carte à jouer キャルト・ア・ジュエ
さあ、お仕事だ。今日こそ失敗しないぞ!
「フー、今日もやっとおしまい。遅くまで疲れた」
電気もつけずシーツに横たわるだけの夕茄。
夕茄は素敵なパティシエールに憧れここへやって来た。
都会にある有名ケーキ店『carte à jouer』
定休日以外は、お客が殆ど毎日店外へ列を並べる程の人気店。
売れ筋はフワフワの雲のような生クリームが魅惑の光を放つショートケーキ。ショーケースの中はまるで宝石箱のよう。店内のショートケーキにはルビーのように煌めく苺がスポンジというベッドに幾つも鎮座している。とても豪華だ。決してお安くはないが飛ぶように売れて行く。
「こいつぁ使いもんになんねーな」
男性店長は口が悪い。
のんびり屋、それでいて不器用な夕茄にこの仕事は向いていないらしい。誰にも告げられぬ悩み。
でも任されるので頑張る『ナッペ』クリームをスポンジに均一に美しく塗って行く工程の事だ。
眉を下げ残念そうな顔をする店長。
「どうしてお前はそうなのかね~」
きょうびパワハラで訴えられそうな言葉。
しかし大人しい夕茄はひたすら黙って働く。
――ある日『キャルト・ア・ジュエ』に小学生が社会見学にやって来た。
学校から頼まれたのは、店のやり手カウンタースタッフである繭子だった。校長先生と彼女の叔父が知り合いだ。彼女は売り子の仕事をこなすだけでなく『ヴァンドゥーズ』でもある。『ヴァンドゥーズ 』 はレジを打ちケーキを取り出すだけでなく、お菓子の専門知識を持つスタッフだ。
店長はこのベテランの繭子に頭が上がらない。彼女はやり手な上、素晴らしい笑顔と接客で『キャルト・ア・ジュエ』に大きく貢献している。
夕茄にとって、仕事ができ明るい繭子は憧れの先輩だ。
(あたし、子ども達の前でも失敗しちゃうのかな)
内心ビクビクする夕茄。
10名ほどの小学4年生の男女が白衣を着、白い帽子をかぶりアトリエに入って来た。
夕茄の鼓動が速まる。
「あ! またお前、ヘマかよ~!」
店長の半ば呆れたような怒鳴り声。
それは、夕茄が緊張で震えながらクリームを延ばす作業、ナッペに専念している時だった。ケーキにパレットナイフがなんと、突き刺さってしまった。
和やかだった小学生たちの空気が固まった。
繭子が店長の所へ近づいて行く。
「店長、製菓器具に優しくしてあげて下さい。この子はずっと悲しんでいます」
繭子の真剣なまなざしの強さに店長がたじろいだ。
パレットナイフの夕茄はキラキラと喜んだ。
店長? 技術とハートを磨いてくださいな。
夕茄は明日からも張り切って『ナッペ』をこなすよ?




