37. モルドス家の晩さん会
「聖女様」
応接室をでて、会場に向かう途中、声をかけられて振り向くとクリスがいた。
今日はちょっと礼装な騎士隊服を着ている。
「クリス様、こんばんは。」
「すみません、モルドスの晩さん会なら聖女様は参加するようですよ、なんて軽口をたたいたら実現してしまいました。」
「やはりクリス様ですね、話の出どころは。」
ふふふと笑いながら楓は言った。
「クリス様おひとりですか?」
「アレックス様と参りました。聖女様のエスコートをするために私は急いでまいりましたが、アレックス様は転移陣のところでうろちょろしています。」
「やっぱり見立てどおり・・・」
「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ・・・えー、やっぱりアレックス様がいまだに新たな婚約を結ばないのはカテリーナ様がご結婚
されていらっしゃらないからなのかと・・・。」
楓はそういいながら、カテリーナ様が聞いたら嫌そうな顔なさるだろうな、と予想した。
「カテリーナ様は、婚約破棄されたときが、18歳で学園卒業の年だったので、周りは大体婚約されていたんです。年頃に釣り合う方の紹介を受けながらじっくり検討されていらっしゃるのだと思いますよ。」
「そういえばクリス様は、どなたかと婚約されていらっしゃらないのですか?」
「私ですか・・・・私は、聖女様がいらっしゃる年周りのアーレス家の男子は、結界張り直しの手伝いをせよと前回の聖女様から代々口伝で伝えられておりました。お手伝いが終わりましたら婚約など家族が整えると思います。」
「クリス様はどの地域の出身なのですか?」
「王領の一部に小さな領地をいただく伯爵家で代々文官をしておりました。前回の結界の修復以降、聖騎士も一族から輩出するようになりました。」
「なぜですか?」
「先代の聖女様は、結界の修復後、我が家へ輿入れされたからです。」
「そうなんですか?」
「はい、聖女様は皇族・公爵家・侯爵家の求婚を蹴って我が家にお輿入れくださいました。
御子にはめぐまれませんでしたが、当時の当主との仲は終生良かったと聞いております。私は先代の聖女様が嫁がれた当主から後を継いだ弟のひ孫にあたります。」
「クリス様から、ご一族のお話をきいたのは初めてでしたので伺えてよかったです。」
「我が家にも、聖女様の残された日記や書物などがありますので、近いうちに我が家にもお越しください。」
「ありがとうございます。」
「話は戻りますが、アレックス様しょんぼりしてこちらにいらっしゃいましたよ・・・。」
楓は、アレックスを見つけてそういった。
「また余計なことをカテリーナ様に言って嫌がられたのではないでしょうか。
アレックス様!」
クリスはしょぼんとしたアレックスに呼びかけた。
「今日の晩さんの席次はこのようになるそうです。」
クリスが誘導して楓とアレックスは隣同士の席に案内された。
「聖女様とアレックス様はこちらの席に座っていただきたいそうです。」
テーブルの中央・・・料理に集中はできないだろう。残念。
「アレックス様、おいくつになられたんですか。」
「24になります。」
「アラ、私と同じ年ですね。
それにしては・・・・・・アプローチが残念かと・・・」
「え?あぷろーちとはなんだ?」
この国の言葉にはアプローチに対応する言葉がないようだ。
「アプローチというのは、近づく、接近するという意味ですね・・・
はっきり申し上げて、カテリーナ様へのアプローチの仕方がダメダメで驚きです。」
「私はあぷろーちをしていないぞ。もう婚約も破棄した、関係のない令嬢だ。」
「その割には今日もいらしてますよね。
晩さん会に。正直になりましょうよ・・・。」
おそらく楓ほど突っ込んで聞いてくる人間がいないのだろう、場合によっては不敬に当たる可能性もあるので誰もこの確信をついてこなかったからなのか、アレックスはアタフタしている。
「私は正直に申しておる。もうカテリーナ嬢には謝罪もしたので、これ以上何も出来ない。
謝罪を受け入れてはもらったが許してもらってはいない。
幼馴染だったから普通に会話ぐらいはできるようになりたいが・・・
会うとまた私がおかしなことを口走ってしまう・・・・くっ。」
「まー普通会うたび失礼なことをいう人間に会いたいとは思わないですよ。」
楓とアレックスは隣同士で座って、晩さん会を待ちながらこそこそ話していた。周りはまだ席に
ついていない客もいるので、声を抑えていればあまり人に聞かれない。
しかし二人とも気付いていなかった。カテリーナや他の晩さん会の来客からどう見られるかを。
「本日は我が領にお越しいただきありがとうございます。
聖女様とアレックス様はずいぶん仲がよろしいようですね。
やはり、魔物退治などでご一緒されることがあるからなのですか?」
モルドス公爵が挨拶に楓とアレックスのところにきた。
どちらかというと、楓の方に顔を向けている。おそらくわだかまりがあるからだろう、アレックスと視線を合わせようとはしないようだ。
「本日はお招きいただきありがとうございます。
アレックス殿下とは魔物討伐でご一緒させていただくことはあまりないのですが、本日こうして同席させていただいたので、これまでの進捗等を話していたところです。あまりお話する機会がなかったのでこうして隣の席の同世代として、色々貴国のことを伺っているところです。」
遅ればせながら楓はあまりアレックスとばかり話していると、どんな噂を立てられるかわからないと気付いた。




