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最弱は最強!!!  作者: ハムハム
合宿編
13/20

第13話 黒幕

ようやく投稿出来ました。お待たせしてすいませんでした。どうぞ読んでください。

グウォ―――――――――――


生徒と教師達が見つめている中、ギガントスの悲鳴が轟いた。レンの周りの砂の上には半分になったギガントスの体と、今だ流れ出ている血によって紅く染まった砂で埋め尽くされている。その光景を見ながらシリカは茫然と呟いた。


「それが魔法を使えなかった理由・・・」


「そうだ。レンの一番秀でていた属性は火属性ではなく分離属性だったということだったんだよ。それはアイツの外見からも分かるだろう?あいつのあの真っ白い髪はよぉ、分離属性が一番適していた事の証明なのさぁ」


ジルはレンの方に視線を向けながら話を続けた。


「あいつは魔法陣を描く際分離魔力が必ず入ってしまう。だからこそ、魔法陣を生み出しても消すのと同じ現象が起こってしまう。だが、全く使えないわけじゃぁない。あいつにも少なからず結合する魔力があるからなぁ。それをうまく操れれば魔法を使う事が出来る」


「操る?」


シリカが疑問を投げかけてきた。


「そうだ。俺達は無意識で結合する魔力、分離する魔力を別けて使っているが、あいつの場合は大半が分離魔力、どうしたって意識的に結合魔力と分離魔力を別ける必要があったのさぁ。だが、そんなこと並大抵で出来る事じゃねぇ。無意識で行っている事を意識的に別けて魔法を使うなんてなぁ」


全員が無言のまま、ジルの話を聞き続けている。


「そこでレンが考え付いたのが分離魔力で戦う方法さぁ。レンはどうにか分離魔力で戦えないかを考えた。ずっと自分自身を研究し続け、体を鍛え続けた。そして、見つけ出したのがあの戦闘法さぁ」


ジルはレンの方を指さしながら、話を続けた。


「まぁ、普通の人間には出来ねぇー事なんだが、あいつはそれを可能にし、新たな魔法体系を生み出した。それが刀の周りを魔力で覆い、結合を分離させて斬り裂く、あの戦闘法さぁ」


全員が息を飲むのが分かった。その反応も仕方がないとジルは思った。過去、何人もの研究者が属性魔力は十種類しかないと証明してきたにもかかわらず、たった15の少年が新たな属性魔力を見つけ、一から魔法を組み上げたのだ。しかも結合できない魔力で、だ。そこにいた全員が分かっている。それがどんなに難しいことかを。1からどころか0から作り上げたレンの存在に誰もが驚き、またその才能に少なからず恐怖した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ギガントスの数が大分減り、残るは数体を残すのみとなっていた。レンはその数体を見ながらギガントスの血で汚れた顔を服で拭った。


「はぁ、はぁ、はぁ。残り8体。流石に疲れたな」


荒い呼吸をしながら、レンは刀を構える。ギガントス達は最早戦意喪失しつつあった。始めの頃はレンは一歩も動かず、追い返すために全力でギガントスを殲滅していたが、それでは流石に魔力が持たず、近接戦に移行してから既に2時間が経過していた。7・80体いたギガントスのほぼ9割を殲滅し、少しばかり息を整えるためにギガントス達と距離をとったレンは、ギガントス達の次の動きに注意を払い、またギガントスとは別の存在を探り始める。


(今のところ影も形も見えないが、ギガントスにこれだけの力を見せても逃げ出さない所を見るとやはり奴らが絡んでいるのか!?)


レンは刀を構えたまま辺りを見渡している。レンから視線を外されていてもギガントスは襲ってくることも引き下がることもしなかった。


(近くにはいないのか?なら、とっととこいつらを片付けるか)


レンはギガントスに視線を戻すと、刀を構えたまま走りだす。


グガァァァァァァァァァァァァァ


向かってくるレンに対し、ギガントスも覚悟を決めたように吠え、レンに向かった走りだした。レンはまず、襲いかかってくるギガントスの先頭を走る2体を標的に定める。ギガントスは近づいてくるレンに対し、腕を持ち上げ、殴りかかろうとした。しかしレンはそこでスピードを緩めるどころか更に速く走り、ギガントスの拳を余裕でかわす。そして、ギガントスの足元まで近づくと、そのままのスピードでギガントスの体を走り登った。そして、登りながらもレンは刀でギガントスの体を斬り刻んでいき、頭までいくと並走していたもう一体のギガントスに飛び移り、重力によって落ちるさ中、並走していたギガントスの体を斬り裂いていった。そして、レンが着地すると同時に切り斬り裂かれたギガントスの体はバラバラになりながら崩れ落ちた。


