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最弱は最強!!!  作者: ハムハム
因縁編
19/20

第19話 本音

忙しい中、少しずつ書いていったので、前後で文脈がおかしくなっている所があるかもしれません。その時は連絡をお願いします。

「レンッ!!」


「やめろ、メアリ」


メアリが驚いた顔でレンに何かを言おうとしたがヴァイアスによって止められた。そして、ヴァイアスは真剣な顔で見つめているレンに同じく真剣な顔で見つめ返す。


「それが・・・、お前の望みか」


ヴァイアスは静かに聞き返す。


「あぁ」


「そうか。それがお前の望みなら・・・、良かろう。受けて立つ!!」


「お父様!!」


ヴァイアスはレンを睨みながらハッキリと宣言した。ヴァイアスが宣言すると同時に強大な殺気を放つ。その視線は正しく敵を睨む眼。自分、一族の外敵に向けられる視線だった。普通の者なら立っている事すら出来ないほどの濃密で強大な殺気はその場にいる普通ではない者達でさえ震え、後ずさるほどだ。しかし、レンだけはその殺気を浴びて、笑みを浮かべている。


(これが真のブレイズール一族の当主、ヴァイアス・ブレイズール!)


この数刻、何度もこの男の情けなくて弱い姿を見て落胆したが、今現在の姿は先ほどまでの姿が夢や幻かと思わせるほどの巨大な存在感を出していた。これがアルフォス最強の火の魔法師、ヴァイアス・ブレイズールの姿。レンはその事を再確認出来た事に心の底から歓喜した。この男を恨み、憎み、憎悪し、そして超える。そのために付けてきた力をようやく試せる所まで来たのだ。恐れなど感じない、畏怖など感じない、あるのは只歓喜だけだった。しかし、今はまだ我慢の時。大声を出して笑いたい衝動を何とか抑え込み、レンはそっと目を閉じながら笑みを殺す。それを見たヴァイアスも静かに殺気を押さえていき、視線をレンから外し、メアリへと向ける。


「メアリ、私達も行くぞ。出立の準備をしなければならん」


「えっ、あっ、お、お父様・・」


メアリは先ほどのレンとヴァイアスの衝突から我を取り戻せていないのか、ヴァイアスの言葉に気の抜けた声で返事をした。


「行くぞ」


「あ、はい」


ようやくメアリは何を言われたのか認識出来る位に我を取り戻せたのかヴァイアスの後を追いかけていく。一度、レン達の方をチラ見したがレンは気付かないフリをしてその視線を無視した。


「すっげぇーなぁー。あれがヴァイアス・ブレイズールか」


ヴァイアスとメアリがその場から居なくなるとジルが冷や汗を垂らしながらレンに近づいてきた。


「ビックリしたぜぇ。正直さっきまでの姿を見ていると本当に魔十導家の当主か疑いたくなったが・・・、いやぁー、あれには驚かされたぜぇ」


「確かにのぅ。妾が人に恐れを抱いたのは初めての経験じゃ」


「私もです。これほどの殺気を放つ人間とは会った事がありません」


ウラルとユキも同じように冷や汗を垂らしていた。


「それはそうだろうね。ヴァイアス・ブレイズール。奴は過去の火属性魔法師の中でもトップクラスの実力者らしいからな」


「そうなのか。それなら納得じゃな」


「人間の中にも強いお人はいますからね。それも過去トップクラスとなると相当の実力者なのでしょう」


レンがウラルとユキにヴァイアスの事を話すと、2人は納得したように頷き合った。魔人は人間に比べて長命なため、見た目十代位なのだが実際は何百歳も生きている。過去に同じような人間と相対した事があるのだろうと思い、レンは2人から眼を離し、イリアが寝ている部屋に戻るため、元来た道を戻り始める。


