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異世界美少女エリス<リフレクト・フィールドの魔法>

小川誠は、地味で目立たない性格の会社員だった。特別な才能もなく、上司に叱られることが日常茶飯事。その日は特にひどく、締め切りを守れなかったせいで、同僚たちの前で大声で罵倒されるという屈辱を味わった。


「あの部長さえいなければ…」

誰にも聞かれないよう小声で愚痴をこぼしながら、駅前の公園を歩いていたそのとき、誠の目の前に突然、光の粒が集まり、一人の少女が現れた。


「はじめまして、小川誠さん。」

銀髪に透き通るような肌、どこか神秘的な雰囲気をまとった美少女が微笑んでいた。


「え、えっと、誰…ですか?」

驚きのあまり、言葉が詰まる。


「私はエリス。この世界の外から来た者よ。あなたにちょっとした力を授けてあげる。」


そう言って、彼女は誠の胸に手をかざした。すると、温かい感覚が体全体に広がった。


「何をしたんですか…?」


エリスはにっこりと笑って答えた。


「あなたに『リフレクト・フィールド』という力を授けたの。この力は、他人から向けられた感情や意識をそっくりそのまま反射するのよ。」


「感情を反射する…?」

誠は訳が分からず、困惑の表情を浮かべたが、エリスは何も答えず消えた。


翌日、誠はいつものように出社し、また叱られるのだろうと憂鬱な気持ちで席に座った。だが、様子が少しおかしい。部長がこちらにやってくると、開口一番、「お前は本当にダメな奴だな!」と怒鳴り始めたが、突然、自分の顔を掴みながら「ああ、なんで俺がこんなことを!」と叫び、去っていった。


「なんだ今の…?」


その後、同僚からの嫌味や冷たい視線も、まるでバリアで跳ね返されたかのように相手が自分に嫌悪感を向けるようになり、誠にとって居心地が良くなった。


最初は戸惑っていたが、誠は次第にその力を楽しむようになった。リフレクト・フィールドの仕組みはこうだ。他人が抱いた感情や行動の「結果」が自分ではなく相手に返される。例えば怒りを向けられれば、相手自身がその怒りの矛先になるのだ。


誠はこの力を職場で活用し始めた。嫌な上司や同僚に「思い知らせる」ため、あえて怒られるような行動を取り、その結果、相手が勝手に自滅する様子を楽しむようになった。


力に味を占めた誠は、ついに過去の因縁へと目を向ける。婚約破棄の原因を作った元婚約者、沙織とその新しい夫だ。二人は、誠を嘲笑うようにSNSで豪勢な生活を見せびらかしていた。


誠はある日、沙織たちが訪れるレストランに現れた。そして、席に近づくと、嫌味たっぷりの笑顔で挨拶をした。案の定、沙織たちは見下した態度で誠をバカにしたが、直後に不思議なことが起きた。沙織の夫が突然大声で、「俺がこんな女を選ぶなんて最低だ!」と叫び、店中の注目を浴びたのだ。


「ざまあみろ…」

誠は満足げにその場を立ち去った。


だが、力を使うたびに、自分自身に小さな違和感が生じるようになった。心の中に何か暗い影が広がっていくような感覚だ。それでも誠は気にせず力を濫用し続けた。


ある日、誠がいつものように部長を「罠」にかけようとしたとき、それが決定的な事件を引き起こした。部長はストレスに耐えきれず、突発的に他の同僚に手を上げてしまったのだ。結果、暴力沙汰となり、会社全体が揺れる騒動に発展した。


「俺のせいじゃない…はずだ…」

そう思いたかったが、内心では自分の力が引き金だったと分かっていた。


その晩、誠の前に再びエリスが現れた。


「ねえ、どうしてその力を使ったの?」

エリスの問いに、誠は答えられなかった。


「あなたが望んだのは、そんな未来だったの?」


「俺はただ…ただ、正当な復讐をしたかっただけなんだ!」


エリスはため息をつくと、小さな鏡を誠に差し出した。


「これを見て。」


鏡には誠の顔が映っていた。しかし、その顔は怒りと恨みに満ちた醜いものに変わっていた。


「リフレクト・フィールドは、相手の感情を反射するだけじゃないの。使えば使うほど、自分の心にも影響を与える力なの。」


「そんな…そんなこと聞いてない!」


「聞かされなかったからといって、責任を免れるわけではないわ。」


エリスは手をかざし、誠から力を剥ぎ取った。


それから誠は、力を失った普通の生活に戻った。しかし、彼の心には、あの醜い顔が忘れられない。結局、自分が何をしたかったのか、何をすべきだったのかを深く考えざるを得なかった。


「力がなくても、俺は…俺はきっとやり直せる。」


そう誓いながら、誠は新しい一歩を踏み出す決意をした。エリスの姿はもう二度と現れなかったが、その微笑みだけは、彼の心に刻まれていた。

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