(残り6体。流石に面倒になってきたな)


更に雄たけびを上げて近づいてくるギガントスにレンは鬱陶しそうな視線を向けると、刀を横に構える。そして、ただ真横に刀を振った。その瞬間、ギガントス4体の体が横に斬り裂かれ、血を噴き出しながら崩れ落ちた。


「へぇ~、今のをよくかわせたねー」


レンはほくそ笑みながら残りのギガントスに視線を向ける。残り2匹となったギガントスは驚愕した顔で、辺りに視線を彷徨わせている。ギガントスはもしかしたら自分達の相手は目の前のレン1人ではなくどこからか援護の魔法を放ち、それが仲間達を真横に斬り裂いたのではないのか、と考えているのだろう。いくら知能の低いギガントスでも自分たちよりもはるかに小さい人間が15mもあるギガントスの体を真横に斬り裂くなんて出来るわけがないという事は分かっていた。しかし、その様子を見ていたレンは噴き出すのを堪えながらギガントスに言う。


「俺一人だよ。こいつらも俺が殺したんだ」


ギガントスはレンの言葉が聞こえていないのかそれとも無視しているのか今だ辺りに視線を彷徨わせている。レンは溜息をつき、その隙にレンは今度は刀を振り下ろした。


グォォォォォォォォォォォ


レンが刀を振り下ろすのと同時に視線を彷徨わせていたギガントスの一匹は頭から縦に斬り裂かれた。悲鳴を上げながら斬られていくギガントスを見ながらレンは小さな笑みを浮かべている。そして、血を流しながら倒れたギガントスをもう1体のギガントスが静かに見つめていた。それを見たレンは笑みを浮かべたまま静かに刀を鞘に納め、体をギガントスの方へと向けた。


「やはり、お前が黒幕か。どうりで周りに何の気配もしないと思ったよ」


レンが鋭い視線をギガントスに向けながら話し始めた。するとギガントスも顔をレンの方へ向けてきた。そして、レンを品定めするように目を細め、凝視している。


「いい加減正体を現せよ。それが本体じゃないんだろ?魔族の方?」


レンは笑いながらも鋭い視線のまま、ギガントスを睨みつけた。そんなレンの態度にギガントスは目を見開いたかと思うと大声をあげて笑いだした。


グウーッウッウッウッウッフッフッフッフ


高らかに上げられた笑い声が徐々に高い高音の笑い声に変わり、姿もギガントスの体もまるで粒子が飛んで行くようにして消えていき、そして、そこにはレンと同じぐらいの背丈の女が立っていた。


「よくぞ妾の幻術《水鏡(みずかがみ)》を見破ったものよな」


「別に褒められるような事じゃないさ。残り数体となった時にお前からは足音が聞こえてこなかった。だから気付いたのさ」


「ほ~ぅ。あの鳴り響くギガントスの足音の中でよく聴き分けられたものよ。お主、人間にしておくにはもったいないのぅ」


女はもっていた扇子で口元を押さえながらレンを見ている。


「それはどうも。しかし、幻術か。これで色々な事に説明がつくな」


「何の事じゃ?」


「とぼけるなよ。魔物の大群が北から来たと聞いた瞬間、直ぐに疑問に思ったよ。ここより北には北の国境線を守る王立魔法師団の魔道士達がいるのにこの大群はどうやってそれを通過して来たのだろうと、ね。だが、貴方の幻術を使ったのなら姿を消して誰にも気づかれず通過する事が出来る。違うかい?」


