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短編小説 『ホットケーキテイク99』

作者: 夢夢夢
掲載日:2025/12/20

「わあ、すごい! 今日は僕の大好きなホットケーキだ!」

 大げさなほど明るい声を張り上げ、僕は食卓の椅子を引く。

 向かい側には、エプロン姿の彼女が立っている。手にはフライパン。完璧な笑顔だ。

「ふふ、たくさん食べてね。あなたのために焼いたんだから」

彼女の声には温かみがあった。

「うん、ありがとう! いただきます!」

 僕はナイフを入れ、湯気の立つ生地を口に運ぶ。

 喉が痙攣しそうになるのを必死で堪えて、飲み込む。

「……おいしい?」

「う、うん! 最高だよ! 世界一だ!」

 僕は顔を引きつらせながら、満面の笑みを作った。

 その瞬間。

 ガシャン、と彼女がフライパンをシンクに投げ捨てた。

「……カット」

 彼女の声から温度が消える。

 僕はフォークを取り落とし、ガタガタと震え出した。

「ご、ごめん。どこが悪かった? 笑顔? 声のトーン?」

「『おいしい』の間が、コンマ五秒遅いわ」

 彼女は冷徹な眼差しで僕を見下ろす。

「あのね、あなたは『世界一幸せな夫』なの。その夫が、妻の手料理を食べるのに躊躇するわけないでしょ?」

「で、でも、もう限界なんだ……。今日の朝だけで、もう二十枚も食べたじゃないか……」

「それが何? 吐けばいいじゃない」

 彼女は無表情のまま、冷蔵庫から新しい卵と牛乳を取り出した。

 カチャカチャとボウルを混ぜる音が、僕の神経を削っていく。

「お願いだ、許してくれ……。僕が悪かった。浮気なんて二度としない。だからもう、家に帰してくれ……」

「家? ここがあなたの家よ。私たちが理想の夫婦になれるまで、このレッスンは終わらないの」

 ジュウ、と新しい生地が焼ける音がした。

 甘い匂いが、鼻の奥にこびりついて離れない。

「ほら、涙を拭いて。次こそ完璧に演じてね?」

「あ……あぁ……」

「はい、よーい」

 彼女が焼きたての皿を、ドサリと目の前に置く。

「スタート」

「……わ、わあ、すごい! 今日は僕の大好きなホットケーキだ……!」

声優さんの演技を見てみたい……

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