第6章 危険な旅路
Jin、Jairo、そしてSandra。
三人は〈自然の都〉を目指して歩き出す。
だが――その道のりは、想像以上に険しく、試練に満ちていた。
一日中歩き続け、インペリアへ向かう途中、サンドラはジンとジャイロに、都市の国境前にある「エイニア」という村に同行するよう頼んだ。
この村は住民たちの寛大さで有名だった。
サンドラは母親の侍女がこの場所のことをよく話していたのを思い出す。
彼女の故郷だったからだ。サンドラはいつかそこへ行き、感謝を伝えると約束していた。
遠くに最初の家々が見えた。サンドラは笑顔を浮かべて村の入り口へ走り出す。
しかし、その笑顔は突然消えた。
彼女は梁に吊るされた女性と、村の家々の前に散らばる骸骨を目にした。
近づくと、その女性が母親の侍女だと気づいた。
ジンは親友に小さく合図し、ジャイロは周囲に敵が隠れていないか確認するため身を引いた。
ジンはサンドラに近づき、慰めるように肩に手を置いた。
サンドラは振り返り、その腕の中で泣いた。
ジン:「申し訳ない。彼女も村の人たちもこんな目に遭うべきじゃなかった。」
サンドラ:「約束してたのに…また会えるって約束したのに…」
その時、ジャイロが二人のもとへ歩み寄る。
ジャイロ:「生存者はいない。死体ばかりだ。」
突然、吊るされた女性が頭を上げる。漆黒の瞳は不気味な光を放ち、悪魔のような笑みを浮かべていた。三人は慌てて後退し、飛びのいた。女性は低い声で言った。
女性:「私のこと、恋しかった?」
恐怖に震えながら三人は見つめ合い、その女性がプロト皇帝1に取り憑かれていることを理解した。
するとサンドラが怒りを爆発させ、強風が彼女を包み込んだ。
サンドラ:「あんた、彼女に何をしたの?」
ジン:「村人たちに何が起こったんだ?」
女性:「ああ…ただお腹が空いてただけよ。この村が私のご馳走になったの。」
ジャイロは、以前のアヤナの姿を思い出し、怒りが込み上げた。
炎の球を作り女性に向けて放とうとしたが、サンドラがその前に立ち塞がった。
サンドラ:「殺さないで。まだ彼女の中に生きているものがある!」
ジャイロ:「信じてくれ、彼女は死んでるんだ!右足の親指を見れば分かる。」
ジンとサンドラはその足の指を見つめた──骨は食い荒らされ、腐敗していた。
彼らはゆっくりと女の方へ視線を向ける。
女は何かを呟いていたが、それはまるで悪夢のように意味不明だった。
突然、彼女は猛獣のように叫んだ。
女:「スカルディアァァ!!」
ジンはとっさにサンドラを突き飛ばし、彼女をかばうように横へ飛んだ。同時に、ジンはジャイロに叫んだ。
ジン:「ジャイロ、炎弾を撃て!!」
だが、その命令よりも早く、女の体が内側から破裂した。黒い血が四方に噴き出し、辺り一面に飛び散る。
ジン:「…遅かった。」
サンドラは目を虚ろにさせたまま、膝をついて地面を拳で何度も叩く。
サンドラ:「助けられなかった…私、彼女を…!」
ジン:「アヤナの時とは違う。彼女は…もうとっくに死んでいたんだ。」
ジャイロ:「…すまない。」
その時だった。怒りに震えるサンドラの拳に、黒い液体がひと雫──音もなく近づき、気づかぬうちに傷口に染み込んだ。
彼女はゆっくりと立ち上がる。背を向けたまま、何も言わずに。
ジンがそっと近づこうとした、その瞬間──
ゴォォッ!!