「ほんに勘の鋭い事よなぁ。いかにも、その通りじゃ」


「なんでこんな事をした」


レンは声を落とし、鋭い眼光は更に鋭くした。


「理由か?そうじゃのぉー・・・・・・・・・・、何となくじゃ」


「何となく?」


「あぁ。人間なんぞ生きようが死のうがどうでも良かったのじゃが暇だったのでなぁ。人間のガキ共と遊んでやろうと思ったのじゃ」


女の眼は人間を虫と同じと言っているかのような目をしていた。そんな女の人間を見下したような目を見て、レンは溜息をつく。


「たまにいるな、そういう奴。目的も理由も無く、暇だからって襲ってくる奴」


「ほーぅ。そんな奴が妾の他にもおったのか」


女は興味深そうにレンを見つめ返す。そして、レンは腰にある刀を触りながら「あぁ」と答えた。


「んで、どうするんだ?まだ俺達を襲うつもりなのか?俺としてはこのまま引いてくれると助かるんだけどな」


「ん~、どうするかのぅ。このまま帰ったとしても退屈なだけだし、少しお前と遊んで帰るのも一興か」


「お前、どっかの王やその他に着き従っているわけじゃないのか」


「いやぁ。妾は誰にも従ったりせぬ。そうじゃのぅ、もしお主が妾に勝てたなら、お主に忠をつくすのも面白いか」


「全く傍迷惑な奴だ」


レンは刀を抜きながら呆れた。そして、刀を構える。


「奴、では無い。妾の名は水の魔人ウラル、嘘と幻の舞いを篤とご覧あれ」


ウラルと名乗った女が言い終わった瞬間、辺り一帯が霧に包まれた。しかし、まだ相手を見失うほどの霧では無かったのでレンはウラルを静かに見据える。魔人、それは人間の形をした魔族で、人間を遥かに超える力や魔力を持ち、更にそれとは別に一個体に一つ特殊な能力を持った種族だ。基本的に魔人は数が少ないが今までも魔人が現れた例はいくつもある。その全てがいくつもの町や村を壊滅させるほどの被害を出し、隊長クラス数人でようやく倒せたと記録に残っている。レンも過去に一度魔人と相対した事があり、その恐ろしさは十分に分かっていた。


(魔人を倒す時はまず相手の能力を知る事)


レンは以前魔人と戦った時に思い知った事を心の中で復唱した。そして、緊張する想いを押し殺し、ジッとウラルを睨みつけた。


「そんなに見つめられると照れてしまうのぅ」


レンの緊張などお構いなしにウラルは笑いながら見つめ返す。ウラルは構える様子も無く、薄い青色の髪をなびかせて、戦闘に向いているとは思えない着物を胸元を開けて着ており、両手には鉄扇を開いた状態で持っている。そんなウラルの姿が霧が濃くなるにつれ、見えなくなっていったがレンは今だ一歩も動かずに見ていた。しかし、次の瞬間、


ガキィィィン


鉄と鉄がぶつかり合う様な音が鳴り響いた。いつの間にかレンの後ろにいたウラルがレンを鉄扇で攻撃し、レンがそれを刀で受け止めた音だった。


「ほおぅ、良く今の攻撃が読めたのぅ」


「お前が言ったんだろ、嘘と幻とな。なら、こういう攻撃方法をとる事ぐらい容易に想像できる」


「ほんに面白い人間よ」


言い終わるとウラルはまた濃くなった霧の中に姿を眩ませた。


(霧に幻術、厄介な事この上ねーな―。視界が悪い上に相手は魔人、こちらの居場所は直ぐに知られてしまう)


最早、辺り一面真っ白な世界となり、何も見えなくなっていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何?あれ」


高台から戦闘状況を見ていたシリカ達はギガントスの姿が消えた瞬間、一時歓喜に全員が包まれた。ジルもそれを見て喜びを顕わにしていたが、そんな中シリカが赤くなった砂丘にいきなり白いモノが浮かび上がっているのに気付き、呟いた。


「え?」

「なになに?」

「どうした?」


シリカの声を聞いた生徒達や教師達もシリカの視線を追い、白い霧を見た瞬間喜びが消えうせ、小さな声での呟き声が聞こえてきた。


「なんじゃ、あれは」


シリカと同じように呟いたウリウスは急いでジルに振り向いた。


「アースガン、あれもレン・ルベリエールの魔法か」


そんなウリウスの様子を無視して、ジルは白い霧を驚いた様子で見つめ、そして、数十秒たった頃ようやくジルは口を開いた。


「違う。あれはレンの魔法じゃない」


「では、一体何なんじゃ」


その場の全員が霧の方角に視線を奪われている。


(・・・それに黒幕も俺がやることになるしね)


そんな中、ジルの中で戦闘を始める前にレンが言った言葉を思い出した。


「黒幕!?」


ジルは呟くように言い、立ち上がりながら霧を睨みつける。


「黒幕?黒幕って何よ、アースガン」


ジルの呟きを聞きつけたシリカはジルに声を荒げて言った。


「戦闘を始める前にレンが言ったんだ。黒幕も俺がやることになる、ってなぁ」


「何よそれ、意味分かんない」


「でも、その考えは正しいと私は思うわ」


「メ、メアリ姉様」


頭を抱えたシリカの隣からメアリが話に加わってきた。そんなメアリの言葉を疑問に思ったリエラが口を開く。


「あ、あの。どういう事でしょう」


「ここに来る時も思ったのだけれど、あの魔物の大群は北から来たと聞いたわ。けど、北には国境を守る魔法師団がいたのにどうしてここまで来れたのか疑問に思っていたの。けれど、黒幕がいると考えると全ての辻褄が合うわ。それも魔の者の、ね」


