第4話 魔法学校の入学式前
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レンがブレイズール家を追い出され、6年の歳月が過ぎた。
ここはアルファス内でも屈指の名門校ルベリエール魔法学校。そこでは、今日入学式が行われており、300人近い魔導師が入学した。
「シリカ様、ご入学おめでとうございます。流石ですね、魔法学校高等部の学年三位なんて凄いですよ」
その学園の一角で、赤い髪をした少年少女、数人の大人達がシリカと呼ばれた少女を囲み、集まっていた。
「まだまだよ。お姉様は去年、学年一位で入学したのに、私には三位がやっとだった。まだまだ頑張らないと」
「しかし、シリカ様の世代は優秀な魔導師が揃いましたな。他の4人もそれぞれ、イルサが五位、ダイキが六位、ホルヌが八位、ヴァリーが十位となっておりますし、扱いが難しい魔法を15歳で習得されたシリカ様には我々も驚きました」
5人の大人達の中から、やせ細った50歳近い男が言った。そこに集まっていたのは、ブレイズール家の頭首と次女とブレイズール分家現頭首と次期頭首達、
ブレイズール家現頭首ヴァイアス・ブレイズールとその娘シリカ・ブレイズール、
分家スフレーヌ家現頭首カイン・スフレーヌとその息子ダイキ・スフレーヌ、
カキヌース家現頭首サイモン・カキヌースとその息子ヴァリー・カキヌース、
アイリス家現頭首ツヴァル・アイリスとその息子イルサ・アイリス、
ネイチャール家現頭首ダリル・ネイチャールとその息子ホルヌ・ネイチャールが揃っていた。男子は白いブレザーに白いズボン、女子は白いブレザーに白いスカートと黒いタイツを履いていた。この学校の制服だ。
「そうね、確かにカインの言うとおり、難しい魔法だったけど、今はこれがあるもの」
そう言って、シリカは右手につけている十個の玉が付いたブレスレットを指差した。
「この[ディアマンテ魔鉱石]から作られた[レベリー結晶]のブレスレットがあるから出来たことだからね。出来て当然よ」
とシリカは得意気に言った。
ディアマンテ魔鉱石は何処にでもある普通の魔鉱石だったが、二年前、1人の天才によって魔法技術の進歩へと大きく役立てられた。天才の名はレベリー・クライスタール。ただの魔鉱石だった物を結晶化し、魔法発動への補助ブースターへと進化させた人物だ。そのおかげで人の使える魔法の幅が広がり、新魔法を幾つも開発させ、魔法学を飛躍的に発展させた。
「確か、姫さんの憧れの人だったよな~、その男」
「こらサイモン、シリカ様に失礼ですよ」
「おっと、失礼」
やる気のない間延びした喋り方のサイモンに姿勢も服装もしっかり整え、背筋を伸ばして立っていたツヴァルが注意した。
「別にいいわ、ツヴァル。いつものことだもの。でも、そうね。レベリー・クライスタールは私の憧れ、目標にしている1人だもの。魔法をここまで進歩させたし、転落寸前だったルベリエール魔法学校を立て直してくれたのも感謝しなくちゃね。レベリー・クライスタールがこの学校を立て直してくれたお陰でお父様と同じ学校に来れたんだもの」
「怠ること無く、精進しろ」
「はい、お父様」
ヴァイアスは苦笑しながら言い、シリカは満点の笑顔で言った。その笑顔に同じく入学する4人と、その周りにいた新入生達の顔を赤く染めさせた。
「オホン、しかしレベリー・クライスタールとは誰なんでしょうね。名前は偽名っぽいですし、噂ではルベリエール家の人間と言う話ですし…」
イルサは熱くなったその場の空気を振り払うために話を元に戻した。
「別に誰だっていいわ。それに彼だって今はまだ忙しい時期でしょうし、レベリー結晶を造れるのは彼だけだって話だしね。今はあちこちから注文が殺到してるでしょうしね」