突風が発生し、ジンとジャイロは吹き飛ばされた。サンドラが振り返った。
その瞳は、かつての彼女のものではなかった。
深淵のような黒、そして不気味な輝きが宿っていた。
ジン:「そんな…彼女じゃない…!」
ジャイロ:「どうにかして、助けなきゃ…!」
だが次の瞬間、風がさらに激しく唸りを上げる。
サンドラは音もなく動き、ジンの腹に拳を叩き込んだ。
ジンは地面に倒れ込み、苦しげに息を吐いた。ジャイロが背後から抱きとめようとしたが──彼女は片手を上げただけで、ジャイロの身体は空中に放り投げられた。
そして地面に叩きつけられ、さらに近くの家に投げ飛ばされた。
サンドラは首をゆっくりとジンに向け、無感情に歩き出す。
彼女の連撃を、ジンはかろうじて回避するが──
その動きはもはや人のものではなかった。
怒りの度を増したサンドラが後退し、周囲の風を操る。
その風は、まるで刃のように鋭くなり──最後に、猛烈なスピードの蹴りがジンの腹に炸裂した!
ドガァッ!!
その衝撃で、ジンは膝をついた。呼吸が乱れ、彼は苦しげにかすかな声で呟いた。
ジン:「何をされても構わない……。でも、俺は約束したんだ。お前のそばにいるって、必ず……!」
サンドラ:「ムダよ……。私はただの寄生体……。プロト皇帝があなたたちに残した”贈り物”に過ぎないの。」
ジン:「まだ終わっちゃいない! 俺が──お前を救う!」
その言葉に、サンドラの動きが止まり、表情が揺らぐ。
仲間たちと過ごした記憶が一瞬、彼女の心に蘇る。
だが──プロト皇帝の寄生体が彼女を突き動かす。
ジンを殺せ、と。だがその瞬間、ジャイロが背後から飛びかかり、彼女の動きを封じる。
ジャイロ:「長くは抑えられねぇ! 何か、彼女を目覚めさせる方法を──早く!!」
サンドラ:「ムダよ……。サンドラはもう消えたの!」
ジン:「そうか? でも……“アレ”なら効くかもしれない。秘奥義──フスカイ!」
ジンが彼女に近づく。サンドラは叫びながらも、不敵に笑う。
サンドラ:「フフッ……やっと引っかかったわね……。あなたたちのおかげで、黒い液体は村中に広がったわ!」
ジャイロ:「ジン、急げ! もう持たねぇ……!」
ジンは一気に距離を詰め、サンドラの頬にそっと右手を添える。
そして、彼女の額に──静かに、優しくキスをした。
サンドラの顔が真っ赤になり、そのまま気を失って崩れ落ちる。
その瞬間──寄生体の本体が彼女の体から飛び出す!
ジンは雷の球を放ち、ジャイロは火炎球を撃つ!
二つのエネルギーが交差し、寄生体を粉砕した。
二人は歓声を上げ、勝利に安堵する。
――だが、休む間もなく、地面から無数の骸骨が現れる。
死者の軍勢……100体以上に囲まれてしまう。
ジンはサンドラを抱えたまま、脚技で応戦する。
その時──地面にひびが入り、無数の巨大な枝が現れる!枝は骸骨たちを次々に絡め取り、地中深くへと引きずり込んでいった。
ジャイロ:「……な、なんだったんだ今のは!?」
ジン:「この村……インペリアの境界のすぐそばだ。きっと……自然の守護が動いたんだ。今はただ、助かったことに感謝しよう。」
ジャイロ:「あんな技、持ち主には絶対に関わりたくねぇな……。
でさ……さっきのおでこへのキス、アレはどういう意味だ?」
ジンは真っ赤になり、何も答えずにそっぽを向く。
ジャイロはそれを見て、楽しそうに笑う。その後、ジンはサンドラを優しく揺さぶり、彼女がゆっくり目を覚ます。
目を開いたサンドラは頬を赤らめ、ジンからそっと距離を取る。
記憶が戻り──彼女の心に、あの“額へのキス”の感触が残っていた。
ジャイロはにやにやしながら二人の間に割り込み、腕をまわして言う。
ジャイロ:「さぁて……次の冒険に向かうか!」
ジャイロ:「俺たち、最高のチームだな!」
サンドラ:「うん、そう思う。」
ジン:「仲間一人ひとりが、かけがえのない友情だ。」
ジャイロ:「へぇ〜、キスできる上に、今度は哲学者気取りかよ?」
ジン:「うるさいな! 誰も聞いてねぇよ!」
三人は声を上げて笑い合いながら、アルグアディアとインペリアの境界線へとたどり着く。
その目の前に、広大な景色が広がっていた。
しばらく進むと、一つの村が見えてくる。
数時間歩いた末にたどり着いたその村は、五本の巨大な“半樹”に囲まれていた。
そのうちの二本が、村の入り口の前に立ちはだかっている。
三人が近づくと──左側の半樹が突然動き、長く伸びた枝で三人を薙ぎ払うように攻撃してきた!