「そう言えば俺達はどうするんだぁ?」


レンが元来た道を歩いていると、隣に並んで歩いているジルが顔を向けながら聞いてきた。


「どうする、とは?」


「俺達も奴らと一緒に呪いの術者の所に行くのかってことぉ」


もっともな疑問だった。ここまでイリアの病について解き明かしてきたのはレンだ。それにイリアの状態を見て、レンは「面白い」と言った。当然その術者にも興味があるだろう。だが、レンはそれに興味の無さそうな顔をジルに向ける。


「行かないよ。術者には興味ない」


「そうなのかぁ?」


「あぁ、興味あるのは術式だけだからな」


「そっかぁ。なら、大人しく待っているとしましょうかぁ」


「ウラルとユキはどうする?興味あるんなら連中と一緒に行っても構わないよ」


レンは歩きながら後ろにいるウラルとユキに向かって話しかけた。


「妾は別にいいのぅ。天才と言っても所詮は人間の上、呪いなど使うひきこもりに興味は無い」


「私もです。私はレン様と共にいます」


2人はまるで興味の無いように言ったが、そう見えるように振舞っているだけだとレンには分かった。しかし、レンは2人が何を考えているかが何となく分かっていたために、それ以上その話を続けずにゆっくりと歩を進める。2人はきっとレンの事を心配したのだろう。どんなに強くても、どんなに精神力があっても、ここはブレイズール一族の本邸。レンにとってはトラウマの塊のような場所だ。何かあった時、自分に出来る事があるかもしれないと思った2人はレンと一緒にいる事を選んだのだ。レンはその事を察し、ウラルとユキのその思いに嬉しくなり、小さく笑いながら本家へと歩いて行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お父様、どうするのです」


レン達と別れて直ぐ、メアリはヴァイアスに聞いた。


「どうする、とは?」


「レンとの決闘の事です」


メアリは真剣な顔でヴァイアスを見ていたが、ヴァイアスは顔を向けずにメアリの話を聞いていた。


「今のレンは私達が想像もしなかったほどの力を身につけています。そんな彼とまともに戦えばお父様もレンもただではすみません。それに、彼は恨んでいる私達に協力してくれたのですよ。もっと他の方法で恩返しをするべきなのでは・・・・」


「そんな事、お前に言われんでも分かっている!」


「ッ!!」


「レンは馬鹿では無い。私の立場も己の立場もしっかり認識している。だが、それでも奴はこの望みを言った。私への恨みか、過去の自分への決別かは知らんが、奴には覚悟は出来ているのだろう」


「・・・」


「それに奴も私の子。捨てたとは言え、我が子にはやはり期待してしまう」


「お父様・・・。後悔なさっているのですか?レンを一族から追放した事を・・」


「後悔、か。さぁ、どうだったか・・」


ヴァイアスはハッキリと答えずに1人、屋敷へと歩んでいった。そんなヴァイアスの後ろ姿を見ながら、メアリは自分の問いが当たっている事を確信し、何故か寂しさを感じた。


「お父様、貴方は何がしたかったのですか・・・」


メアリの新たな問いは誰の耳にも聞こえることなく、風に消えていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ヴァイアスとメアリが本邸に着くと、既に分家の当主達、そしてシリカとホムラがヴァイアスとメアリの到着を待っていた。各々は決められた場所に座り、シリカとホムラからイリアについての話は終わっているようだった。各々表現は異なるが苦虫を噛む潰したような表情という点では同じだった。


「すまない。待たせたな」


ヴァイアスとメアリが部屋に入って行くと、下か上を向いていた全員がヴァイアスの方に顔を向け、頭を下げた。全員が頭を下げている中をヴァイアスはゆっくりと進んでいき部屋の奥に座り、メアリもその隣、一歩引いた所で座る。ヴァイアスが座るのを確認すると他の全員が頭を上げ、ヴァイアスの言葉を待つ。


「各々シリカとホムラから話は聞いていると思うが、今回のイリア・ブレイズールの件は呪術によるものだと確定した。そして、我々は今からその呪術を行っている奴を見つけ出し、制裁を加えねばならない」


