第14話 契約と合宿の終わり
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レン達が高台に戻ってくると、お祭り騒ぎだった。男も女も戻ってきた全員の周りに集まって、なかなか解放されなかったが。教師達が何とか道を作り、通れるようにしてくれたが、歓喜の声だけはいつまでたっても鳴り止まなかった。そんな所をレンは不快な気持で通り、ようやく合宿場に着いた。そして、レン達は今自分達の部屋へ向かっている。治療室ではウラルの事や戦いの事で質問攻めになりそうだったからだ。
「ようやく着いた」
レンは部屋に敷かれた布団の上に寝そべって呟いた。ウラルもレンの隣に寝かせ、その間を何処から持ってきたのか木の板で入り口側と窓側で部屋を遮られた。今部屋にはレン達を迎えに来たメンバーが揃っている。
「では、治療を始めますね。こちらの方から始めます」
そう言うとルナシス・ルーナリアは板の向こう側のウラルの方へと向かった。
「ルベリエール君も服を脱いで、体を綺麗にしといてください。その服も脱いだ方がいいですね」
「分かりました。ジル、タオル濡らしてきてくれるか?」
「あいよぉ」
レンが頼むとジルは軽い返事をして、洗面台の方へ向かって行った。それと同時にレンは血や砂で汚れた制服を脱ぎ始める。そして、それを見ていた全員が息をのんだ。
「ッ!!!!!!」
レンが制服を脱ぎ、上半身が顕わになっている。そこには今回の戦いのモノではない無数の傷跡が残っていた。それも何十もの傷跡だ。同じ所を何回も縫った結果、肌の色が変色している所もあった。肌を移植したと思われる所もあった。それを見ていたシリカと事情を聞かされていたメアリは悲痛な思いにかられた。リエラは最早悲鳴を上げたくても上げられないような顔でただ涙だけを流している。
「おっ待たせぇ」
そんな事をしているとジルが濡らしたタオルを持って、戻ってきた。
「ほらよ」
「ありがとう、ジル。それで・・・いつまでそこにいるんですか?着替えるので出て行って欲しいんですけど」
レンは扉の近くにいるゴルバ・シギール、ウリウス・べリスト、シリカ・ブレイズール、メアリ・ブレイズール、リエラ・ハイヒールの5人に向かって言った。
「そ、そうじゃな。それではワシらは退散するとするか。ルベリエール、アースガン、魔人の監視を忘れるなよ」
そう言うと、ウリウスは視線を反らしながら言い、部屋から出て行った。
「しっかり休めよ」
その後にゴルバが言い、視線を合わせないように出て行った。
「お、お邪魔しました」
そして、リエラが口元を押さえながら、走って出て行った。
「「・・・・・・・・・」」
しかし、メアリとシリカだけはレンの方をジッと見つめたまま、動こうとしない。
「どうかしましたか?早く出て行ってくれると助かるのですが」
レンはそんな2人に出て行くように言った。すると、シリカが何かを言おうとし、口を開け閉めしていたが言葉が出てこなかったのか下を向き、ゆっくりと扉から出て行き、そしてメアリも目を閉じ、ゆっくりと部屋を出て行った。
「いいのかぁ?」
「何が?」
「・・・いや、何でもねぇ」
ジルは壁にもたれ掛り、レンはタオルで体を拭き始めた。
そして、数時間もしないうちにルナシスがウラルの所から出てきて、レンの治療に取り掛かった。ルナシスの腕は大したものだった。重症だったウラルの体は跡が全く残らずに回復させたのだ。そして、レンの体も見るみると傷が塞がっていっている。そして、一時間もかからずにレンの体の傷は完全に治った。
「ありがとうございました、ルーナリア先生」
「これが私の仕事だから気にしないで。それに傷は塞がったけど安静にしていないといけないのは変わらないから、今日はゆっくり休んでね」
「分かりました」
ルナシスは言い終わると部屋から出て行った。なんだか小走りになっていたような気もしたが、レンは気にしない事にした。
「んじゃぁ、もう休むかぁ?」
「そうだね。今日は疲れた。ジルもゆっくり休んでくれ」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
言い終わると2人は自分の布団の中に入り、そのまま眠りに着いた。
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時刻は真夜中の一時頃、レンは目を覚ました。そのままもう一度寝ようとしたが、目がさえてしまいしょうがなく布団から起き出た。
(寝つきはいい方だと思っていたんだけどな)
レンは灯りが全て消えた廊下を1人で歩いている。今は誰も起きてはいない。2日に渡っての激しい戦闘に気力体力をすり減らしたせいで、今は全員が死んだように眠っているのだろう。そんな事を考えながら、レンは玄関から外に出た。
「もう起き上がっても良いのか?」
そこで不意にレンは声をかけられた。
「それはこっちのセリフだよ」
レンは月明かりに照らされているウラルの方へ視線を向け、返事をした。
「良い月なのでな、見たくなったのじゃ」
「そうか」
ウラルは月を見ながら言い、レンはウラルの隣に座りながら返事をした。そして、しばらく2人は黙したまま、月を見つめた。
すると、不意にウラルが口を開いた。
「お主、あの時言った事は本気か?」
あの時とはいつの事か、レンには瞬時に分かった。
「本気だよ。俺にはお前の力が必要だ」
「そうか」
