・」


リエラは心配そうな表情をしていたが、シリカも気持ちをくんでそれ以上何も言わなくなった。


「ありがとう」


シリカは何も言わなくなったリエラに素直に感謝した。


「い、いえ。私も知ったような口をきいて、すいませんでした」


反射的に答えたリエラは、シリカと向かい合うような形になり、2人とも微笑みあった。


「さっきは言い忘れましたが、ジル君は先ほどのルベリエール君の過去の事は気にしなくていいと言っていました」


「どういうこと?」


「ジル君が言うには、ルベリエール君はすでに過去の事へのけじめは決めているそうです。だから、気にするなとおっしゃっていました」


「そう」


シリカはまたも視線を下へ向けた。しかし、直ぐに顔を上げると意地悪い笑みを浮かべてリエラを見返した。


「ところで、ジル・アースガンを[ジル君]って呼ぶなんてあやしいわね」


「ちっ、ちっ、ちっ、違います。前に一度ジル君に助けてもらったことがあって、その時に仲良くなったんです。シリカさんが考えているような関係ではありません」


意地悪い笑みを浮かべているシリカにリエラは顔を真っ赤にしながらリエラに言い返した。


「ふふふ」


「シリカさ~ん、違いますからね」


シリカはリエラをからかっている間もバスは目的地へと向かっていった。

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