第8話:最強ジャーキー(愛)でドーピングした死神騎士が、救出に来た王子を空の彼方へ弾き飛ばしました
あれから数日。私の開発した『魔力凝縮ジャーキー』は、公爵邸の騎士たちにとって欠かせない「士気向上アイテム」となっていた。
(これで籠城戦になっても安心ね。皆の体力も士気も完璧よ)
私は胸ポケットに入れた、カイン閣下専用の特注ジャーキー(牛肉100%)を撫でながら、満足げに頷いた。
その時、屋敷の門が騒がしい。嫌な予感がする。
「カイン・ザイード! エルナを解放しろ! 貴様の屋敷に不当に監禁されていると聞いたぞ!」
アポロン王子だ。前回の夜会でドレスに弾き飛ばされたことを根に持っているのか、今度は近衛騎士団を引き連れて、完全に「武力介入」の構えだった。
(まずいわ! 今度は本当に戦争になる!)
私は慌ててカイン閣下を探す。彼はちょうど、騎士団の訓練から戻ってきたところだった。
「か、閣下! 王子が! 私の『監禁』を理由に攻めてきましたわ!」
「……攻めてきた?」
カイン閣下の目が冷たくなる。
彼は私を背中に隠すと、アポロン王子に向き直った。
「貴様、懲りない男だな。エルナは望んで俺の『庇護』を選んだ。それを『監禁』とは、侮辱も甚だしい」
「ふざけるな! 貴様に洗脳されているだけだろう! 騎士団、エルナを救出せよ!」
王子の命令で、近衛騎士たちが剣を抜いてカイン閣下へ殺到する。
(いけない! このままでは閣下が……! いや、私が作った非常食を試すチャンス!)
「閣下! これを!」
私は胸ポケットから、大事に温めていた特製ジャーキーを取り出した。
「これは……君の……」
「三日三晩戦えるほどの魔力が詰まっています! 食べて、力をつけてください!」
カイン閣下は、私の切羽詰まった表情を見て、ニヤリと笑った。
彼はジャーキーを一口で平らげると、黄金の瞳に闘志を宿した。
「……ああ、力が湧いてくる。……君の愛は、最強の魔力薬だ」
次の瞬間、カイン閣下の姿が消えた。
彼が再び現れた時、最前列の近衛騎士たちが皆、空高く舞い上がっていた。
「ぎゃああああ!?」
「速すぎる!?」
彼は私のジャーキーでドーピング(魔力ブースト)された力で、王子の騎士団を文字通り「空の彼方へ」弾き飛ばし始めたのだ。
「フンッ!」
最後はアポロン王子だ。
カイン閣下は王子を軽々と持ち上げると、叫んだ。
「この男は、エルナの『安全』を脅かした! よって、俺の『愛』の名において排除する!」
王子は叫び声を上げる暇もなく、まるで砲丸投げのように遥か彼方の地平線へ消えていった。
静まり返る屋敷の庭。残ったのは、私とカイン閣下、そして呆然とする公爵家の騎士たちだけだった。
「……ふう」
カイン閣下は、満足げに私を振り返った。
「エルナ、見ていたか? 君が作ってくれた『愛』のおかげで、害虫駆除は完璧に終わった」
「(完璧な防衛ラインの確保!)お見事でした、閣下!」
こうして、王子は二度とこの屋敷に近づくことはなかった。なぜなら、彼が落ちた場所が、魔獣が徘徊す
る危険地帯(ただし領土の端)だったからだ。
一方、この一件により、エルナのジャーキーは「恋する乙女が愛しい人に食べさせると、相手を無敵の戦士にする伝説の媚薬(違います)」として、社交界で密かにレシピが取引されることになるのだが――それはまた別のお話である。