「うわっ!」
三人は慌てて後ろに飛び退く。半樹は再び定位置に戻り、重々しい声で話し始めた。
セミ樹木:「許可なく村へ入ろうとする者は、いったい何者だ?」
ジャイロは両手で頭を抱え、ため息をついた。
(クソッ、こいつと一緒に旅してから、毎回化け物とばっかり遭遇してる気がする…)そんな彼の横で、ジンは一歩前へ出て、深く頭を下げた。
ジン:「申し訳ありません。私たちは、ただ休める場所を探しているだけです。」
セミ樹木:「礼をもって接する者よ、その心意気に免じて許可しよう。お前たちは中へ入ってもよい。」
二体のセミ樹木はゆっくりと道を開け、元の場所に戻った。
三人は通り抜けながら、二本のセミ樹木に軽くお辞儀をする。
そして村の中へ入ると、温かな雰囲気に包まれた立派な宿が目に入った。
そのとき、ジャイロは左に首をかしげて、人々で賑わうサルーン(酒場)に目を留めた。
ちょうどそのとき、ひときわ美しい女性がその中へ入っていくのが見えた。
即座にジャイロはジンの襟を掴み、力強く引っ張りながらサルーンへと向かう。
ジャイロ:「宿探しは任せたぞ、サンドラ!」
サンドラは拳を振り上げた。
サンドラ:「ジャイロ、あとで覚えてなさいよ!!」
ジンとジャイロがサルーンへ入ると、心地よい音楽とざわめきが二人を包んだ。
テーブルでは人々がカードゲームに興じ、酒を酌み交わしている。
再び視線を巡らせると、先ほどの女性が小さなステージで歌っていた。
その美しさに見とれて、ジャイロはその場で立ち止まる。
サルーンの中は二つの大きなスペースに分かれていた。
ステージと客席のあるエリア、そしてバーカウンターと複数のテーブルが並ぶエリア。
ジャイロはポケットから数枚の硬貨を取り出し、ジンに放った。
ジャイロ:「ほら、酒でも飲んでろ。…それと、あの子は俺が先に目をつけたからな!」
ジン:「金はありがたくいただくけど、心配するな。タイプじゃない。」
そう言いながら、ジンは内心で思っていた。
(サンドラのほうが、何百万倍も美しいに決まってる…)
ジンはバーカウンターへ向かう。そこで、バーテンダーがやや警戒するような目でジンを見つめていた。
彼を見返し、ジンはスツールに腰を下ろした。
バーテンダー :お前、ここに来るには少し若すぎるんじゃないか? 牛乳を探してるなら、ここじゃないぞ!
ジン:男の価値は、何を飲むかで決まるもんじゃない。今は……ご飯を少しいただけませんか。
バーテンダー:ここじゃあ、よそ者はあまり好かれないんだ。
ジン:よそ者だからといって、危険ってわけじゃない。出会う前は、誰だってよそ者だろ。
バーテンダーはジンに茶碗のご飯と一杯の水を差し出した。
ジンはそれを一気に食べ、飲み干す。
カードで遊んでいた連中が、哀れむように笑い声を上げた。
二人の男が立ち上がり、他の客は何かを感じ取ったのか店を出て行く。
二人はジンに近づくが、ジンは反応を見せない。遠くから様子を見ていたジャイロは心の中で思った。
(触るな……後悔するぞ。)
そして、彼は大きな笑みを浮かべ、ステージへ視線を向けた。
バーテンダーはテーブルを叩き、ジンを軽蔑の目で睨む。
バーテンダー:おい、ガキ……話しかけられたら返事くらいしろ!
