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主は悪役令嬢を名乗る公爵令嬢  作者: 狐のボタン


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11/12

悪役令嬢の夫



王家が持つ価値のあるものってなんだろう?僕にはわからないけど…。

そういえば、リリエル様は何を担保に王家へお金を貸していたんだろうか。


「あるわよね?唯一価値のあるものが。どうせリリエル嬢から借りるにもそれを担保にしていたんじゃなくって?」

「まさか王権を手放せと!?」

「他に価値のあるものなんて持っているの?払えるのならこちらとしては何でも構わないわよ?」

王権って…。つまり王族である権利。通常そんなものは売り買いなんて不可能だけど、相手がリリエル様なら話は別だ。元々ルシフェラーゼ公爵家は王位継承権を持つ公爵家。ロイヤルデュークだというのはさっき陛下も口にした。

つまり、今の王家が継承権を全て放棄し、手放すという意味だ。

手放すという事は当然王族ではくなるし、貴族ですらなくなる。つまり一般庶民へと落ちる。


貴族にも権利を売らなくてはいけない程逼迫していた家があって、リリエル様はそちらにも家を救う為にとお金を貸し付けてた。無期限無利息っていう破格の条件で。


しかも仕事の斡旋までしたから、今は家の立て直しもされて、借金も少しずつ返還されている。

そんな貴族家がいくつもあって、結構な数の貴族がリリエル様にアタマが上がらない状況。

唯一、一切返してないのが王家だった。



「プライドに縋り付いて国ごと滅ぶのか、無様に命乞いするか選ぶといいわ。 わたくしが国へ戻り、陛下へ報告した場合、間違いなく先程の提示額では済まないでしょう。先程のはこの場で流すという名目で、陛下のお耳にも入れないからこその提示額です」

「リリエル嬢…。貸しては貰えぬか?いつもの様に」

「国を守るためなら勿論お貸し致します。しかし…既に相当な額をお貸ししています。そちらについてはどうされるおつもりですか?」

「そもそも王家に貸すっていうのが思い上がりなのよ! この国に暮らす貴族なら王家へ金を渡しなさい!」

無茶苦茶だ…。本来貴族は領地を運営し、その税を国へと納めている。

当然、公爵家として税は納めているのに。それ以上よこせって…。


「うちが傾いた時、手を差し伸べてくださったのはリリエル様でした。領地の不作や天候災害で国へと支援を要請したのに無視されて…。そんなうちへ無期限無利子で金を貸して下さり、民を救って下さったのはリリエル様です! 皆はどうだ?」

声を上げたのは今回披露宴へと招かれていた貴族家の人。

「うちも国へお願いした支援要請は却下されました。民が飢えて危なかった所を救って下さったのはリリエル様です!」

「うちも…」

「うちも…!」

リリエル様、あちこちに恩を売ってたからなぁ。

その土地でしかできない作物とかもあるから、それ関係であちこちに支援していたし。

結果的に国中へリリエル様の息がかかっているといっても過言ではないくらいに。

こういうものを作りたいから、この領地の貴族とコンタクトを取る、なんていつも話してたなぁ。


「…王権をリリエル嬢へ託す。それでどうにかしていだだけぬか」

「陛下!?何を仰られるのですか!!」

「黙れ…。周りを見てまだわからぬか?もう我ら王族には王族たる資格はない。まだ恥を晒すと言うのならば、王であるうちにお前を処すぞ」

「…っ!」

まさか陛下がそんな決断をされるとは。もう後が無いのは事実だけど、もう少し抵抗されるものかと。


「陛下。では証をこちらへお持ちください。その後、私が正式にサティーニア国への賠償を致します」

「うむ。常に持ち歩いておるから大丈夫だ」

陛下が懐から取り出したのは丸められた羊皮紙と、指にはめていた指輪。


「サティーニア国の代表として見届けます。手続きを」

「うむ…」

陛下は広げた羊皮紙にサインをした後、指輪を押し付けた。赤く薄っすらと光った羊皮紙をリリエル様へと手渡す。

リリエル様もサインをして…

「止めなさい! たかが小娘の分際で…」

王妃様が叫んでリリエル様の腕を掴もうとしたから、咄嗟に身体が動いてしまい王妃様を突き飛ばす形になってしまった。


「孤児の分際でっ!!」

起き上がった王妃様が懐から出した短剣を抜いて向かってくる。倒すなんて簡単だけど…いいのだろうか。

「シン、やっていいわよ。もうソレは一般庶民。王族へ刃をむけた大罪人よ!!」

「御意」

リリエル様の言葉に勇気をもらい、向かってきた元王妃様のナイフを叩き落とし、腕をひねりあげて引き倒した。

「始末してよかったのよ?」

「リリエル様の晴れ舞台に血は似合いませんから」

「私達の。よ、シン。そこは間違えないで」

「そう…でしたね」

未だ実感がないのは困りもの。



「陛下、今はまだそう呼ばせてください。 賢明なご判断に感謝いたします。御家族の隠居先は手配致しますから、今後はそちらでゆっくりとお過ごしください」

「お心遣い感謝いたします、リリエル陛下。直ぐに城を明け渡します」

「兵よ! 彼らを屋敷の外へとお連れしなさい」

公爵家の兵が元王族の人たちを囲むようにして屋敷の外へとつれていく。王妃様は気絶していたから、陛下が抱き上げていかれた。

去っていく横顔は、何処かホッとしたような晴れやかなものだった。

逆にずっとおとなしかった王子三人は僕へ凄まじい殺気を向けて睨みつけてきてて…。それに気がついたリリエル様が兵になにか指示を出していたけど、内容は知りたくないなぁ…。