レベリー結晶は誰にでも造れる訳ではなく、現在ではレベリー・クライスタールしか造れず、作っても1日一個が限界らしい。それでも、国や名門魔導師の家からも注文が殺到している。また、他国もこの技術を盗もうと必要以上にレベリー・クライスタールを捜していると言う。それで、国で護衛した方が良いのではないか、と再三に渡ってルベリエールに言っているが、返答は「レベリー・クライスタール本人が不要と言っているため、必要無し」と返されるだけだった。
「今も忙しく働いているのではないかしら」
「そうですね、もしくは忙しすぎて泣いているかもしれませんね」
イルサの言葉にその場の全員が笑った。
その時、シリカの目は捉えた。シリカは他の9人と向かい合っていたため、シリカだけが気付いた。その場から遠ざかって行く男子生徒に。
「なぜ?」
シリカの突然の変化と言葉に、その場の全員が笑うのを止め、シリカを見た。
「シリカさま、どうかなさったんで?」
シリカに近付きながらダイキは聞いた。しかし、シリカはただ呆然と一方を見つめていた。そして、その場の全員もシリカが見ている方へと目向けた。目向けた瞬間、全員言葉を失った。彼らの目線の先には、白いブレザーに白いズボン、腰に刀を差し、そして胸に花の飾りを付けていたため、今年入学した一年生だろう。しかし、シリカ達が最も目を引いたものは彼の髪。腰まで伸ばした一片の曇りもない真っ白い髪に、シリカ達は1人の少年の事を思い出していた。ブレイズール家から追い出した少年の事を。
シリカは走り出し、その男子生徒を追いかけた。シリカに続いて、その場の全員が走った。
シリカは男子生徒に走り寄り、その腕を掴んだ。腕を掴まれた男子生徒は振り向いた瞬間、シリカと後を追ってきた全員が息を呑んだ。そこには身長175㎝位で、掴んだ腕から、体には筋肉が引き締まっている事が分かり、顔も整った顔立ちをしていたが、シリカ達はその顔に面影を感じた。
「レン兄様!!?」
「ん?…あっ!もしかしてシリカ・ブレイズールさん?これは懐かしいですね。分家の方もお集まりとは…。皆さん、この学校に入学したんですね」
レンは始め、誰だか分からなかった様子だったが、直ぐに思い出し、微笑みながら話し始めた。レンが魔法学校にいることと、始めて見た笑みに驚いて、シリカ達は沈黙してしまった。その中で唯一、レンに鋭い視線を向けていたヴァイアスが口を開いた。
「何故、ここに貴様がいる?ここは魔法学校、貴様みたいな無能者がいて良いところではない」
「私も魔法学校の新入生ですから、居るのは当然ですし、魔法も少しは使えるようになりました。と言っても貴方達に比べればか細い力ですけどね」
ヴァイアスの怒気の孕んだ声に全員が冷や汗を流している中、レンだけが気にした様子も無く、平然と言った。
「貴様には最早名はない。名もない貴様が一体どうやって、この魔法学校に入った。まさかブレイズールを名乗ったわけではあるまいな」
「ブレイズールの名に今更興味は有りません。それに、今は新しい名でレン・ルベリエールと名乗っています」
「ルベリエール!!」
「では、レン兄様はルベリエール家に?」
「えぇ、ルベリエール家に養子に入りました。なので、今の私はもうブレイズール家の人間ではありません」
シリカ達は本日2度目の驚きに誰も声を発することが出来なくなった。その時、
「レン、こんな所で何やってんだ?もう迎えが来てるぞ」
レンの反対側から1人の男子生徒が近付いて来た。その男子生徒は茶色に少し金色が混じった髪に眠そうな顔し、着ていた白い制服の胸には花の飾りが有ることから、彼も新入生であることが分かる。
「ジル」
「なんで、ブレイズールの姫さんがお前の腕掴んでんだ?」
「さぁ~、離れたくないんじゃないかなー」
ジルはレンの腕を掴んでいるシリカを見ながらレンに質問し、レンはシリカを見て、ニヤニヤしながら答えた。
「ッツ!!!」
シリカはレンを捕まえてから、ずっと掴んだままの手に気付き、急いで手を離し、紅い顔のままレンを睨み付けた。しかしレンは、ニヤニヤしながらシリカを見返した。