「魔の者、ですか?」


シリカが堪らずに聞き返してきた。


「えぇ。貴方も今そう考えているのではない?ジル・アースガン君?」


「まぁーな。全く同じ考えだよ。そして、レンも恐らくそうだろうなぁ」


その場の全員が息を殺し、緊張と恐怖の入り混じった表情をしている。


(黒幕の存在に、あの霧は魔法かぁ?そして、魔の者。ギガントスが消えた瞬間は辺りに強い気配はしていなかった。と言う事は、小柄で人間には真似できないような魔法を使う存在。・・・・・・・・・・まさか)


思考を終えるとジルは踵を返し、高台を降りて砂丘の霧の所まで走って行こうとした。


「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ」


しかし、そんなジルをシリカが腕を掴んで止める。


「どうしたのよ。何処へ行くつもり?」


「レンの加勢に行く。お前達は無理に付いてこなくていぃ。もし、俺が想像した通りの相手ならお前らは一瞬で殺される。俺やレンだけでは守れないからなぁ」


「何よ想像した通りの相手って。いったい何者なの?」


「俺の想像が正しければ、今レンが相手しているのは恐らく魔人だ」


シリカを鬱陶しそうに舌打ちしながらジルは答えた。しかしその答えを聞いた瞬間、その場は静寂に包まれた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はぁはぁはぁはぁ」


静まり返っていた霧の中でレンの息遣いだけが聞こえている。先ほどから何度も何度も襲って来ては下がり、下がっては襲ってきたりのヒットアンドウェイを繰り返され、流石のレンも息が上がっていた。そんな状態でもウラルは慎重に、しかし確実にレンを追いこんでいっている。


「ったく、同じ戦法できやがって」


と苦し紛れに呟きながら、レンは周りに注意を払った。しかし、注意を払っていても相手は魔人、レンの注意をすり抜けて攻撃してくる。その結果、レンの体に無数の傷を負わされ、血で制服が赤く染まっていた。


「どうした。お主はこの程度の人間だったのか?ならば、ほんに期待外れじゃ」


「好き勝手言ってくれるじゃねーか」


笑いの交じったウラルの声に、苦笑いを浮かべながらレンは答える。


「ス―――、ハ――――」


強張っている気持ちを解きほぐすためにレンは深呼吸をして、気合を入れ直した。と、後ろで気配がした瞬間、レンは後ろを振り返ると同時にその気配を斬り裂く。が、その気配は霧の中に消えてた。


(クソ、まただ。自分の虚像を作り出して襲わせてきやがる。それに毎回毎回一体ずつ、遊んでやがるな)


レンは小さく舌打ちし、刀を構え直す。


(これじゃ、あいつの能力なんて分かりっこないな。さーて、どうするかな)


レンは辺りを見渡しながら霧の対策を考えていると、いきなり背後から寒気を感じた。


「クッ!!」


レンはその瞬間、その場から飛びのいた。一泊遅れてレンのいた場所は高速で通り抜けた何かによって、砂ごと真っ二つに斬られた。


「なんだ今のは・・・」


飛びのいた場所から先ほどまでいた場所に視線を向けた。


「よく妾の《水刃(すいは)》を避けたのぅ」


「これでも場数は踏んでるつもりだから」


「そうか。では、次は交わせるか試してみよう」


「楽しそうに言ってくれる」


ウラルの賞賛を皮肉で返すと、レンはいきなり構えを解いた。


「ん?どうしたのじゃ?」


構えの解いたレンを不思議に思い、ウラルが話しかけてきた。


「さっきのは危なかった。気付くのがもう少し遅ければやられていた。だが、そのおかげで分かったぞ。お前の能力が・・・」


霧の中での緊張が増した。


「ほーぅ。なら、当ててみよ。妾の能力は何じゃ?」


「お前の能力、それは・・・いかなる音も消せる能力だろ」


返答は帰ってこない。


「お前の言葉をそのまま受け取った結果、気付くのが遅れた。お前は戦闘が始まる前、嘘と幻と言った。だが、それ自体が嘘だった。幻、俺達の言葉では幻術だ。だが、脳を支配して幻を見せる幻術ならばこんな霧は必要ない。なら、この霧は何かを隠すためのもの。それは幻を作り出す瞬間だろ」