ジン:ああ、俺に言ってたのか?
バーテンダーは激怒し、ジンの首を掴もうと腕を伸ばした。
だがその瞬間、ジンの鋭い眼差しに射抜かれ、動きが止まる。
まるで催眠にかかったかのように数歩後ずさる。
気づけば、ジンの瞳は変化していた。周囲に重圧が走る。
薄いグレーのTシャツを着た黒髪の男が、ジンの肩に手を置いた。
右側の男:さて、坊や、お前は――
言い終える暇もなく、ジンの拳が男の喉に突き刺さる。男は声を失い、喉を押さえて地面に倒れ込んだ。
仲間が助けようと駆け寄るが、顔を上げた瞬間、ジンに向かって突進する。
短刀を抜くが、ジンはスツールから立ち上がり、腹に強烈な蹴りを叩き込む。
男は血を吐き、そのまま壁を突き破って外へ吹き飛ばされた。バーテンダーは怒り狂い、叫ぶ。
バーテンダー:お、俺の壁が!
ジン:少なくとも、新しい窓にはなるだろ。
ジンは笑った。
だが、相手は怒りに震えながら立ち上がり、テーブルの下に隠していた剣を抜いてジンに飛びかかる。
男:テメェ、タダじゃすまねぇぞ!
その瞬間、小さな火の玉が男の頭に当たり――髪が一気に燃え尽きた。
男:お、俺の髪! 髪が……焼けたぁぁぁ!
振り返ると、ジャイロが悪戯っぽい笑みを浮かべながら手をひらひらと振っていた。
男は顔を青ざめさせ、気絶した仲間を抱えて必死に逃げ出す。
ジンはゆっくりとバーテンダーの方へ向き直り、腰を下ろしてじっと睨みつけた。
バーテンダーは恐怖に駆られ、震えながらジンを見返す。
慌ててカウンターを飛び越え、出口へと走ろうとするが――その前に、ジャイロが立ちはだかった。バーテンダーは悲鳴を上げて飛び退く。
バーテンダー:お、お前らは化け物か!
ジャイロ:化け物? だったら化け物として……お前の最高の酒をいただこうじゃないか! それで、お前の意地悪を思い知らせてやる!
バーテンダー:そ、それは無理だ……あれはリクの物なんだ!
ジャイロ:リク? そいつは誰だ?
その瞬間、ジャイロの背後に一人の男が現れた。
圧倒的な気配――場を支配するような重い圧力が広がる。
ジャイロは動かず、その緊張感を正面から受け止めた。
男:坊主……そこをどけ。
男の左手がジャイロの頭へと伸び、素早い動きで平手を叩き込む。
ジャイロはサルーンの外へ吹き飛ばされ、壁を突き破って転がり出た。
男はそのままジンへと歩み寄る。
ジン:お前が誰かは知らねぇ……だがな、今のはとんでもない間違いだ!
その間に 、サンドラは鏡をじっと見つめていた。
その瞳は決意に満ち、燃え上がるような光を宿している。
サンドラ : 人が変わると決めたなら……もう後戻りはできない。
彼女は後ろ髪を掴み、強く握りしめた。手はわずかに震えている。
だが、その視線は一切揺るがない。
サンドラ(心の声): 弱さは終わり……これからは、本当の私だ。
刃が髪を切り裂く音が響く。
床に落ちていく髪の束――まるで過去の痛みが消え去っていくかのように。
サンドラは顔を上げた。
短くなった髪とともに、鏡の中に映る自分の姿。
その周囲には新たな炎のようなオーラが立ち昇っていた。
サンドラ : 今こそ……生まれ変わる時だ!
