第3話:元婚約者が「刺客」を引き連れてやってきた(※ただの迎えです)
カイン閣下の屋敷での「監禁(安全保障)」生活が始まって三日。
私の感動はとどまる所を知らなかった。
(見て、この窓の鉄格子! これ、ただのアイアンじゃないわ……魔力を流すと感電する『対・不審者仕様』の防犯格子じゃない!)
窓の外を見つめながら、私は恍惚とした溜息をつく。
さすが死神騎士。私が一言「安全を確保して」と頼んだだけで、屋敷をこれほどの【要塞(愛の巣)】に作り変えるなんて。
「エルナ、……あまり外を見るな。また誰かに狙われていると、怯えているのか?」
後ろから、カイン閣下が大きな手で私の肩を包み込む。
その声はひどく甘く、どこか必死さが混ざっていた。
「いいえ閣下、あまりに完璧な警備に感動していたのですわ」
「……君が喜んでくれるなら、一晩中庭を見回った甲斐がある。……エルナ、今日は君に贈りたいものがあるんだ」
彼が差し出したのは、銀色の美しいネックレス。……だが、私の目は誤魔化せない。
チェーンに刻まれた微細な魔法文字。これは――。
(間違いない! GPS機能付きの『発信機』ね!? これを着ければ、私がどこで拉致されてもカイン閣下が即座にGANTZ並の速度で転送されてきてくれるんだわ!)
「嬉しい……! これを着ければ、私、もう二度と閣下から逃げられませんわね!」
「っ!? ……あ、ああ。……ああ! 一生、俺の鎖で繋いでおいてやるからな……!」
カイン閣下が真っ赤になって、顔を覆って蹲ってしまった。
「死神」をも戦慄させる私の生存意欲。ふふ、順調ね。
その時だった。
屋敷の門の外から、騒がしい声が響いてきた。
「エルナを出せ! カイン・ザイード、貴様、我が国の公爵令嬢をいつまで連れ去っているつもりだ!」
この、耳障りな高音。……アポロン王子だ。
(……キタ。刺客を率いて、私の息の根を止めに来たのね!)
私は窓から身を乗り出した。
門の外には、アポロン王子と、彼に付き従う近衛兵(私には死刑執行人に見える)たちが立っている。
「エルナ! 冷静になって戻ってこい! 『国外追放』は言い過ぎだった、反省すれば婚約継続も考えて――」
「拒否しますわ!!」
私は窓から叫んだ。
「私は今の『監禁ライフ』に満足しています! 閣下の鉄壁の警護がある限り、あなたの毒牙(暗殺計画)には屈しません! ……カイン閣下、お願いします! あの『害虫』を駆除してください!」
「――。……了解した」
私の言葉を聞いた瞬間、カイン閣下の瞳から温度が消えた。
彼はゆっくりと立ち上がり、漆黒の魔剣を引き抜く。
「……聞こえたか、ゴミめ。エルナは『ここが最高だ』と言っている。そして俺に、貴様を『駆除』しろと命令した」
「な、何を言っているカイン! 俺は王子だぞ、おい、やめ――」
「エルナ、見ていろ。君を不安にさせる要素は、すべて俺がこの世から消してやる」
カイン閣下が屋敷から一歩踏み出した瞬間、大気が震えた。
その背中は、どんな防壁よりも頼もしく、私の前世の警備知識でも「SSランク」の絶対的な安全を保証していた。
(頑張ってカイン閣下! そのまま王子を追い払って、私の平和な独房生活を守ってー!)
こうして、救出に来たはずの王子は、恋に狂った死神騎士によって物理的に(空の彼方へ)排除されたのだった。




