第16話:防犯訓練のつもりが、伝説の暗殺ギルドを壊滅させてしまいました
アポロン王子が更生したことで、公爵邸には平穏な日々が訪れていた。
だが、私は知っている。平和な時こそが、最もセキュリティが脆弱になる瞬間(魔の時)だということを。
「閣下、本日は『実地防犯訓練』を執り行いますわ!」
私がキリッとした顔で提案すると、カイン閣下は一瞬ポカンとし、それから耳まで真っ赤にして頷いた。
「実地訓練……。つまり、二人きりで街へ出て、君を狙う不届き者がいないか『パトロール』するというのだな? ……なるほど、世間ではそれを【デート】と呼ぶそうだが、君がそう言うなら訓練なのだろう」
「はい! 最大の警戒態勢で挑みましょう!」
こうして、私たちは『連結索(鎖)』で繋がれたまま、城下町へと繰り出した。
私の格好は、可愛いフリルが付いたドレス。だが、その裏地には『対物ライフル級の衝撃を弾く強化鋼』が仕込まれ、カゴの中には「お弁当」ではなく『煙幕弾と特製ジャーキー』がギッシリ詰まっている。
一方のカイン閣下は、なぜかかつてないほどの殺気(=私を守るためのやる気!)を放っていた。
「……いたぞ。エルナ、三時の方角。路地裏に『害虫(暗殺者)』の気配だ」
「閣下、さすがの感知能力ですわ! 私のレーダーにも反応がありました!」
実はそこには、この国を裏で牛耳る伝説の暗殺ギルド『黒い影』の精鋭たちが潜んでいた。彼らはアポロン王子の残党に雇われ、エルナを狙っていたのだ。
「――作戦開始です! 閣下、『一網打尽フォーメーション』を!」
「了解した。……エルナ、俺から離れるなよ」
次の瞬間、カイン閣下は鎖をグイと引き寄せ、私を抱きかかえたまま路地裏へ突っ込んだ。
暗殺者たちが毒矢を放とうとしたが、私のドレスから自動射出された『防犯用反射パラソル』がすべての矢を弾き返す。
「なっ!? 矢を跳ね返しただと!?」
「逃がしませんわ! これでも食らいなさい!」
私はカゴから、開発したばかりの『超音波防犯ブザー(魔法増幅式)』を投げ込んだ。
「キィィィィィィン!!!」という、耳を劈くような高周波が路地裏に響き渡る。
「ぐわぁぁぁ! 頭が……頭が割れる!」
悶絶する暗殺者たちを、カイン閣下がジャーキーを食べて強化された力で、次々と「安全な気絶(再起不能)」へと追い込んでいく。
わずか30秒で、伝説の暗殺ギルドは、一人の令嬢と一人の公爵騎士によって壊滅した。
息を切らす暗殺者の首領が、床に這いつくばりながら震える声で言った。
「……お、お前たち……。たった二人で、我がギルドを……。そこまでして、この令嬢を……愛しているというのか……」
カイン閣下は、私を抱いたまま、冷徹な死神の瞳で首領を見下ろした。
「当然だ。エルナの『平和なパトロール』を邪魔する者は、神であっても許さん」
(……ええ! 訓練の邪魔をする不審者は徹底排除ですわ!)
夕暮れ時。私たちは街の人々に「仲睦まじい恋人同士」として温かい拍手を送られながら(※鎖で繋がれたまま)、公爵邸へと帰還した。
「いい訓練でしたわ、閣下! 街の治安も守れて一石二鳥です!」
「ああ……。君と一緒なら、どんな戦場も『天国』に見える。……エルナ、明日もまた、訓練に行こうか」
こうして、私の「防犯パトロール」は、いつの間にか【国中の悪を駆逐する最強の掃除屋】として、裏社会から恐れられる伝説になっていくのだった。