ウラルはレンを見ながらクスリと笑った。
「ならば、妾も約束した事だしのぅ。お主に着いていく」
ウラルはそう言うと立ち上がり、レンも同じく立ち上がった。すると、ウラルはレンの前で跪くと手を差し出し、レンもその上に自分の手を乗せる。
「我、この契約を持って、汝に永遠の忠誠を誓う」
ウラルがそう言うと重ねていた手が光だし、レンの手の甲に水の形に近い形の模様が浮かび上がった。そして、光が収まるとウラルは立ち上がりながら、レンを見つめている。魔人は忠誠の誓いとして契約をする。それは、自身の命を相手に渡すのと同じ事なのだ。しかし、ウラルはそれを行った。
「これで妾の命は主様のモノじゃ。これから世話になるのぅ」
「歓迎するよ、ウラル」
レンとウラルはお互いを見ながら笑顔で言った。
「もう休もう。お互い安静にしていないといけないからね」
「そうじゃのぅ。部屋に戻るとするか」
2人は月をもう一度見た後、校舎に向かって歩いて行った。
しかし、それを遥か上空から見ている者がいた事に気付かずに・・・。
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合宿最終日の朝、本当なら自由時間になるはずだったのだが、予定になかった魔法戦を強いられたため、引率の教師達は早々に学園に帰る事を決めた。その事に一・二年の生徒達は誰も文句を言わずに全員が帰る準備に取り掛かる。レンとジルも部屋を回って連絡している先生に言われ、帰る準備を始める。
「帰る準備っつってもやること無いんだよなぁ」
ジルは部屋に大の字になって、寝転びながら言う。
「まぁね。そんなに荷物は出してないし、大きい荷物と言えば・・・こいつぐらいだしね」
レンはそう言いながら隣に座っているウラルの頭を優しく撫でる。
「荷物とは何じゃ、主様。妾が欲しいと言ったのは主様の方じゃぞ」
ウラルは頭を撫でられながら頬を膨らませ、レンを睨んでいる。それを見ながらレンとジルは笑いあった。
「しかし、お前も物好きだよなぁ。魔人を連れて行くなんてよぉ。普通なら対立するような間柄だぞぉ」
「そうかもね」
「主様、こちらを見ながら納得されても妾が困るのじゃが・・」
レンとジルは笑いながらウラルを見ている。
「それじゃぁ、集合時間にもなったしぃ、行くか」
「そうだね。ウラル、行くよ」
「了解じゃ」
レンとジルは自分の荷物を持ち、ウラルはレンの後ろに付いて部屋を出た。
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合宿の終わりの挨拶は静かな中、淡々と進んだ。流石に全員1日2日では疲れは取れないようで、目を擦っている者が何人もいる。それは二年生もそうだった。先の戦闘のような事はそうそう体験できるような事ではない。魔法戦の経験を積ませた二年と言っても精神的に参っていた者が多いようだった。そんな中で、レンとジルは一・二年の隊列から少し離れて並ばされている。理由はもちろん、魔人であるウラルの存在だ。いくらレンが契約を結んでいるから大丈夫といっても、そもそも魔人との契約自体知らない者が多く、魔人と人は対立する存在だったため、万が一にも他の生徒に被害が出さないようにという教師達の指示だ。しかし、レンとジルは何も言わずに、納得した。そして、挨拶が終わり、後はバスで学校まで戻るだけとなると生徒達は早く寝たいがために急いでバスに乗り込んでいく。そんな様子をレンとジルは静かに眺めている。
「全員相当疲れているみてぇだな」
バスに乗り込んでいく生徒達を見ながら、ジルが呟く。
「そうだね」
レンもそれには同意した。
「そう言えばウラルを連れて行く事はもう理事長に言ってのかぁ?」
「あぁ。別に構わないとさ。あの人の納得する基準は自分の気持ちしだいだからね。今回は楽だったよ」
「そうだなぁ。理事長は良いモノは良い悪いモノは悪いとはっきり言うからなぁ。今回は俺達にとってそれがいい方向に向いたわけだぁ。俺は時々なんであんな人が理事長になれたのか不思議に思う時があるぜぇ」
「俺もそう思うよ」
レンとジルがそんな事を言い合っていると、生徒達は全員バスに乗り込み、教師達も大体が乗り込んでいた。
「さぁて、さっさと帰りますかぁ」
「あぁ、行こう」
レンとジル、そしてウラルがバスへと乗り込む。3人はバスに乗り込むと空いている席は一番前の席しかなかった。本来は教師達が座る席だったのだが教師達は2列目に座っている。レンとジルはその意図を瞬時に理解して、ウラルを挟むようにレンが窓側の席でウラルがその隣、そして通路を挟んでジルが座る。
「相当避けられておるのぅ」
ウラルは顔を前に向けながらも後ろの方を気にしていた。
「それはしょうがないでしょ。あれだけの被害を出した上、僕らは魔人は倒すべき存在だと教わるからね。仲間に引き入れようと思う者は俺みたいな変わり者だけだよ」
「そういうもんかのぅ。人間は一々面倒じゃ」
「君達みたいに本能のままに生きられたら相当楽なんだけどね。人間には理性がある。それがいい時もあれば悪い時もある。面倒なんだ、人間は」
レンは視線を外に向けながら答える。何かを思い出しているのだろうとウラルは思い、それ以上何も喋らずに目を閉じた。そして、バスは一路学校へ向かって走り出した。
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