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主は悪役令嬢を名乗る公爵令嬢  作者: 狐のボタン


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6/6

結婚前夜の子



地下へ監禁され、洗いざらい吐かされて以降、お嬢様への僕の気持ちもバレてしまい…。

ご機嫌なお嬢様にずっと腕を組まれているような状態で、流石にそれが何日も続けば色々と諦めもつく。

結果、旦那様と奥様に微笑ましく見守られるのにも慣れてしまった。



明日が僕の16歳の誕生日であり両家の親族だけで執り行う結婚式を控えた前夜。”大切な話があるから”と、お嬢様に部屋へ来るようにと言われ、お茶を用意して向かった。

大々的な披露宴は色々と予定の調整が必要な事もあり、数日後に予定しているから、今夜は夜ふかしをしてもそこまで影響は無いだろうけど、睡眠の阻害をしてしまうようなお茶は避けて用意してきた。


「お嬢様、シンです」

ノックをして声をかける。

「入っていいわよ」

部屋に入ると、お嬢様は見たことのない衣装を着て僕を待っていた。


「似合うでしょ?セーラー服って言うのよ。私もまだ18歳だからぎりぎり着ても許されるわよね」

「新作のドレスですか?それにしてはスカートが短すぎませんか…。目のやり場に困りますし、その姿で外に出られるのはやめて頂きたいのですが」

「なぁに?私の美脚を人に見せたくないとか?」

「…そうですよ。悪いですか!?」

「お、おう。まさかそんなに素直に認められるとは思わなかったわ」

ワガママでしたか…?仕方ないじゃないですか。お嬢様は立場もありますし、なにより美人なんですよ?不安にもなります。


「…ねぇシン。 明日、私達は結婚式よね?」

「…はい。お嬢様は本当に僕なんかで…」

「それ以上言ったら躾るわよ?それと呼び方!」

怖い…。


「シンじゃなきゃ嫌なの。 …それでね、大切な日を前に一つシンに話しておかなくてはいけない事があるのよ」

「はい…?もしかして僕は愛人扱いになるとかですか?」

「違うわよ! そんな卑屈になるのなら暫く黙って話を聞きなさい。大切な話なの!」

お嬢様は怒っているというよりは、いつになく真剣な目で僕を見ている。

よほど大切な話なのだろう。


「長くなりそうですね。お茶をお持ちしたので淹れます」

「ええ。シンも座りなさい」

ティーテーブルセットへ座ったお嬢様の前にお茶を出して、僕も向かいへ座る。


お嬢様は目を閉じてため息を一つ。次に目を開いた時には何かを決意したような表情だった。

東条彩(とうじょうあや)という名前を知ってるわよね?」

「リリエル姉様が各種本を執筆される時に使われる名ですね。確か真名だと仰られていたのを覚えています」

「覚えてたんだ…。そう、私の名前。 前世のね…。私には東条彩という22歳で亡くなった前世の記憶があるの。ここではない別の世界で生きていた。 前世での最期は事故でね…こちらで言う馬車みたいなものに轢かれて一瞬だった。こっちの世界へ生まれ変わってからも、前世の記憶は消えていないの」

「前世、ですか…」

「驚かないの?」

「これでも驚いてはいますよ。ただ、リリエル姉様は幼い頃から利発な方でしたし、普通では考えられないような物も色々と考え出されていますし」

それで公爵家は今やとんでもないお金持ちだ。

なにより、お嬢様の書かれた本の中には、まるで違う世界の出来事を見てきたかのように綴ったお話が多々ありますから。

言われたら妙に納得してしまうというもの。


「私が書いた本や、色々とこちらで広めたものも元々は違う世界での知識が元になっているの」

「そうでしたか」

「えっ…それだけ?」

「何がです?」

「もっとこう、ほら…あるじゃない。気味悪く感じたりとか、やっぱり結婚するのはイヤだ…とか」

「リリエル姉様が変わっているのは周知の事実ですし、今更ですよ。むしろ合点がいったと言いますか…。それにその程度で僕の気持ちは変わりませんよ」

お嬢様が僕を想い、成された事を考えればこんな話は些細な問題でしかない。


「えー…もっと何か言われるかと覚悟していたのに…」

「僕が結婚したくないと言えば良かったのですか?リリエル姉様は結婚を取りやめたいと…」

「違う! シンと結婚してこれから共に生きていくのに、隠し事をしたままなのは不誠実かなって思って…。前世を含めて結婚するのなんて初めてだからちょっと緊張してるのもあるの」