霧の中でさっきまで感じなかった殺気がどんどんと濃度を増している気がした。


「それを考えるとこれは幻術では無い。幻術ではなく、幻を見せる事が出来る方法。それは蜃気楼だ」


その瞬間、レンに向かって勢いよく何かが飛んできた。レンもそれが分かったため、その場を飛び退いてかわしし、飛ぶと同じく今度はその攻撃をしっかりと見据える。それは、水が三日月の形となり、地表をまるで滑るように走っていた。そして、レンは着地すると水の刃が走ってきた方向に視線を向ける。


「蜃気楼は姿を消すことも作り出すことも出来る。だが、音だけはどうにも出来ない。さっきの攻撃、そして魔法師団を見つからずに通り抜けてこれた事実。それらによってようやく分かったぜ」


レンは話終わるとゆっくりと刀を構え直す。すると、数秒沈黙が続いた後、小さな笑い声が聞こえてきた。


「ほんに憎たらしく思うほどの頭の良さじゃのぅ。このウラルの能力が分かった人間はお主が初めてじゃ。褒美に全力で貴様を殺してやろう」


「舐めるな。能力が分かったなら、俺も本気で行かせてもらう」


レンは言い終わると気合を入れ、全方に魔力を解放した。


「な、なんじゃと?」


ウラルが驚くのも無理は無い。辺りを包んでいた霧がレンが魔力を放った瞬間、霧散し、消え去ったのだ。


「お主、今何をした。魔力を解放したぐらいで、妾の霧が晴れるわけはない」


ようやく見えたウラルの顔は驚きで目を丸くしている。そんな姿を見たレンはなんだか可笑しくなり、鼻で笑った。


「俺の魔力は普通の人間と違ってね。魔力自体が攻撃力を持っているに等しいのさ」


「クッ!!!」


ウラルの顔が初めて歪む。しかし、相手は魔人。その程度の事でレンは気を緩めたりしなかった。


「行くぞ」


レンはこの戦いで初めて攻勢に出た。数mあった距離を一歩で詰め、横に刀を振るう。しかし、ウラルはそれを一歩も動かず、上体を反らせる事でかわした。だが、レンもかわされる事が分かっていたため、次の攻撃を仕掛けた。避けられた瞬間にしゃがみ、刀を振るった勢いを使って、ウラルの足を薙ぎ払う。上体を反らせていたため、ウラルは反応が遅れ、足を払われた。そして、レンは回転したまま、飛び上がり、ウラルに飛び蹴りをくらわせる。空中ではいかに魔人でも避けられず、ウラルは飛び蹴りを真っ向から受けてしまった。しかし、ウラルは吹っ飛ばされながらも態勢を整え着地する。そして、手を広げいくつもの魔法陣を生み出した。


「《水刃》」


魔法陣から放たれた無数の刃は真っ直ぐレンに向かって行く。


「流石魔人。これほどの魔法陣を生み出すなんて、人間には無理だな。だが・・・」


レンは襲いかかってくる水の刃を刀で薙ぎ払う。すると、水の刃は拘束を解かれたように只の水となった。


「なんじゃと!!!」


またもウラルは驚愕に顔を歪めた。レンがその一瞬の隙を見逃すはずもなく、ウラルに斬りかかる。驚いていたウラルは反応が遅れた。


「クッ!《水盾(みずたて)》」


ウラルは自分の目の前に自身よりも大きい丸い水の盾を生み出した。しかし、レンはそんなものはお構いなしに刀を振り下ろす。すると、水の盾はレンの刀を受け止める事が出来ずに真っ二つに斬り裂かれ、それと同時にウラルの体も刀により斬られた。ウラルはとっさに飛び退いたおかげで致命傷は避けられたが、大丈夫とは言えない傷を負わされ、顔を怒りで歪めている。


「こっのー、人間風情がー」


ウラルは先ほどとは違う魔法陣を生み出し、魔法を放とうとした。レンはその魔法陣に危機感を覚えたが今から飛び込んでも間に合わない距離にいる。ウラルも最早手加減せずに全魔力を注いでレンと葬ろうとする。が、その魔法は不発に終わった。