元王族が退場し、部屋の空気が落ち着く。

「面白いものを見せて頂きました。リリエル陛下、この余興をもって今回の無礼は手打ちと致します。庶民相手に王家が権威を振りかざしても意味はありませんから。リリエル陛下、今後とも良い取引をお願いしますね?」

「はい。アスモーラ様。ありがとうございます。 とんでもない事になってしまいましたが、披露宴パーティを仕切り直させていただいても宜しいでしょうか?」

「もちろん。我が息子の晴れ舞台ですもの。こちらからお願いしたいくらいですわ。 それに、リリエル陛下のご用意してくださる物はいつも素敵ですもの。なにより、王位も継がれたのですから、そちらのお祝いもしなくてはいけませんね」

「そちらはまた改めてご報告させてください。今日は披露宴ですから」

「ええ。楽しみにしてるわ」


こうして披露宴パーティの最中に起こった一連の騒ぎは幕を閉じ、リリエル様はリリエル陛下になってしまった…。

つまり僕は女王陛下の旦那という事に。嘘だ…なんだこの展開は…。国外追放って話から怒涛過ぎやしませんか?

リリエル様の方を見ると、にっこりと微笑んで手招きされた。

近くへ行くとまた腕を組まれて…。



披露宴パーティが終わった後、リリエル様と僕はアスモーラ様に別室で改めて対面。

「ユニー! ごめんなさい…本当にごめんなさいね…。貴方を守るためとはいえ、辛い思いをさせてしまって…」

そう言いながら泣かれるアスモーラ様に抱きしめられて…。

本当にこの方が母親なのだろうか。全く実感もなければ、理解もついていかない。

それでも抱きしめられる温かさだけはしっかりと感じた。



アスモーラ様が落ち着いてから色々と話を聞かせてもらった。


僕が産まれた当時、正妃様とアスモーラ様は大変仲が悪かったそう。

理由は単純で、先に男子を産んだから…。正妃様には娘しか産まれておらず、継承権を持たない。

今日、お客様として来てくださっていた王女様がその人。つまり僕は、半分とはいえ血の繋がった姉に愛人にされそうになっていたんだなぁ。


アスモーラ様の出産から少し遅れて正妃様が妊娠していることが発覚し、もし産まれるのが男子だった場合、継承権問題が発生する。

側妃の子供とはいえ、先に産まれた男子に継承権は付与される。その為、正妃様に僕が狙われた…。

結果、已む無く僕を乳母に委ねて逃した…と。


「当時は本当にベルルとは仲が悪くって…あっ、ベルルっていうのは正妃様のことよ。でもね、ベルルも出産し、改めて自分の子を抱いて初めて後悔したらしいの…。”アスモーラの子を狙うようなことをしてごめんなさい”って泣きながら謝られたわ。子供がいかに尊くかけがえのないものだったか、自らの手で抱いて改めて思い出したって。継承権なんてどうでもいいと思えるくらい愛おしかったってね」

「その後、シンを探さなかったのですか?」

「もちろん探したわよ。ベルルの力も借りて国中を。でも見つけられなかったの…」

「もしかして、正妃様も探していたというのが悪かったのではありませんか?」

「リリエルちゃん、それはどういう意味?」

「乳母のライラさんは正妃様にシンが狙われているからと連れて逃げたんですよね?アスモーラ様と和解したのを知らなかったら、正妃様から執拗に命を狙われていると判断したのではありませんか?」

「そんな…。だから他国まで逃げたと?」

「ええ。此方で浮浪の身にまでやつして隠れていたのもその為かと」

「なんとしてでも早く見つけたくて、必死になってたせいね…。そこまで気が回らなかったわ。ベルルも力を貸してくれるというのが嬉しくて…。二人で色々と相談して手を尽くしていたのに…」

探してもらえてたんだ、僕。

ライラおばさんは何も事情を知らないからこそ必死に逃げたんだろう。その結果、離れた土地で身体を壊して亡くなってしまった。


「ライラさんと連絡手段は確保されなかったんですか?」

「そんな事をしたら辿られてしまうもの。当時はまさかベルルと和解できるなんて想像もしてなかったの。だからわたくしもユニーには二度と会えないと…」

「そうだったのですね…」

アスモーラ様はライラさんのお墓へ行きたいと言われ、明日一緒に行くことになった。


「そういえば、シンの持っていたメモの文字、ライラさんも読めたのですか?」

「ええ。ライラは先代陛下の側室の末娘なの。だから一通りの教育は受けていたわ。本来ならそんな方に逃避行をさせるなんて忍びなかったのだけど、是非にと志願してくれたのよ」

ライラおばさんも王族ですか…。側室の娘で継承権も無いってなると、政略結婚の道具にされるなんて聞いたこともあるけど、まさか僕を守って逃げてくれたなんて。


「それにしても、リリエルちゃんの思惑通りにすべて事が運んだわね」

「恐縮です…」

「リリエル様、どういう事ですか?」

「そのままよシン。 初めからこうなるのをわかってて、アスモーラ様と話も合わせてあったのよ」

怖いよ。うちの奥様が怖い!

一生、僕はリリエル様にかなわないんだろうなぁと、腕を組まれながら考えてた。










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