「相変わらずリリエル姉様は律儀ですね」

そんな不安そうにモジモジとされると、抱きしめてしまいたくなるのでやめてください。


「あーあ。なんだか肩透かし食らった気分だわ…。悪役令嬢に関しても今回のことに関しても。毎回私の覚悟をなんだと思っているのよ」

「もしかしてリリエル姉様がずっと仰られていた悪役令嬢というのも前世に関係しているのですか?」

「そう! 前世の世界でね、悪役令嬢ブームがあったの!」

お嬢様は前世で読んでいたという”悪役令嬢物”というシリーズについて楽しそうに話してくれるけど、僕にはさっぱり…。


「悪役令嬢に転生した子が、どれだけ善人で良い子として生きてきても、最後には破滅エンドになるものや、酷いとメインヒロインまで転生者で、自分が逆ハールートに行くために悪役令嬢を貶めたりするの! そういう話の悪役令嬢って大体が公爵の娘でね。だから私も絶対にそういう運命なんだと思ってたのよ」

「リリエル姉様は悪役どころか、この国に無くてはならないお方ですし、国民からどれだけ愛されていると思っているのですか…」

「ううん…。私はたった一人からの重たいくらいの愛が欲しいだけよ」

お嬢様はそう言って僕の鼻をつつく。


「では…一つお約束しておきます。仮に、もしリリエル姉様が国を追われる様な事になっても僕は何処までもついていきます。離れるつもりはないので覚悟してください」

「うん…ありがとう。 それとシン?お誕生日おめでとう」

そう言ってようやくニッコリと笑うお嬢様。

慌ててポケットに入れている時計を取り出して確認すると12時を回っていた。


「ありがとうございます。 では…僕もリリエル姉様に秘密を明かさなくてはいけませんね」

「えっ…。まさかもうメリスとやっちゃってた!?」

「…? なんの話ですか。 コレですよ」

首から下げていた物を取り出して、お嬢様の目の前にぶら下げて見せる。


「16になるまで開けるな。そう言われていましたが、ちょうど16になった事ですし。約束しましたよね?」

「いいの?何が入っているのか、シンも知らないのよね?」

「もちろん知りません。育ての親でもある恩人のおばさんとの約束なので開けた事もないですし」

「シンが構わないのなら見せて」

カプセル型のケースをひねると、あっさりと二つに分割され、中からは丸められた紙切れと何かの紋章を象ったような小さな小さな金属片が一つ出てきた。


「何かしら」

「さぁ…先ずはこの紙を見てみましょう」

丁寧に丸められていたものを広げていくと、見たことのない文字がつらつらと書かれていた。

「シン! ちょっとそれ見せて!」

「は、はい」

お嬢様の叫び声に近いような大声に驚いたけど、素直に手渡した。


震える手で紙切れを持ち、真剣な目で読んでいるお嬢様。

何が書かれているのだろう。お嬢様は博識ですからね。異国の文字でも読めるのかもしれません。

しかし…。他国でも文字や言語は共通のはずですが…。僕の知らない国があるのだろうか。


「シン、おばさんが大切に持っていたっていう箱、あるのよね?」

「はい? ええ…。棲家を出て此方へ来るときにそれだけは無くさないようにと持ってきたので、今でも大切に保管していますが…。しかし、鍵がついているのか開けられませんよ?」

何かおばさんの事がわかるかもしれない…そう思って、悪いとは思いながら数年前に一度開けようとした事がある。

でも開けられなかった。壊してしまうのは嫌だったから諦めて、今も自室に保管している。


「持ってきなさい! 今すぐ!」

「わかりました」

お嬢様の剣幕に、慌てて自室へと向かう。

途中、メリスさんに捕まり…。こんな時間に何をしていたのかと詰められ…やむを得ず説明。

「私がいない所で二人だけであのカプセルを開けたのですか!?」

「気になってたんですか?」

「当たり前です! ちょうど日付けも変わりましたし、見せてもらおうかとシンの部屋へと行ったのに居なくて…。まさかお嬢様と二人で開けてしまっていたなんて…」

いやいや…。その言い方だとメリスさんも僕と二人で開けるつもりだったように聞こえますが…?

確実にお嬢様がブチギレますよ?










もうしばらく続きます。

次回も月曜更新ですのでよろしくお願いします。

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