プロローグ
蛍光灯の光が淡く部屋を照らすなか、私は今日も画面の中に吸い込まれていた。机の上には開きっぱなしの攻略本、漫画、ノートパソコンの隣にはコンビニで買ったお菓子と栄養ドリンクの缶が並ぶ。窓の外の夕暮れはオレンジ色に染まり、街灯の明かりが一つずつ灯っていく。
その光景の中で、私はゲームの世界に心を奪われていた。推し――アシュレイ・ウェストウッド。孤高の魔導師。銀色の髪が光に反射し、鋭い灰青色の瞳で画面越しにこちらを見据える。毎度のことだが、この瞬間は胸が締め付けられる。
「……また、このシーンか」
私は指先を噛みしめながら画面を見つめる。今目の前で繰り広げられているイベントは、彼の悲劇のルート。力を制御できずに暴走し、最終的にはヒロインによって討たれる。どのルートでも結末は同じ――推しは報われない。
画面を一時停止し、ため息をつく。部屋の散らかり具合も、今日一日の疲れも、すべてがどうでもよくなる。前世の私は、二次元恋愛至上主義のオタク女子。現実は冷たいものだと頭では理解しているのに、心はいつもゲームの中にあった。
目の前のアシュレイは、美しくも哀れな存在。彼が倒れるその瞬間まで、私はただ見守るしかない。好きだからこそ、その運命を変えたくて仕方がなかった。
「……どうして、こんなに救いがないの……」
嗚咽に近い声をあげ、私は膝を抱える。誰もいない部屋で、涙をこらえながら震える指で画面を撫でる。
そのとき、視界の端で机の上のドリンク缶が揺れ、勢い余って手を伸ばした瞬間、頭に鈍い痛みが走った。
──意識が、ふっと遠のく。
最後に聞こえたのは、私の心臓の高鳴りと、掠れた声だった。
「アシュレイ……」