「え?」


ウラルですら状況が飲み込めずにいた。なぜなら、魔法陣が斬られたのだ。発動した魔法が斬られると言うなら分かる。ウラルでさえ経験はあった。だが、魔法陣の状態で斬られるなんて事は聞いたことも無いし、魔人であるウラルでさえ初めての経験だった。レンは状況を飲み込めずにいるウラルとの距離を詰めるために走り出し、そして、ウラルに止めを刺そうとした。しかし、ウラルも同じ轍を踏むような事は無かった。斬りかかってくるレンに気付き、直ぐにレンとの距離をとる。そして、しばしの静寂が訪れた。


(なかなか決めさせてくれないな。流石魔人だな。身体能力、魔力量、詠唱破棄に反射神経、どれをとっても一級品だ。なら、もうこれしかないか)


(何なのじゃ、彼奴の力は。こんな力、妾は知らぬぞ。よくは分からぬが大抵の魔法は彼奴に斬られてしまう。ならば、斬りようのない魔法で決めるしかない)


2人の目が何かを決めたように鋭くなる。静寂の中、先に動いたのはウラルだ。一歩一歩ジグザグに狙いを定めさせないように下がっていった。それに気付いたレンは離されないように追従する。しかし、魔人と人間では身体能力に大きな差がある。それはレンとウラルも同じだ。ウラルは開いていく距離を確かめると、その場に停まり、詠唱を開始した。


「母なるものよ、恵みの源よ、我の呼び声をもと、厄を呑み込め《津波対流波(つなみたいりゅうは)》。これで終いよ」


まさに圧巻の一言。ウラルが放った魔法は夥しいほどの水が大津波となってレンに襲いかかる。レンの前方は最早津波に覆い尽くされ、逃れることなど不可能だった。ジルが魔物を葬る時に使った流砂岩波など比較にならない。最上級の更に上、人間には到達出来ないとさえ言われた魔法、天上級魔法。大きな街でさえ一撃で簡単に滅ぼせる魔法。そんな魔法を目の当たりに出来て、レンは感動を覚えた。


(凄い。これが天上級魔法。凄い。凄い)


レンは瞳を輝かせながらそれを見つめる。が、次の瞬間現状を思い出し、刀を構える。


(こんな凄い魔法を見せてもらったんだ。俺も全力で答える)


レンは構えた刀に全神経を集中させ、振り下ろした。


バシャーーーーン、ザザザザザザザザザザザ


レンと大津波の間にはまだ多少の距離があったが、大津波と何かがせめぎ合っている音が鳴り響く。


「ぬうううううううううう」


「うおおおおおおおおおお」


レンとウラルはどちらも全魔力を注ぎ込んで、魔法を放ち続ける。


「うああああああああああ」


だが、均衡は崩れ始めた。ウラルの放った魔法がレンの何かにより斬られ始めたのだ。


「ぬっううううううううう」


しかし、それでも何とか耐えているウラルはレンの攻撃を真正面から受け続ける。そして、


「うああああああああああ」


ついに、ウラルの魔法はレンにより斬り裂かれた。そして、ウラル自身も魔法とともに肩から腰までレンに斬られた。普段なら避ける事も可能だったが、全魔力を使い果たし、立つことすら出来なくなったウラルには、避ける事が出来なかったのだろう。ウラルはその場に倒れるのと同時に斬られた津波もただの水へ、そして大地へと返った。


「はぁはぁはぁはぁはぁ」


全魔力を使ったのはレンも同じだった。体は脱力感に覆われ、全身に力を入れていたため体の傷からは血が噴き出している。だが、それでもレンは倒れそうになる体を鞘に納めた刀で支え、ウラルのもとへと歩いて行った。


「やってくれたのぅ。まさか、妾が倒されるとは思ってもいなかった。倒れたのは初めてじゃ」


最早声に力は無い。レンが近くまで来てもウラルはピクリとも動かず、瞳をうっすらと開けた状態で話しかけていた。そんな微かな声でもレンは聞き逃すことなく静がに聞いている。


「俺の刀を受け止めたのも貴方が初めてだ。それに、貴方が真っ向勝負してこなければ、立場は逆になっていたかもな。最初の戦いを続けられていたら、俺が魔力切れになって殺されていた」


「ハハッ。魔人である妾に真っ向から挑んできたのもお主が初めてでのぅ。なんだか嬉しく思ってしまってのじゃ」


小さく笑うウラルの体からは血がどんどんと溢れ出している。


「お主よ、最後に聞かせてはくれぬか?」


「何をだ?」


「妾の魔法を斬ったあの力は一体何じゃ?」


「あぁ。俺の魔力は普通の魔法が使えない代わりに結合を分離させる力がある。それを媒体であるこの刀に纏わせる事により斬る。だが、実際に斬っているのは俺の魔力だ。魔力に形は無い。だから、様々な形にする事が出来る。だが、言うほど簡単な事じゃない。魔力を完全にコントロールしないといけないからな」


