邪眼
――やらなきゃいいのに。
とは口には出さなかった。
変わりに、
「帰って来ない?」
「ああ! 最近、この辺に強いアンドロイドが出るようになっただろう? それであのコーヒー売りが心配になったって追いかけってった」
ロイのその報告に、リゾはまたも驚く。
ルウ族の最高位たちは神の化身ともされているが、その真相はこの地――ルウの地の女神の加護を受けているからこそなのだ。
ルウの地にいる時だけ強い魔力を有しているのであって、ルウの地の外に出てしまえばその加護はない。
「一応は止めたんだがな」
ロイはリゾの考えたことがわかったようだ。
「まさか、あの男好きが女のためにそんな危険を冒すとは思わなかった」
リゾはケイの隣で手を振っていた栗色の髪の女を思い出していた。
この地のそばで何者かに襲撃され、ケイとともにこの地内を捜索していたということだったが……
結局、犯人は見つからず、女は帰ったと聞いていた。
「まあ、ケイのことだから何か策があるんだろう」
と、リゾは分析する。
「そうは思えん。意外に感情的なところがある」
「さあ?」
概ね同意なのだが、リゾは濁した。
うかつに同意すると後が面倒そうだ。
「なんで、あんなのがモテるんだろ?」
ぼそりとロイはつぶやく。
「さあ?」
それに関しては本当によく知らない。
「そういえば、キョウ・テセティアに邪眼かけてみたらしいじゃないか?」
それを聞いて、リゾの胸が痛む。
邪眼とは、魔力を用いた催眠術のようなものである。
己の目を見た者を眠らせたり、一時的に記憶を消したり、上級者になれば惚れさせることもできる。
魔力を失ったキョウが、誰の邪眼にも掛からないという現象が起きていた。
ケイは人間の姿でルウの地内を探索していた途中、キョウの家へ行き邪眼をかけてみたのだという。
その結果はといえば、キョウは邪眼に掛からないのではなく、レンの邪眼に掛かったままだったのだ。