ジンが構えようとしたその時、バーテンダーが慌てて彼の前に飛び出した。頭を深く下げ、全身を震わせながら叫ぶ。
バーテンダー:リ、リク様! どうかお許しください! こいつらは、この街の人間じゃありません!
だが、リクは聞く耳を持たなかった。
彼はバーテンダーの頭を鷲掴みにし、そのまま床へ叩きつける。
鈍い音と共にバーテンダーは呻き声を上げ、リクは無造作に手を離してジンへと進んだ。
リク:さて……坊主。続きを言え。
ジン:お前は……俺の最高の仲間に触れた。その代償はでかいぞ!
リクは鋭く腕を振り下ろし、ジンの腹部に拳を突き刺す。ジンの身体は何メートルも滑り、床を削りながら吹き飛ばされた。
リクは不気味に笑い、今度は回し蹴りを放つ。
ジンは間一髪でかわし、頭突きを叩き込む――が、リクは一切動じない。
逆に一歩下がり、戦闘態勢を取った。
リク:悪くない……だが覚えておけ。俺が本気を出すのは二割だけだ。
ボキボキと首を鳴らす音が響き渡り、圧倒的な重圧が空間を覆う。
リク:さあ……六割に上げたらどうなるか、見せてやろう。
次の瞬間、リクはジンの眼前に姿を現し、渾身の一撃を叩き込む。
轟音が響き、バーの半分が吹き飛んだ。砂煙が立ちこめ、視界が覆われる。
だが――煙が徐々に晴れていくと、その拳はジンの手によって止められていた。
ジンの瞳には鋭い光が走り、瞳孔には一直線の線が浮かび上がっていた。
リク:ば、馬鹿な……!
ジン:俺は仲間を守る……たとえ命を賭けても! だからこそ、俺はもっと強くならなきゃいけないんだ!
ジンはリクの拳をさらに強く握りしめる。地面が揺れ、衝撃波が広がった。
ジン:だから、俺はもっと強くならなければならない!
だが突然、ジンの背後に凄まじい速さの影が現れた。
強烈な一撃がジンの首筋を打ち抜き、ジンは反応する間もなく地面に崩れ落ちる。
意識を取り戻した時、彼の目に映ったのは心配そうに覗き込むジャイロとバーテンダーの姿だった。
ジン:誰かに……後ろからやられた!
バーテンダー:おそらく……アカネだ。リクよりもさらに強い男だ。
ジャイロ:リクのことをもっと話せ!!
バーテンダー:リクは……新たなる〈自然の皇帝〉の弟だ。掟も規律も無視する、恐ろしく強大な無法者……。
その後、ジンとジャイロは宿へ戻り、サンドラと合流した。
入口には腕を組み、怒りを露わにしたサンドラが待っていた。
サンドラ:遅いじゃない!!
ジャイロ:ひっ……。
サンドラは腕を組んだまま、さらに続ける。
サンドラ:部屋は一つしか取れなかった……でも、それ以上に大事な情報を手に入れたわ。
ジンとジャイロは息を呑み、耳を傾ける。
サンドラ:〈自然の皇帝〉はすでにこの都市を支配下に置いている。自然の眷属や選ばれた者だけが中に入れるの。
その他の村はすべて……ゴブリン、オーク、そして無数の魔物たちに壊されてしまったのよ。
ジン:……気を抜くわけにはいかないな。
三人は二階に上がり、唯一の部屋を発見する。
ベッドが一つしかないのを見て、ジャイロはニヤリと笑った。
だが次の瞬間――ジンの拳が彼の頭に炸裂する。
ジンは何事もなかったかのように床に毛布を敷き始めた。
ジンはサンドラにベッドを譲った。
数分後、三人は床に集まり、昔話や冗談を交わしながら笑い合い、やがて眠りの準備を整えた。
――深夜。
ジンの目がふと開いた。
胸の奥に何かが引っかかり、眠りを妨げていた。
彼はそっと立ち上がり、音を立てないように部屋を出る。
村の広場に出ると、噴水の縁に腰を下ろし、夜空を見上げた。
頭上には無数の星が輝いている。
その光景に心を奪われながら、ジンの頬を一筋の涙が伝う。
――祖父の言葉が脳裏に蘇る。
祖父:星ひとつひとつは……誰かの願いを映しているのだよ。
その時、不意に物音がしてジンは肩を震わせた。
振り向くと、サンドラがこちらへ歩いて来るのが見えた。
彼女は何も言わず、ジンの隣に腰を下ろし、同じように星空を見上げた。
ジン:……ずっとそこにいたのか?