「オィオィ、見つめ合うのはいいが…レン、迎えが来てるんだってば…」
ジルの言葉に更に顔を紅くして、シリカは視線を逸らし、それを笑いながら見ていたレンもジルに目を向けた。
「分かった。校門でいいんだろ、急ごう」
「おまえが待たせてたんだっての」
「それでは皆さん、私はこれで失礼します。良い学園生活を…」
レンはもう一度シリカ達を見て、校門に向かって歩いて行った。
「あの野郎、何様のつもりだ」
「まったくだ」
ダイキとヴァリーが去っていくレンを見ながら口々に、イルサとホルヌ、分家現頭首達も不機嫌にレンを睨みつけていた。しかし、シリカとヴァイアスだけは違った目でレンとジルを睨んでいた。
「お父様、あのジルと呼ばれていた男…もしや」
「あぁ、恐らくそうだろう。土の名門アースガン家の異端児、ジル・アースガンだろう」
「やはり」
シリカとヴァイアスの会話に分家の面々も加わってきた。
「ジル・アースガンか…石や土を使って攻撃する土魔法なのに対し、奴はまったく別系統の魔法を使うと聞きますね」
「そんなのはデマだろ、デマ」
「しかし、実際に戦った者もいます。それを忘れてはいけません」
「ツヴァルの言うとおりだぞ、サイモン。気を付けるに越したことはない」
「関係あるか、儂等は最強のブレイズール一族だ」
ガハハと大口で笑うサイモンにカイン、ツヴァル、ダリルは呆れた。
「おぉー、その通りだぜ、父ちゃん。アースガンなんか雑魚さ」
「そうだぜ、親父。ブレイズールは最強さ」
「オラもそう思う」
サイモンに続いて、ヴァリー、ダイキ、ホルヌも笑い出した。
「甘く見るな。相手も最強の一角を統べる一族だ。慢心は命とりだぞ」
ヴァイアスの厳しい叱責に4人沈黙した。
「お父様、そろそろ会場に向かいましょう。入学式が始まってしまう」
「そうだな、ゆくぞ」
ヴァイアスとシリカは入学式の会場に向かって歩き出し、呆れていた4人も後をついて行った。そして、叱責された4人も冷や汗をかきながらも少し遅れて後を追った。そんな中、シリカは考えていた。
(あの2人も新入生で、これから入学式なのにどこ行ったのかしら…)
シリカは歩きながら考えていた。
シリカ達が会場に向かっていた頃、レンとジルは2人を迎えに来たリムジンの中にいた。
「あれがブレイズール一族かぁ、あれで本当に強いのか?」
「強いんじゃないの?俺も実際に彼らが戦っている所は見たこと無いから分からないな」
車内で2人は、先ほどあったブレイズール一族の事を話していた。
「オィオィ、お前も元はブレイズールの直系だったんだろ?」
「直系とか関係ないよ。ブレイズールでは力が全てだったからね。力の無い者は忌み嫌う連中さ」
「力が全て…かぁ。ならあいつ等の底が知れるな。お前を力の無い者と決めつけてたんだからな」
「元々、力は無かったよ。…いや、気付かなかったと言う方が正しいか」
「どっちだっていいさ、今やこの国でお前に適う奴なんかいないよ」
「それは大袈裟過ぎ…」
「大袈裟なもんか。全てを切り裂き、全てを防ぐお前の魔法…いや、アレは魔法じゃないか…。とにかく、お前の力は強い」
「ずっと、研究し続けて手に入れた力だからな。でも、この力のせいで今も魔法は使えないけどね」
「魔法は使えないが、今のお前はこの国に必要な男なんだぜ?だから、その力、存分に使えよ」
「そうだな、この力じゃないと出来ない事が有るからな」
「あぁ」
走っていた車は街から少し離れた所に建っている建物の中に入り、停車した。そして、秘書らしき女性が車のドアを開けた。
「お待ちしてました、レン様」
「違うよ、セン。ここでの呼び方は…」
「失礼しました。…お待ちしてました、レベリー・クライスタール様」
「そうだ、…さぁー、研究室へ急ごうか」
ここはルベリエール家が所有する研究所。世に言う[レベリー結晶]が、ここで造られている。
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