「ならば、妾の最後の魔法やギガントスを一刀のもと、斬った力は何じゃ」


「簡単だ。俺が出来るのは刀の形だけ。あれはただ刀の形のまま伸ばしただけさ。だから、俺には身長差も距離もあまり意味は無い」


「そうじゃったか。なら、もう思い残すことは無い。妾の命を持っていけ」


ウラルはそう言うと、うっすらと開いていた瞳をゆっくりと閉じた。


「あぁ。貴方の命、貰って行く」


ウラルは目を閉じたまま、フッと笑った。しかし、いつまでたっても痛みは襲ってこない。そして、痛みの代わりに抱き起こされた感覚がした。ウラルは重たい瞼を持ち上げて見ると、レンがウラルを抱き上げていたのだ。しかも、お姫様だっこで。


「お主、一体どういう事じゃ」


消えそうな声、薄らとしか開いていない目で懸命に睨みながらウラルはレンに問いただした。


「だから、言っただろう。お前の命は貰うと」


「じゃから、さっさと殺せば良いではないか」


消えそうな声で怒鳴ってくるウラルにレンは冷笑を向ける。


「何かってに決めてるんだ。お前の命は俺のもの。どうしようと俺の勝手だろ?」


ウラルは開いた口が塞がらなくなった。


「そもそも戦う前に話していた内容をもう忘れたのか?」


「何の事じゃ?」


「貴方に勝ったら忠を尽くすと言う話さ」


「まさか。本気か?」


「あぁ。俺は本気だ。俺は貴方の力が欲しい」


抱きあげられたウラルはレンを真っ直ぐ見て、レンもそんなウラルを真っ直ぐ見返し、そしてウラルも確信した。レンは本気なのだと。


「はぁ。ほんに不思議な人間じゃ」


「それは褒め言葉として受け取っておくよ」


そうして2人は互いに笑い会い、レンは今にも倒れそうな体に鞭を入れ、砂丘を歩いて行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


レンは砂丘をふら付きながら歩いていた。レンもかなり消耗し限界を既に超えていても、ここには1人しかいないため何とかして帰り、傷の手当てをしてもらわないといけなかった。


「くっそ。きついな」


レンに抱きあげられているウラルは傷口を一応布で押さえているが流石に喋る元気もないようだ。その時、


「レーーーン」


大きな声で呼ぶ声があった。レンは顔を上げるとジルを始め、数人がこちらに向かって来ていた。


「はぁ。たすかったかな」


レンは笑顔を浮かべ、ウラルを隣で寝かせレンもその場にゆっくりと座り込むと、そこにジル達が到着した。ジルの後ろにはシリカにリエラ、メアリ、ウリウス達教師が数名いる。