サンドラ:ええ……。あなたが出て行くのを見て、心配になったの。だから、ついて来ちゃった。
その言葉に、ジンの頬が赤く染まる。
サンドラもまた、同じように頬を染めた。
ジン:……言ってなかったかもしれないけど……君は、俺にとってすごく大切な存在なんだ。
サンドラ:……私もよ、ジン。
二人は星の下で言葉を交わさず、ただ互いを見つめ合った。
その瞬間、二人の絆はさらに強く結ばれた。
――村は月明かりに包まれ、静かな夜を迎えていた。
だが、空気の中にどこか不穏な匂いが漂っていた。
ジンの背筋に悪寒が走る。
本能が彼を村の入口へと駆り立てた。
そこには、村を守る半樹の巨人が立っていた。
その大きな瞳は森を見据え、まるで迫る危機を感じ取っているかのように動かない。
突如、ジンの瞳孔が変化する。
――夜目が本能的に発動したのだ。
そして見えたものに、ジンの血は凍りついた。
ジン:……や、奴らは……数百……! その中には……強大な気配を放つ者もいる!
サンドラもまた、ジンの険しい声に気づき駆けつけた。
彼女は同じ方向を見据え、その光景に心臓が締め付けられる。
暗い森の中――。
無数の巨大な影が音もなく蠢いていた。
数百を超える怪物たちが村を取り囲み、その瞳は夜を切り裂くように光を放っている。
やがて、半樹が口を開いた。
その声は枝を通じ、大地にまで響くようだった。
セミ樹:「……あれはアルカード……だが……奴らは今までのとは違う!」
サンドラ:「アルカード……? 何、それ……?」
セミ樹:「すべてを食い尽くす魔物だ……!」
地響きのような音が、奴らの足元から村に伝わってくる。
その威圧感に空気さえ震えていた。
次の瞬間、セミ樹の幹から奇妙な香りが放たれた。
その匂いは一気に広がり、アルカードたちは動きを止める。
グルルル……と低く唸り声を上げ、やがて踵を返すと――群れごと森の闇に消えていった。
セミ樹:「我らはこの匂いで奴らを退けている……だが……」
風に揺れる葉が、不安に震えていた。
セミ樹:「これほどの数を見たのは初めてだ……」
ジンとサンドラは互いに目を合わせる。
ジン:「どうしてこんなに近くまで……!? なぜ村の防衛を抜けられたんだ!?」
セミ樹は枝を揺らし、苦しげに答える。
セミ樹:「……わからぬ……」
サンドラはセミ樹の幹にそっと手を置き、静かに言った。
サンドラ:「もし助けが必要なら……いつでも言って。私たちは必ず力になる」
その言葉に、セミ樹はかすかに微笑んだ。
ひび割れる樹皮が、笑顔のように軋む。
セミ樹:「私は村の守護者……この身が朽ちようとも、住民を守るのが務めだ……」
ジンはその姿を見つめ、胸に手を当てた。
ジン:「約束するよ……もう二度と木に立ちションしないって」
サンドラはジンの頭に強烈な拳を叩き込んだ。
サンドラ:「バカ!!」
二人はそのまま宿へ戻っていった。
部屋に着くと、おやすみを言い合い、そして眠りについた。
翌朝、太陽が地平線から昇り始めた。
サンドラはゆっくりと目を開け、ゆるやかに伸びをする。
彼女はまだ深く眠っているジャイロに視線を向けた。
サンドラ:「この二人、本当に赤ん坊みたいに寝てるわね……」
その唇に微笑みが浮かんだ。
優雅な仕草で、彼女は風を呼び出した。
しかし、その瞬間――。
半分眠っていたジャイロがクッションを掴み、部屋の端から全力で投げつけた!