「当主。術者の居場所は分かっているのですか」


分家当主の中から1人が手を挙げて聞いてきた。


「いや。分かってはいない。しかし、呪術に使っていると思われる札を見つけた。それを使い、魔力の逆探知を行う。そのために分家の中から一名ずつ感受性の良い者たちを選出し、其奴らに探知させる。そして、場所を見つけしだい、突入する」


部屋の中が少しざわめいた。当主の言葉から悠長にしていられないと感じ取った分家当主達は自分の所から誰を出すか話し合っているようだ。いきなり言われた事にも直ぐに対応し、当主の言葉には絶対の信頼を寄せいる。それが、ブレイズール一族が最強と言われる由縁だった。どんな状況にも冷静に、時に激しく戦う。正に兵士として理想的な一族なのだ。段々と話声が小さくなっていくとヴァイアスは話を続けるために口を開く。


「分家の者達の中からも実力者を数名出せ。私が直々に指揮をとる」


「当主自ら動かれるのですか!!」


「当然だ。これは私の妻の事だ。私自ら動かねばならん。メアリ、シリカ、ホムラも連れて行く」


ブレイズール本家全員が動く事は滅多にない。それほどまでにその呪術者を敵と認め、脅威に思っているという事だ。


「当主、一つ質問が・・・」


「なんだ」


「彼らは我等と共に行くのですか?」


彼ら、が誰を指しているか分からない者はいなかった。その場の全員、彼が一族の敷地内にいる事を知っているからだ。その質問にヴァイアスはゆっくり息を吸い、口を開いた瞬間、部屋の扉が開かれた。


「俺達は行かないよ」


レンだ。後ろにジル、ウラル、ユキを連れていないという事はレン1人で来たのだろう。全員の視線がレンへと向いた。


「行かんのか?お前は術について面白いと言って、興味深そうにしていたではないか」


最初に開いたのはヴァイアスだった。レンはヴァイアスに視線を向けながら、ヴァイアスの正面の壁に立ったまま背を預け、口を開いた。


「俺が興味あるのは術式だけ。術者には何の興味も無いよ。それに行ったら行ったで興醒めしそうだからね」


「どういう意味だ」


「言葉の通りだよ。それに今俺が行ったら、彼女の急変時為す術が無くなる。一応教えとく。もうじき彼女の限界が訪れる。急いだ方がいいよ」


「分かった。それぞれ準備にかかれ」


「「「はっ!!」」」


分家当主達はヴァイアスに頭を下げると準備をするために急いで部屋から出ていく。


「シリカ、ホムラ、お前達は俺とメアリの分の準備をしろ」


「はい、分かりました。お父様」

「準備しておきます、父様」


ヴァイアスの言葉にシリカとホムラが返事をすると2人とも急いで出ていく。出ていく瞬間、シリカがチラリとレンの方を向いたが、レンは無視した。そして、その部屋に残ったのはヴァイアスとメアリ、レンが残っている。


「本当にいいのか?」


「行かない事か?」


「そうだ」


ヴァイアスの質問にレンは確認をとるとヴァイアスは近づきながら頷く。


「さっきも言ったけど人に興味は無い」


「術式に関しても我々がお前に教えるか分からんぞ」


「まぁー、それはそれで構わないけどね」


「何?」


ヴァイアスは怪訝そうな顔をした。


「お前は呪術の術式が気になったからイリアの事に手を貸そうと思ったのではないのか?」


「んんー。別にそんなつもりは無かったけど、興味がある事は別にあるからね。呪術の術式はもののついでさ」


「では、お前の興味がある事とは何なのだ」


「貴方に言う必要がある?」


ヴァイアスが顔を顰めたのに対し、レンはうすら笑いで返す。そして、その場に何やら重苦しい雰囲気が生まれた。


「・・・」


「・・・」


その状態のまま沈黙し、見つめ合う様な形になった2人。それを見て、メアリが溜息交じりに立ち上がる。


「・・・っ!」


「2人とも少し落ち着いて・・・。いいじゃありませんか、お父様。どんな理由があろうとレンは私達に手を貸してくれたのですから・・・。レンもその理由は私達に関係のある事では無いのでしょう?」


