第7話:長期監禁(籠城)に備えて、最強の非常食を開発しました
軍の最高機密である『指揮官の紋章』を手に入れた私には、新たな懸念が生まれていた。
(完璧な要塞、最強の護衛……。でも、一番大事なものが足りないわ。それは――「兵糧」よ!)
もし王子が逆上してこの屋敷を包囲したら? 補給路を断たれたら?
セキュリティエンジニアとして、最悪のシナリオ(BCP策定)は必須。私はさっそく、公爵家の厨房を占拠した。
「エルナ様、そんなに大量の肉と野菜をどうされるのですか?」
「長期戦に耐えうる、栄養満点の『戦略的備蓄食』を作るのです!」
私は前世の知識をフル回転させた。
目指すは、軽くて腐らず、一口で元気が出る究極の保存食。
お肉をスパイスとハーブでじっくり煮込み、魔法火で水分を飛ばして凝縮させ……完成したのは、特製の『魔力凝縮ジャーキー』と『五感回復スープの素(フリーズドライ風)』だ。
その時、公務から戻ったカイン閣下が厨房に現れた。
「エルナ、香ばしい匂いがするが……。まさか、俺のために料理を?」
「閣下! ちょうどよかったです。これを試食(検食)してください!」
私は完成したばかりのジャーキーを閣下の口に放り込んだ。
毒見を兼ねた、命がけのテストである。
「……っ!? これは……」
閣下は目を見開き、咀嚼を止めた。
一瞬の沈黙。……まずかったかしら? 保存性を重視しすぎて石みたいになった?
「――美味すぎる。口に入れた瞬間、肉の旨味が爆発し、さらに体の奥から魔力が湧いてくるようだ。……
エルナ、君は、俺の疲れを癒やすために、これほどまでに手の込んだ『愛妻弁当』を……?」
(えっ!? 『戦闘食』ですけど!? でも魔力が湧くのは、隠し味に入れた高純度魔石の粉末の効果ね!)
「はい! これを食べれば、三日三晩不眠不休で戦えますわ!」
「……三日三晩……。そんなに長く、俺と過ごしたいということか(赤面)」
閣下の勘違いが加速する中、偶然居合わせた騎士団の面々にもお裾分けしたところ、厨房はパニックに陥った。
「なんだこれは! 一噛みで全身に活力がみなぎるぞ!」
「昨日の徹夜訓練の疲れが一瞬で消えた……これは聖女の奇跡か!?」
「エルナ様! これ、我々の遠征用にも分けていただけませんか!」
こうして、私の「籠城用非常食」は、なぜか【騎士団を無敵にする伝説のレーション】として大絶賛されることになった。
その日の夕方。
カイン閣下は、私のジャーキーを大事そうに胸ポケットにしまい、真剣な眼差しで私を見つめた。
「エルナ。君の料理は、男たちの士気を高めすぎた。……あまり他の男に食わせないでくれ。君のその『特別な力(愛情)』は、俺だけのものにしておきたいんだ」
(えっ、軍事機密に指定された!? さすが閣下、情報の取り扱いが徹底してるわ!)
「
承知いたしました! これからは閣下の『専用装備』として納品しますわ!」
「……ああ。……一生、俺の胃袋を『監禁』してくれ」
(胃袋監禁?何言ってるんだ…)
こうして、私の防犯計画は「食」の面でも完璧な布陣を敷くことに成功した。
一方、この「最強の飯」の噂を聞きつけた王宮の料理長たちが、必死でレシピを盗もうと公爵邸を窺い始めるのだが……それはそれで、新たな防犯システムの餌食になるだけのことだった。




