夏の終わりにどうしても海で泳ぎたい女
夏の終わりにどうしても海で泳ぎたい女
「ふー」
「ため息なんかついて、どうした?」
「夏が終わるなって」
「そうだね」
「広はなんかやり残したことないの?」
「特にない」
「そうなの」
「わたしはあるの」
「ふーん」
「ふーんって?」
「冴子は欲張りだな」
「広はホントにこの夏に後悔はないの?」
「この夏も、あの夏もない」
「海で泳ぎたいって思わない?わたしたちこの夏、海で泳いでないよ」
「ダメだ、クラゲがいる」
「痛いの?」
「らしい」
「死んじゃう?」
「こともあるらしい」
「危険じゃない?」
「そうだね」
「クラゲのいない海はないの?」
「わからないよ」
「スマホで検索してみてよ」
「・・・・・この辺にはなかった」
「わたし、どうしても海で泳ぎたいのよ。この下、水着だし」
「なんで?」
「そういう気分なの」
「体を焼くくらいなら」
「それでいいから」
「広、浜辺はまだ暑いね」
「そうだね」
「うん」
「さすがに人は少ないね」
「わたし、泳いでくるね」
「だめだよ」
「行ってくる!」
「あっ!」
「広もおいでよ」
広は上半身だけ裸になって、やれやれ・・・と思いながら冴子のところまでやって来た。
「まったく・・・」
「ほらね。来てよかったでしょ!」
「あ」
「なに?」
「クラゲ」
「え!?なに、なに」
「ほら、言ったろ」
「なによ、このクラゲの大群は?」
「囲まれちゃったね・・・・・」
「どうしよう、広」
「私達キレイ?」
クラゲたちはマスクをしている。花粉とかPM2.5とかにも対応していそうな大きなマスク。
「キレイ?・・・・・よ」
冴子は何が何だかわからないが、答えた。
「これでも?」
クラゲたちは全員マスクを外した。
人間のような顔立ちだった。
目、口、鼻、耳、眉毛・・・輪郭。
口が耳元まで裂かれている・・・。
噂に聞いたことのある口裂けクラゲだった。
「うん!うん!キレイ!キレイ!」
「じゃあ、あなたも私達とおなじにしてあげる」
冴子は目を大きく開いたまま体を硬直させていた。
クラゲは傘のところから裁断ハサミを取り出して、彼女の口を自分と同じように耳元まで引き裂いた。
「いやーーーーーーーーーーーー!」
「だから、言ったもんじゃあない。でも口を引き裂かれるだけで済んでよかったよ」
ふたりは海からあがって、ビーチチェアに帰って来た。
「どういう意味よ?」
冴子は裂けた口を、マスクがしっかりと隠しているか何度も確認した。
「キレイじゃないって答えていたら、ハサミで殺されてたよ」
「そうなの?!キレイって言っても、キレイじゃないって言っても最悪じゃん!この口をどうしてくれるのよ!」
「クラゲの海で泳いだりするからだ。彼女達には夏中虐げられてきた恨みがある。夏中浜辺には近寄れなかった。やっと自由になれるとほっとした時に冴子がやってきたんだ。そりゃあ、怒るだろ?」
「そんな・・・わたし、これからどうするのよ・・・・・」
広はいつのまにかマスクをしていた。
「きみにはぼくがいるよ。ぼくを見つめてごらん」
冴子は、目を大きく見開き体を硬直させた・・・・・。
「僕は格好いい?」
広はマスクを外して冴子に近づいて、耳元まで引き裂かれている口を見せつけた。
「恰好よくないよ。恰好よくない・・・」
冴子は目を大きく見開き、そして大量の冷や汗をかき体をさらに硬直させていた。
「そう・・・」
そう言って、広はどこからか裁断ハサミを取り出した。
「死んでもらうよ」
「いやーーーーーーーーーーー!!」