メアリは落ち着いた態度で、2人の間に入る。


「まぁ、そうだね」


「なら、詮索する必要も無いではありませんか、お父様」


「そうだな。・・・分かった」


2人は毒気を抜かれたように返事をする。絶妙なタイミングだった。ヴァイアスが熱を上げそうになる瞬間にメアリが入り込む。それはこれまでヴァイアスの相談役となっていたメアリだからこそできる事だった。毒気を抜かれたヴァイアスはそのままレンを一回睨むと眼を伏せ、そのまま部屋を出ていく。


「お父様も直ぐ熱くなり、周りが見えなくなるから困ったものね」


メアリが溜息交じりに言う。それはヴァイアスの事だけではなく、ブレイズール一族全体の事を言っているようなものだった。現にメアリは今まで本家から分家まで様々な相談を受けてきた。だからこそ、熱くなりやすいブレイズール一族の中で彼女だけがいつも落ち着いた態度をとっている。それはレンも知っている事だった。


「それがブレイズールと言う一族の特徴でしょう。諦めるしかないんじゃないかな」


メアリの言葉に興味なさそうに答えたレンはそのまま部屋を出て行こうとした。


「レン、聞きたい事があるの」


メアリは真剣な顔つきのまま、レンを見つめる。出て行こうとしていたレンはメアリの言葉に足を止め、メアリの方に向いた。


「貴方は私達の事を恨んでいますか?」


その問いはメアリには容易に想像できる問だった。レンは幼少の頃から散々な虐待を受けてきている。恨まないはずがない。しかし、メアリはそれを聞かずにはいられなかった。レンから返ってくる容易に想像できる答えを受け止める覚悟をしていたメアリだったが、レンから返ってきた回答はメアリの予想を裏切った。


「別に貴方の事はそれほど恨んではいない」


てっきり恨まれていると思っていたメアリだったからこそ、その答えは分からなかった。


「な、何故かしら。私達は貴方に恨まれてもおかしくない事をしてきたはず・・・。それなのに何故・・」


「貴方が俺に何かしましたっけ?」


「・・・」


メアリはレンに言われた瞬間、過去の事を思い出す。


「・・・」


「貴方は確かに辛辣で酷い言葉を言ってきた。しかし、それだけでしょう。そんな事を一々恨んでいるほど俺は暇じゃない」


「で、では貴方の恨みとは誰に対しての恨みなの!?」


「分家連中、そしてヴァイアス。まぁ、分家連中などいつでも殺せるから今はどうでもいい。後はヴァイアス。始めは会った瞬間に切りかかろうとも思ったけど、それじゃぁつまらない。元とは言え俺の目標だった人だ。そんなつまらない死に方はさせない。もっと残酷に、もっと悲惨に、もっと苦しい敗北を与えてやる」


レンの憎悪に満ちている瞳を見て、メアリは息を飲んだ。


「だからこそ、お父様に一騎打ちを申し込んだの?」


「そうだ」


「っ!!」


レンに睨まれたメアリはビクンと体を震わせる。そう言えば憎悪を表に出しているレンと真正面から見たのは初めてだった。メアリは震えそうになる体を何とか抑え、レンの瞳を見つめ返す。


「あんたこそいいのか?俺は場合によっちゃぁ、奴を殺すぜ?」


「それはお父様が決めた事。たとえお父様が死ぬようなことがあったとしても、それを恨む事は無いと思うわ」


「そうとは思えないけどな」


「これは貴方とお父様だけの問題。血縁とは言え、私達が口出しをすることは出来ないわ」


「これはビックリ。貴方がそんな事を言うとは思わなかった」


「この数年で変わったのは貴方だけではないという事よ」


メアリからの言葉を鼻で笑うとレンはそのまま部屋を出ていく。そして、残されたメアリはレンが出て行った扉を見つめたまま、溜息を一つ吐いく。


(変わったのは貴方だけではない、か。私はこの数年で何が変わったのかしら。レンに比べたら私なんてまるで変わっていないわ)