「大丈夫かよぉ、レン」


「あまり大丈夫じゃないな」


「それで敵は?どうなってんじゃ」


大丈夫じゃないと言ったのにウリウスはレンに詰め寄りながら話しかけた。


「全部倒しましたよ」


「そ、そうか。それは安心した」


なんか含みのあるモノ言いにレンは少しイラッときたが今は忘れることにした。


「んでぇ?この女は一体何なんだ?」


「あぁ。魔人ウラル。今回の首謀者だ」


「な、なに?」


教師陣の中からざわめきが聞こえてきた。その中で冷静に振舞っているゴルバが口を開く。


「そうか。ご苦労だった。そいつはこちらの方で処分しておこう」


そう言うとウリウスはウラルを掴もうとしたが。しかし、それはレンによって阻まれた。


「結構です。こいつは俺が連れ帰ります」


「なっ!!」


流石に全員が絶句した。そんな中、ウリウスが顔を赤くして怒鳴りつけてきた。


「何をばかな事を言っている。そいつはワシらを殺そうとした犯人じゃ。殺さなければ気が治まらん」


「こいつを倒したのは俺です。よって、こいつの処遇の決定権は俺にあると思いますが?」


「そ、それはそうじゃが」


ウリウスはレンの返しに言葉を詰まらせる。


「本気で言っているの!」


今度はシリカが怒鳴ってきた。


「そいつは私達を襲ったのよ!許せるわけないじゃない」


「だから?」


レンは冷たい声で返す。その声にシリカは少し身を引きそうになったが、何とか持ちこたえ、怒鳴り続けた。


「だから、私も殺さないと気が治まらないわ。それにこいつは魔族なのよ。生かしておく必要なんてないわ」


「それはそっちの都合だろ?俺にとっては必要な存在だ」


「何に必要なのよ」


「答える必要は無いな」


レンはあくまで冷たい態度で返す。その態度にシリカはどんどんと怒りがこみ上げて来ていた。が、レンはそれを無視して、別の方へ視線を向ける。


「それより、ルーナリア先生。治療をお願いします」


いきなり話を振られたルナシス・ルーナリアは「え、あ、分かったわ」と言ってレンの治療に取り掛かった。


「先にこっちをお願いします。思いっきり斬っちゃったので傷口だけでも塞いでください」


「え、でも・・・」


「お願いします」


「わ、分かったわ」


レンは頭を軽く下げた。そんなレンに面食らったようにルナシスは急いでウラルの治療を開始した。


「「「ルーナリア先生」」」


何人もの怒鳴りが聞こえ、そしてルナシスの行動を止めようした者もいたが、間に入ったジルによってそれは止められた。


「止めとけよぉ。あんた等に発言権は無い。それともレンや俺を敵に回すかぁ?」


掴みかかろうとした者達はジルの眼光に止められ、渋々引きさがった。


「レン。お前が連れ帰るってぇ―なら俺に異論はねぇ。でも、そいつの責任はしっかり持てよ」


「無用だけど、もしもの時は分かっているよ」


「そうか」


「あ、あの・・・」


今まで黙っていたリエラがシリカの後ろからひょっこりと顔を出して、こちらを見ていた。


「わ、私も治療魔法が使えます。お手伝いした方がいいですか?」


「えぇ、お願いします。ハイヒールさんは俺の方をお願いします」


「は、はい。分かりました」


リエラはレンの後ろに周り、傷口に掌をあて、治療に取り掛かる。その光景をシリカが納得できなさそうに見ており、まだ一言も話していないメアリは何か思っているのか静かに見つめている。


「凄いわね」


「え。どうかしましたか?メアリ姉様」


他の人には聞こえないようにメアリがシリカに話しかけた。そして、メアリの目は治療されながらジルと話しているレンの方に向いている。


「ギガントスを全てを倒しただけでなく、魔人すらも1人で倒してしまうなんて・・。もう私達が知っているレンでは無いのかもしれないわね」


メアリの話しを聞いて、シリカもレンの方を向く。シリカ達もレンが戦っている所を少しだけ見ていた。レンの戦っている所へ向かっていた時、強大な魔力を感じたと思ったら、とてつもなく巨大な大津波が生まれ、シリカ達も飲み込まれそうになったのだ。だが、大津波はシリカ達の所に来る前に二つに斬られ、消えた。その後、あの大津波を斬ったのはレンだとジルが教えてくれた。それを思い出した瞬間、シリカは何とも言えない気持ちになった。


「そう、かもしれませんね」


シリカはそう答えるのが精一杯だった。


「こちらの治療は取り合えず終わりましたよ。取り合えず、傷を塞いだだけですけど・・」


「こ、こちらも終わりました」


メアリとシリカが話している間も治療を続けてくれていたルナシスとメアリがほぼ同時に応急処置を終えた。


「ありがとうございます、ルーナリア先生、ハイヒールさん」


「は、はい」


「お礼を言うのはこちらです。貴方のおかげで被害を増やさずにすみました。ありがとう」


リエラは顔を赤くして答え、ルナシスはにっこりと笑顔で答えた。


「じゃあ、ジル。彼女をお願いするよ」


「別にいいけどよぅ。お前は大丈夫なのかぁ?」


「まあ、何とか持つでしょう」


レンは刀を杖代わりにして立ち上がる。しかし、直ぐに倒れそうになったが、倒れることなく、誰かがレンの体を支えた。


「私が肩を貸すわ」


その申し出をしたのは、意外にもメアリだった。メアリはレンの腕を自分の肩に回すとゆっくりと歩き始めた。それに続き、ウラルを担いだジルや他の面々が続く。


「意外ですね。まさか、ブレイズール先輩が肩を貸してくれるとは思いませんでした」


先頭を歩きながらレンはメアリに話しかけた。


「そうかもしれないわね。私もそう思っていたわ。でも、今回は貴方に命を救われたようなもの。その事への感謝の気持ちもあるわ」


「そうですか。では、それは有り難く受け取っておきましょう」


レンとメアリが言い終わると2人とも口を開くことなく合宿場へと戻っていった。

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