それはすさまじい速度で飛び、サンドラの顔に直撃する。
彼女は拳を数秒間ぎゅっと握りしめた。
そして彼に、怒りのこもった視線を投げつけた。
サンドラは窓を大きく開けた。
彼女は一歩後ろに下がり、腕を二人に向ける。
次の瞬間、二人は一気に窓の外へと吹き飛ばされた。
ジンとジャイロは地面に転がり、小さなたんこぶを頭に作りながら目を覚ます。
ジンは何が起こったのか理解できない。
ジャイロは衝撃を受けつつも、クッションを投げたことを後悔していた。
ジン:「一体、今度は何をやらかしたんだ?」
ジャイロ:「まさか……あの女、朝からこんなに野蛮だなんて思わなかった!」
すると突然、不気味な笛のような音が響いた。
二人はゆっくりと頭を上げる。
そして目にした――
部屋のベッド全体が、彼らの頭上へと落ちてくる光景を。
ジャイロ:「なんだよこれ!? 一階からベッドを投げ落としてきやがった!!」
窓際に肘をつき、腕を組んで彼らを見下ろすサンドラの姿があった。
サンドラ:「野蛮って言った罰よ!」
二人は間一髪でベッドを避け、背筋に冷たい震えが走る。
――三十分後。
三人は宿の前に立っていた。
宿屋の主人が指をさして言う。
宿屋主人:「ほら、これを持っていけ。どうせもう使ってなかったからな」
三人は深々と頭を下げ、宿を後にする。
荷馬車に乗り込み、共にいた魔獣を連れて道を進む。
ジンとジャイロは最後にもう一度酒場を振り返り、手を振った。
その視線の先で、酒場のバーマンが笑顔で叫ぶ。
バーマン:「二度と来るなよ!」
ジンは指を鳴らすと、髪が一瞬でくるくるとカールした。
三人は大笑いしながら旅路を続ける。
村の出口に着くと、大樹が進むべき道を示してくれた。
出発してから三十分が経ったころ――。
漆黒のポータルから、一人の男が姿を現す。
彼はまっすぐ村の入口へと向かっていった。
――プロト皇帝2が到着したのだ。
半樹は侵入者の前に立ちふさがった。
彼は立ち止まり、左手を差し出す。
半樹は侵入者の前に現れ、その根を戦槍のように地面に突き刺す。
彼は大きな手を差し出し、村を守る準備を整えた。
半樹:「お前から悪しきオーラを感じる! お前はこの村の脅威だ! 通さぬ!」
言い終わるか終わらぬかのうちに、プロト皇帝2が彼の背後に現れた。
木は反応する間もなく、真っ二つに切り裂かれた。
彼は静かに宿屋に歩み寄る。村全体に恐怖が漂う。
その足音はまるで死神の鐘のように響いた。
彼の視線は宿屋主人を貫く。
プロト皇帝2:「自然の皇帝はどこだ? 時間を無駄にするな!」
宿屋主人(地面に唾を吐きながら):「くたばれ!」
彼は鋭い視線で主人を見つめ、近づく。
震える拳で一撃を試みるが、プロト皇帝の一動作で腕は掴まれ、切断された。
主人は叫び声を上げる。
皇帝は微動だにせず、ゆっくりと足を上げ、その一撃で宿屋の半分が粉々になった。
衝撃波は周囲の家々を吹き飛ばす。
プロト皇帝2のオーラは道を踏みしめるものすべてを押し潰し、村全体が悪魔の存在に覆われたかのようだった。
彼は外に出て村の中央に立ち、恐怖のオーラを放つ。
他の半樹たちが現れ、彼を取り囲む。
不吉なオーラが彼を包み、圧倒的な力で空気を歪ませた。
