万事休す
* * *
違和感を感じながら、長老は立ち上がった。
ケイに水晶を持たされたはずだが、どこを見ても水晶はなかった。
体が熱いのはなんだ?
傷は消えていた。
痛みも感じない、この感覚は誰かが魔法で治してくれたに違いない。
だが、治してくれそうな人物に心当たりがない。
もしや、自分で無意識のうちに治したのだろうか?
まあ、殺されそうになったくらいだ。
火事場の馬鹿力というやつかもしれない。
最高位になれると思ってついて来たのに、魔脈の餌だとか何だとか殺されそうになったのだ。
とにかく、ここから一刻も早く脱出しないと!
長老は辺りを見回す。
魔脈がはっきり感じられる。
魔脈がこれだけ濃く強く感じられる場所――ここがどこか長老にはわかった。
この部屋には扉がない。
扉がなくても問題ない。
いや、そもそもこの部屋に扉なんてあるはずないのだ。
長老は上を見た。
天井に天窓がある。
ここは神殿の地下だ。そう確信した。
天窓に備え付けのなわばしごがあった。
長老は魔法でそれを動かす。
なわばしごは長老の意のまますんなり動かせた。
魔脈が濃いせいだろうか。
長老はいつにも増して、自分が調子がいいのを感じていた。
なわばしごを登り天窓を開ける。
やはり、そこは神殿だった。
ルウの地中央にあり、最高位との謁見に長老はよくこの神殿に訪れていた。
床の模様だと思っていたものは、地下への入り口になっていたのだ。
ここが神殿ということは、最高位の誰かがいてもおかしくない。
長老は警戒していた。
ふと後ろから視線を感じた。
ぞっとして振り返る。
そこに、最高位のロイがいた。
ロイは長老のことをよく思っていない。
次に出会ったら、それこそ殺されかねない。
長老はまた地下に戻ろうとしたが、ロイに襟首をつかまれる。
逃げる手立てもなく、かといって戦ってどうにか出来る相手でもない。
万事休すとは、まさにこの事だった。




