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忘れた幻に導かれて  作者: 丘上田村麻呂
月下の人形劇

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2/5

依頼

「まだ私には理性がある」そう言い捨ててクークラは歩き出す。


最後の一音だけが、わずかに揺れた。

それだけで十分だった。


森は静まり返り、虫の声どころか、葉の擦れる音も聞こえず、どこか重苦しい空気を孕んでいた。


彼女の黒衣が闇に溶け、その月光を紡いだような銀髪だけが彼女の位置を教えてくれた。

その胸元の赤い光は生き物のように脈打ち、血管を伝って体全体に広がっていくように見えた。

とてもじゃないが規則的ではない鼓動。見ているだけで自分の鼓動が乱されてるような感覚があった。


「………それって」


気づけば声を出してしまっていた。彼女は振り返らずに抑揚のない声で答えた。


「私の魂………核のようなもの。人の形をとっているだけ」

「さっきの「魔獣」とほとんど同じ」


彼女が初めて自嘲気味に笑顔を見せた、口の端がわずかに震えていた。


「少し理性を持っているだけ」


「魔獣と同じ」その言葉だけが引っかかった。


「どうにかして止められないのか?」


すると彼女はこれ以外の方法はないと言わんばかりにすぐに答えた。


「私を殺せば止まる」


風が、森の奥で鳴った。


――――――――――


彼女によるとこの森を抜けるには後半日かかるそうだ。ここまでの規模の森だとは考えもしなかった、歩くだけでも体力を使う、一人だったらそこらで死んでいただろう。


「なあ、この森の先に街はあるのか?」


「ある、近くの平原は”まだ“安全だから」


「まだ」――その一言だけが、終わっていない何かを示しているようで離れなかった。

だが、少なくともここが安全じゃないことだけは分かる。

……それでも、街があるなら――


道中さっきのような魔獣が現れたが、クークラが一目目線を向けると、魔獣はその場で止まった。

咆哮の途中で、牙を剥いたまま、まるで世界から切り取られた写真のように。

言葉を出すのが一拍遅れる


「止まってる……」


「私の力」


簡単にそう答える


「無敵なんじゃないか、これ?」


ありのままの疑問をぶつける


「そうでもない、私が認識したものしか止められない」


彼女は空間を指でなぞりそう言った。


「見えないものだったりは無理」


目の前で見せられて、説明までされているのに現実味がなかった。

その時彼女の影が二重にブレ、胸元の光が激しく点灯する。


少し苦しげに彼女が呻く。


「大丈夫か?」


「………気にしないでいい」


そう言いながらも彼女の足取りは少しだけ乱れた。

わずかな乱れだったが、それは確かだった。


胸元の光がさらに強く点灯し、影が二重ではなく三重にぶれる。

一つは彼女のもの、もう二つは彼女に追従する……いや半歩遅れて動く残像だった。


「魔人ってやつに近づくと”そう“なるのか?」


「これは違う、魔術の代償」


この止めてる力のことだろう。


「それなら止めないほうがいいんじゃないか」


「あなたを守りきれなくなる」


「……すまない」


そう言ったはずなのに、その意味だけが自分の中に沈まなかった。


「気にしないで、私のためでもあるの」


少しだけ声が揺れ、こちらに向き直した。


「どう言うことだ?」


何か頼まれるのだろうか。


「あなたに依頼したいことがあるの」


嫌な予感がした。

その正体には、気づきたくなかった。








「私が魔人になったら―――」


彼女が少しだけ間を置いた


「あなたが殺して」


稔は口を開こうとしたが、何も話すことができなかった。






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