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第18話:「精神的な暗殺」を防ぐために鉄の仮面を被ろうとしたら、国を揺るがす美貌の呪いだと思われました

 隣国のハニートラップ(という名の情報漏洩工作)を鎮圧した翌日、私は鏡の前で深刻な表情を浮かべていた。


(……まずいわ。前世の知識では、最も脆弱なセキュリティホールは『人間(感情)』よ。私のこの『顔』がスパイを惹きつけ、隙を作る要因アタックサーフェスになっているなら……物理的に隠すしかない!)


 私はさっそく、公爵邸の工房で【対人誘惑・視線遮断用フルフェイスヘルメット(防護仮面)】を鋳造した。


 無骨な鉄製。通気口以外は何の装飾もない。これなら誰も私に「安らぎ」など感じないはずだ。


 仮面を装着し、ガシャリとロックをかけた状態で食堂へ向かうと、そこには朝食を待っていたカイン閣下がいた。


「おはよう、エルナ。……!? え、エルナ……!? その……頭部は、どうしたんだ?」


 閣下の黄金の瞳が点になっている。連結索(鎖)で繋がれた私の手首が動くたび、鎖と鉄仮面が「ガシャ、ガシャ」と不気味な音を立てる。


「おはようございます、閣下。これは『精神的ステルス装備』ですわ。私の表情データを読み取らせないことで、ハニートラップの成功率を0%に抑え込む、最強の個人防衛策です!」


 仮面の奥からくぐもった声で説明すると、カイン閣下は一瞬絶句し、やがて震える手で私の仮面に触れた。


「……そうか。君は……自分の美しさが、俺以外の男を狂わせてしまうことを憂いているのだな? 俺を安心させるために、その若々しく可憐な顔を鉄の中に封じ込めると……。なんという、なんという献身的なガード(愛)だ……!」


(えっ!? 『献身的なガード』って……まあ、そうね! 自分のリソースを100%防犯に回すための決断ですもの!)


「はい! これでもう、誰一人私の内面(機密)に踏み込ませませんわ!」


「……しかし、エルナ。俺は……君の顔が見えないと、肺に空気が入ってこない。心臓が動くのを拒否しそうだ」


 閣下は、仮面の冷たい鉄の頬に自分の額を押し当て、今にも泣き出しそうな声で囁いた。


「君という太陽を隠されては、俺の世界は闇に包まれる。頼む、エルナ。俺の目の前でだけは、その仮面を外してはくれないか。……それとも、俺の精神メンタルを暗殺するつもりか……?」


(――! さすが閣下、鋭いわ! 身内(カイン閣下)の精神状態が不安定になれば、屋敷全体の防衛力が下がる……! 私の装備が、味方のデバフになっていたなんて!)


「……失策でしたわ。閣下というメインサーバーの稼働を妨げるのは、本末転倒ですわね」


 私はロックを解除し、鉄仮面を脱いだ。


 汗で少し張り付いた前髪をかき上げた瞬間、カイン閣下は眩しさに目を細め、そのまま私の手を強く握った。


「ああ……。やはり、君の笑顔が一番の防衛(癒やし)だ。……エルナ、仮面を被らなくてもいい。君に近づく不逞の輩は、すべて俺が……この世の果てまで追い詰めよう」


「(なるほど、物理的な排除デリートに専念してくださるのね!)心強いですわ、閣下!」


 こうして、私の仮面生活はわずか30分で終わった。


 しかし、廊下で私たちの会話を立ち聞きしていたメイドたちは、涙ながらに王宮へ報告した。


「エルナ様は、ご自身の美貌が国を滅ぼす魔力になることを恐れ、鉄仮面で封印しようとされました……。それをザイード公爵様が『たとえ闇に堕ちても俺が君を愛す(※誇張)』と説得されたのです!」


 その日の午後、王宮では【エルナ様の美貌は国家の禁忌(神域)】として語り継がれることになり、他国の外交官たちは「あの令嬢を口説こうとすると、鉄仮面を被った死神公爵に呪い殺される」という恐怖の噂に怯え始めるのであった。

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