メアリはまたも溜息を吐き、誰もいなくなった部屋から自分も出ていく。そして、メアリは廊下をモヤモヤした気持ちのまま歩き、父の下へと向かう。


(そう、レンは変わった。お父様が認めざるを得ないくらいに・・。それが私にはなんだか恐ろしい)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ヴァイアス達が出立したのは空が軽く赤みがかってくる時間帯だった。ブレイズール一族の精鋭を残っている全員が見送る。そんな様子を横目で見ながらレンは興味無さそうに視線を正面に戻した。レン達がいるのはイリアが眠っている部屋の隣にある空き部屋だった。イリアの部屋には今、ヒザンと数人の使用人達がいるだけで、何かあれば直ぐにレン達に知らせが入るようになっている。レン達のいる空き部屋には今、レンの他にジル、ウラル、ユキの4人がおり、ジルは寝ており、ウラルとユキは昔話に花を咲かせていた。レンはと言えば、口を開かずにただボーッと部屋を眺めていると、


「入るぞ」


部屋の襖が行き成り開かれて、ヒザンが入ってくる。そして、そのままレンの近くへと歩みよってきた。


「少し話でもせんか」


「俺は貴方と話す事は無いけどね」


レンは冷たく言い返す。しかし、ヒザンはそのままレンの近くに腰を下ろす。レンも別に拒絶する理由も無いのでヒザンの方に顔を向ける。


「お前がここに返ってくるのは何年ぶりになるのだ?」


「さぁ、物心つく頃には既に本家から離れた空き屋にいたからね。覚えていないよ」


「かつてのリサコの部屋。感慨深いものではないのか?」


「何とも思わない。ここは俺にとってはただの空き部屋だ」


ヒザンが顔を正面に向けるとレンも同じく顔を正面に向ける。ヒザンが話をしようと言った理由はレンにも分からない。ただ、レンにとっては気持ちの良い話ではないだろうことは分かった。


「当時の・・、リサコがこの部屋を付けていた頃はな・・・、」


「ヒザン・ブレイズールさん、無駄話をしに来たのでは無いのでしょう?だったら、本音で話そうよ」


レンは嫌味の籠った声でヒザンに言う。それを聞いたヒザンは頭を少し下げ、少し思案したのち、真剣な眼差しをレンに向けた。


「レンよ。ブレイズールに戻っては来んか」


「・・・」


ヒザンは強い声でレンに言った。


「ブレイズールは強さに取りつかれておる。初代の時代から現在に至るまで、強さを求め、弱者を認めない。それゆえに魔十導家の中でも協力を求めず、誰の協力もしない。まさに孤立しているような状況になっておる。とくに儂を含めここ数代の当主の時に拍車がかかっておる」


「・・・」


レンは静かにヒザンの言葉を聞いていた。


「儂がそれに気がついたのは引退し、数年の時が経ってからだ。ブレイズールを背負っていた頃には勝手に人が寄って来ていた。しかし、いざ引退してみると儂には何も無かった事に気付かされた。友も親友も何もない。あるのはただブレイズール家前当主と言う肩書だけだった」


「・・・」


「だからこそ、儂はヴァイアスに儂のようになってほしくなくて色々と口出ししてきた。お主の事もそうじゃ。白い髪の子を育てたとなればブレイズールは落ちた一族と言われ、魔十導家から外されてしまう。そうなれば力しか求めて来なかったブレイズールには何が残る?」


「・・・」


「何も残らんよ。そう思って儂はお主の事をヴァイアスに命じた。しかし、そんなふうに口を出し続けても遅かった。いや、肝心な事が間違っておった。ヴァイアスは確かに儂の言う事は聞く。しかし、力のみに頼る考え方は儂らがヴァイアスに幼少の頃から教え続けてきた事だ。今更変える事は出来んかった。だが、お主なら・・・。ヴァイアスが認めざるを得なくなったお主なら、もしかしたら・・・」