彼の前に、村の門の前に五本の半樹が立ちふさがり、サファイアの瞳が守護の光を放つ。
その中で最も大きな一体が一歩前に出た。
半樹:「どうして我らの村を破壊しに来る!?」
残りの半樹たちも戦闘態勢を取り、根を震わせ地面を振動させる。
しかし、暗黒のプロト皇帝は彼らに目もくれなかった。
プロト皇帝2:「村を地図から抹消することにした。だが、まずはお前らからだ」
その声は冷たく、容赦がなかった。
周囲の空気は重くなり、圧倒的な圧力に満ちた。
プロト皇帝2:「消え去る覚悟をしろ!」
彼は右手を差し出す。
破壊の力で満ちた闇の球体が形成される。
その一撃で球体を放つと、信じられない速度で飛び、空気を裂く鋭い笛の音を響かせた。
一体の半樹が反応し、腕を交差させて盾を作ろうとする。
しかし、衝撃の瞬間――。
爆発が戦場を引き裂いた。
最初の半樹は瞬時に灰となり、残りの四体は後方に弾き飛ばされ、地面に激突した。
半樹:「なんだ……これは?!?」
守護者の一人が立ち上がろうと悲鳴を上げた。攻撃の衝撃で体は震えている。
しかし、暗黒のプロト皇帝は容赦しなかった。
一瞬のうちに姿を消し……次の瞬間、別のセミ樹の背後に現れた。
その拳が守護者の頭を激しく打ち付け、破壊的な衝撃波を放つ。
衝撃はあまりにも強烈で、空気が裂ける音がした。そして一瞬のうちに、そのセミ樹は粉々に砕け、まるで存在しなかったかのように消え去った。
残る三本のセミ樹は、ただ衝撃に呆然とするしかなかった。
セミ樹:「こ…こいつ…化け物だ…!力が強すぎる…!」
そのうちの一体が、パニックに陥り、絶望的な攻撃を試みる。
硬い樹皮に覆われた巨大な拳を振り上げ、全力で打ち下ろす準備をする。
地面はその衝撃で揺れる!
しかし、プロト皇帝は微動だにしない。
拳が振り下ろされる……その瞬間、セミ樹は大きく目を見開いた。
その幹が……切り裂かれたのだ。
理解する暇もなく、黒い稲妻のような腕が胸を貫く。
一秒後、体は粉々に爆散し、焼け焦げた破片が四方八方に飛び散った。
最後の二本のセミ樹は恐怖で固まり、木の顔に刻まれた恐怖が浮かぶ。
村人たちはパニックになり、村の出口へ走る。
プロト皇帝はゆっくりと彼らを見上げ、かがんで片手を地面に置く……
仮面の下で、不気味な笑みが広がった。
空気そのものがその力に震える……その間に、サンドラは急ブレーキで荷馬車を止めた。
冷や汗が額を伝う。
サンドラ:「このエネルギー…いや…ありえない…」
ジンとジャイロは、深刻な表情で互いを見つめ合った。
ジャイロ:「あいつだ…」
空が暗く覆われた。
紅の閃光が地平線を照らす。
瞬間――破滅的な爆発がすべてを飲み込み、村は一瞬にして灰へと変わった。
静寂が訪れる。
ジンは拳を固く握りしめ、地平線を見据えていた。
そこには、暗黒のプロト皇帝2の黒いシルエットがポータルに吸い込まれるように消えていく姿があった。
その恐怖のエネルギーも、同時に消え去る。
サンドラ:「み…みんな…死んでしまった!」
ジン:「あんなもの、生き残れるはずがない! 急いで自然の皇帝を探さなければ! 俺たちはもっと強くならなきゃいけない!」
ジャイロ:「その通りだ! あんな力には、多人数で立ち向かわなきゃ勝てない!」




