35.ゆとりの移動生活
エルパージャ地方は、鉱山に恵まれ、工業が発展している地域だとクリスは言った。
シュバイツェン王国の北部に位置していて、山岳地帯でもあるそうだ。エルパージャ侯爵領の領都では、王都と同等またはそれ以上の魔石を利用して作られた工業製品が手に入るらしく、交易も盛んだという。
そういえば・・・パルミア公爵の次女、アミル公女の婚約者がエルパージャ侯爵家の公子だと、晩さん会で姉妹から聞いていたことを楓は思い出した。
結界の張り直しのスケジュールはクリスに、騎士らの配置はアレックスが担当して行っているらしいが、パルミア地方よりゆったりとした日程になりそうだ。
第1神殿に転移陣で、クリスと二人降り立つと、そこにはエスパージャ侯爵・エスパージャ侯爵の公子・ハロルド、第1神殿の司教・司祭ら数人が、楓らを待ち構えていた。
「お待ちしておりました、聖女様」
司教が、楓らに声をかけた。自己紹介を各々すると最後がハロルド公子だった。
ハロルド公子は眉目秀麗で賢そうな少年だ。18歳だという。
「パルミア公爵領でアミル様と楽しいひとときを過ごしましたの。とても朗らかで元気なお嬢様でした。噂のハロルド様にお目にかかれてうれしいです。」
と楓は言った。
「恐れ入ります。婚約者殿にもこの非常事態で手紙も何も書けず、お互いの動静を知る機会がなくて、聖女様からアミル嬢の話を伺えてほっとしました。」
「早く学校生活に戻りたいとおっしゃってました。」
「学生は皆そうだと思います。」
「では、張り直しを行いますね。」
楓は第1神殿の水盤に向かった。
◇◇◇◇
「移動が楽だと気持ちにゆとりもできますね、クリス様。」
結界の張り直しに今回は多めの30秒かかったが、帰りの転移陣も問題なく動かせて、楓とクリスは聖女館に直接戻った。
「聖女様が転移陣での移動が苦にならないようになって良かったです。
毎回辛そうだったので・・・。」
「心配していただいて申し訳ございません。
飛躍的に移動が楽になった気がします。」
驚くほどに前向きな聖女様だとクリスは思った。
どこでも誰にでも礼儀正しく挨拶も欠かさないので、晩さん会などは挨拶する回数が多く疲れてしまうせいか、聖女様は参加したがらない.
が、会う人皆に好かれていた。
転移陣で、直接神殿に赴くことができれば、様々な時間短縮になり効率的に結界の張り直しができるだろう。
「明日はモルドス地方です。
少し魔物が出始めているようなので討伐隊も一緒にモルドスに出発する予定です。
アレックス様も同行するかは今のところ不明ですが・・・。」
「アレックス様の同行は必要ですか?」
「カテリーナ様もモルドス公爵領に戻っていらっしゃるので、バッティングされたらまた何事か起こるかもしれないと周りが心配しているんですよ。」
「もう婚約破棄して何年もたってらっしゃるんですよね?」
「会うたびにアレックス様がどうでもいい暴言を吐いてしまうんです。ですのでカテリーナ様と会う可能性は側近が潰しているのですが、今回は難しいかもしれません。
やれ、派手なドレスが良く似合っている、
とか若い男を引き連れて楽しそうだなとか余分な一言を言いたがるんです、アレックス様。その他の女性には何も声もかけないくせに。」
「カテリーナ様のことがまだ好きなんじゃないですか?」
「アレックス様がカテリーナ様のことを?」
クリスは首をかしげて考えた。
「暴言はいてでも、カテリーナ様に話しかけたいという気持ちが伝わってきます。
小さい男の子が好きな女の子に意地悪するのと同じ原理だとおもいますよ・・・
でもカテリーナ様はいい迷惑ですよね。婚約破棄してもまだちょっかいだしてくるなんて」