「・・・」


ヒザンは真剣な眼差しでレンを見つめ続けている。レンも顔を歪めることなく話を聞いていた。いつの間にか部屋の中が静かになっていた。ウラルとユキが話を止め、こちらの話に聞き耳を立てていた。それでもヒザンは話を続ける。


「なぁ、レンよ。儂は今ならお主の気持ちが何となく分かる。本家や分家の者達に相手にされずただ前当主だからと言うだけで儂の命を聞く。しかし、そこには上下の関係はあっても横の関係は無い。儂は孤独となっていた。確かにお主に比べれば襲われなかった分何倍も増しだったと思う。だが誰にも相手にされないという気持ちは今の儂には良く分かる。良く分かるからこそ、お主にヴァイアスの力になって欲しいのだ。弱き時と強き時、両方を知る主ならヴァイアスを変えられる。儂はそう思っておる。頼む、ブレイズールに、ヴァイアスの下に戻って来んかッ・・・」


 ダァァァァァァァァン


「「「「!!!!」」」」


今まで静かに話を聞いていたレンがいきなりヒザンの胸倉を掴み、壁へと叩きつけた。


「ふざけるなっ!!」


レンは怒気を顕わにした声でヒザンを怒鳴った。周りにいる者達、ウラルとユキ、そして寝ていたジルさえ跳ね起きて茫然とした。


「お前に俺の気持ちなど分かるはず無いだろ!」


レンはヒザンを自分の方へ引き寄せながら言う。


「ヴァイアスを変えるためにブレイズールに戻ってこい?違うだろ!お前は只、誰かに頼られたいだけだろ!」


「!!」


「俺を追い出した時も今も、お前は孤独に耐えられず、俺をダシに使っただけだろ!孤独に耐えられない、誰かに必要とされたい、誰かに頼られたい。そしてそれに丁度いい奴がいた。そう言う事だろうが!」


「っ!!」


レンの怒鳴り声にヒザンは息を飲みながら絶句する。


「テメェは俺を利用して孤独から脱したい。一族から追い出され、一族を恨んでいる俺が戻ればお前の手柄。お前は頼れる奴だと思われたいんだろ。そうすればまた人が寄ってくるかもしれない。相談を持ちかけられるかもしれない。そう思って来た。違うか!」


「ちっ違う!儂は本当にヴァイアスの事を思って・・・」


「ほら見ろ。お前は俺の気持ちなど全く分かっていねー!ヴァイアスのため・・、ブレイズール家現当主のヴァイアスのために俺を連れ戻す。そこに俺は入っていない!」


「!!」


言葉を失うヒザンをレンは乱暴に放り捨てて、熱の籠った視線で睨みつける。


「出ていけ。もう話す事は無い」


レンはヒザンを冷たく切り捨て、背を向けた。


「ま、待ってくれ、レン!儂は本当に・・・」


ヒザンは言葉を最後まで言えなかった。首に突き付けられた刀がそれ以上の言葉を出させなかったのだ。いつ抜かれたのか分からなかったヒザンは、突き付けられた刀に視線を向け、冷や汗を流した。


「二度は言わない。首を飛ばされたいか!」


レンの視線から本気である事が分かる。ブレイズール家前当主とはいえ実戦を離れ、老いたヒザンにはレンに勝つことなど不可能な事ぐらい自分で分かっていた。有無を言わせないレンの気迫にヒザンは小さく頷くしか出来なかった。それを見たレンはヒザンの首元から刀を引き、鞘へと戻す。


「・・・・」


ヒザンは立ち上がりながら、レンに何か言おうと口を開けるが何も言えず、下を向いたまま部屋を出て行った。外は赤かった空は既に日が落ちて暗くなっていた。

出立したブレイズール一族が帰って来たのはそんな時だった。

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