常闇の森に行く途中 前編
常闇の森シリーズの出会い編です。
何と出会うかはお楽しみ♪
黒頭巾・黒マントな僕とビスクドールのレティーシアの常闇の森に向かう旅が始まって、数日経ったある日の事。
草むらの中でガサガサと音を立てる、不審物を発見した。もう、誰が見ても間違いなく不審物としか言い様がないと思う。
「ねぇ、レティ。あれ…何だと思う?」
道の端まで後退しつつ、恐る恐る、僕の肩に座っているレティーシアに尋ねる。もちろん、不審物からは絶対に目を離さずに。
「………籐のバスケットから、脚が…はえてるわね」
打てば響く反応を示す彼女にしたら、珍しいほど回答するまでにロスがあった。やはり、それほどの不審物だと言う事なんだろう。僕だけが怪しいと思ったわけじゃない事に、少しだけ安堵を覚えた。それにしても、どういう構造なんだろうか、あのバスケットの底は。そんなことを考えつつも、問いかけた言葉は違うものになってしまった。
「あれ、実はとんでもない危険物なのかな?」
30cm四方の籐のバスケットに鎖がグルグルと厳重に巻きつけられ、鎖同士が重なる部分にはしっかりと南京錠がかけられているのである。絶対に中からは開けることは出来ないだろう。
耳を澄ませば、不審物からくぐもった唸り声のようなものも聞こえる。ますますもって、怪しい。というか、怪しすぎる。
「危険物かはともかくとして、物凄い脚力の持ち主って言うのは間違いないと思うけど。脚の太さと大きさを考えると、中身は絶対に小さいと思うの」
レティーシアはいつもの調子を取り戻したのか、冷静に客観的な事実を述べた。確かにそうだ。白っぽい鱗に覆われた足は、鋭い爪は付いているが、ほっそりとしているし、小さい。レティーシアの言葉に反応したのか、不審物からは先ほどよりも大きな唸り声がした。
「どうやら、言葉が解るみたいだよ、あの不審な生き物。ちっちゃいくせに、なかなかだねぇ」
思わず感心しながら呟くと、更に大きな唸り声がして、鎖で雁字搦めになったバスケットがガタガタと激しく揺れた。どうやら、何か訴えたいことがあるらしい。
「ねぇ、ラル。あの中の生き物は、‘小さい’と言う単語に反応してるようね。脚の感じからすると、毛皮の動物ではない事は確かだけど…私が中りをつけた生き物だとすると、サイズが確実に合わないのよねぇ」
小さいという単語に過敏に反応するようで、レティーシアの言葉にモギャーという謎の叫び声を上げながら、物凄い勢いでこちらに向かって突進してきた。
すかさず、肩に乗ったレティーシアを抱きかかえながら右に避け、突進してきた塊を右足で踏みつけた。
「とんだ危険生物(仮)ですねぇ。僕はともかく、レティが怪我をしたらどうしてくれるんですか?」
ちょっと頭にきた僕は、右足に更に体重を掛けて危険生物(仮)の動きを完全に封じた。
「ちょっと、ラル!ラルファード!踏みつけたらダメじゃない!貴方、大きさの違いを良く考えなさいよ!」
レティーシアは早口で捲くし立てると、僕の胸のあたりをぽかぽかと叩いて慌てて止めに入った。レティーシアにこれ以上怒られたくはないので、慌てて右足に体重を掛けるのをやめて、そっと危険生物(仮)から足を離した。
すると危険生物(仮)は、唸るのをやめてピタリと大人しくなった。
「もう、危ないマネはしませんか?」
じいっと見つめながら質問すると、危険生物(仮)の入ったバスケットは、カタンと一度揺れると再び大人しくなった。
「ラルを止められなくてごめんなさいね。あなたに怪我はない?」
今度はレティーシアが優しく質問した。すると、危険生物(仮)の入ったバスケットは、フルフルと二回横に揺れてから何秒か時間を空けてから、もう一度カタンと揺れた。
「怪我がないということでいいのね?」
もう一度レティーシアが質問すると、バスケットは一度だけ揺れた。
「怪我がなくてよかったです。僕も頭に血が上っちゃって、乱暴にしてしまってすみませんでした」
僕も冷静になり素直に謝ると、気にするなとでも言うようにバスケットが小さく何度も揺れた。
この危険生物(仮)は、意外と危険ではないのかもしれない…そう思って、ゆっくりとしゃがんでバスケットにそっと触れた。
すると、バスケットを中心にして、辺り一面が眩い光に包まれた。
「なっ、なんだったのかしら?ビックリしたぁ…」
腕の中にいるレティーシアが、目をパチパチとさせながら呟く。しかし、僕はレティーシアの言葉に反応することが出来なかった。
「う゛ぇ?!えっと、えっと…何、コレ?!」
初めての前後編です。
思ったより長くなってしまったので、分割しちゃいました。
因みに後編は近日公開とさせて頂きます(>_<)