第13話:防犯ゲートの誤作動を防ぐため、閣下にお願いしてみました
婚約披露パーティーの最中、私は深刻な問題に直面していた。
カイン閣下と密着するたびに、私が設置した防犯ゲートやスキャナーが「過剰な熱量(防犯本能)」を検知して爆発しそうになるのだ。
(これでは会場のセキュリティが維持できないわ……! 閣下の防衛オーラが強すぎて、システムがオーバーヒートしてるんだわ!)
私は意を決して、エスコートしてくれているカイン閣下を見上げた。
「閣下、折り入ってお願いがありますの」
「なんだいエルナ。君の願いなら、星でも隣国の領土でも用意しよう」
閣下の黄金の瞳が、光を放つ。……ダメ、これが原因よ! この光がスキャナーに「高エネルギー体」と誤認されているのよ!
「閣下。今日一日、私にできるだけ『冷たく』接していただけませんか?」
「………………は?」
カイン閣下の動きが、ピタリと止まった。
会場の気温が、一瞬でマイナス30度くらいまで下がった気がする。
「冷たく……? 俺が、君に……? もしかして、俺の愛が重すぎて……嫌いに、なったのか……?」
(えっ!? 閣下の顔色がみるみるうちに蒼白に!? さすが死神騎士、感情を押し殺して『冷却モード』に入ろうとしてくださっているのね!)
「そうです! その調子ですわ! もっとこう、視線を逸らして、私を突き放すような冷酷な態度をお願いします! そうすれば、システムの数値(私の懸念)も安定しますから!」
「…………そうか」
カイン閣下は絶望に染まった顔で、ガタガタと震えながら私から一歩離れた。
その背中からは、かつて戦場で放っていたという「ガチの死気」が立ち昇っている。
(素晴らしいわ! 閣下の熱量が消えて、スキャナーが『平常』を示しているわ! これでこそ最強のステルス警備よ!)
私は喜んで一人で会場を歩き回った。
しかし、周囲の貴族たちは戦慄していた。
「おい、見たか……。ザイード公爵のあの世の終わりのような顔……」
「エルナ様に捨てられたのか!? あの死神が、今にも泣き出しそうな顔で壁を睨んでいるぞ……!」
一方、カイン閣下の脳内は地獄だった。
(冷たくしろ……嫌われたのか……? いや、これはエルナなりの『試練』か? それとも、公衆の面前でベタベタするのは警備上良くないという、彼女なりの高度な忠告……!?)
閣下は必死に耐えていた。私に近づきたい衝動を、奥歯を噛み締めて抑え込んでいた。
だが、私が他の貴族(防犯のアドバイスを求めてきた騎士)と親しげに話しているのを見た瞬間――。
「――っ、もう無理だ!!」
閣下は「冷たくする」という約束をわずか10分で破り、背後から私を猛烈な勢いで抱きしめた。
「エルナ! 頼む、冷たくしろなんて二度と言わないでくれ! システムなんて壊れてもいい、国が滅びてもいい! 俺には君の体温が必要なんだ!!」
「キャー!?(閣下の熱量が、さっきの10倍に跳ね上がったー!?)」
次の瞬間、会場中のマジックスキャナーが一斉に「ドォォォン!」と爆発した。
花火のように飛び散る魔法の光。
それを見た招待客たちは、「なんて情熱的な演出なんだ!」と勘違いして、割れんばかりの拍手を送るのだった。
私は(閣下の防衛エネルギー、もはや制御不能だわ……!)と、閣下の胸の中で、嬉しいような困ったような、複雑な溜息をつくしかなかった。




