始まりの王
日曜日。文人は図書館にいた。
そこで完全理解を駆使し、あらゆる情報を吸収していた。
ちなみに学校では武藤さんの勧誘がしつこかった。
「最上君?」
声の方を見ると、氷見がいた。
「こんにちは」
「こんにちは。何を読んでるの?」
文人は本を見せる。
「相対性理論!?。大学レベルの本じゃない!?」
氷見が驚く。
「氷見さん静かに!。ここは図書館なんだから」
「そ、そうね。でも理解できるの?」
「今、理解したとこ」
「そう……。ねえ、IQ200とかじゃないって言ってたわよね?」
「そうだよ」
「じゃあ考えられるのは特殊能力ね」
「例えば?」
「分割並列思考。私の特殊能力よ。でも最上君のはこれではないわね」
「この前も言ったけど親しい人にしか言わないよ。親にも言ってないんだから」
「親以上に親しいのは奥さん位よ?」
「だから秘密」
「むう。最上君の謎を解いて見せるわ」
「出来たらね」
文人はそう言って次の本を読み始めた。
文人達は閉館時間を迎え、帰りについていた。
「結局最上君本を読んでるだけでわからなかったわ」
「まあ、本を読むのが目的だったし」
「本を読む……そこにヒントが?……」
氷見は考え込んだ。
公園に入ると中で喧嘩をしていた。
花音を複数の男が取り囲んでいた。
氷見が何か言うより早く文人が動いた。
「おらっ!」
一人にかかと落としを食らわせダウンさせる。
「文人!?」
「花音。後は任せろ」
文人が戦闘モードに入る。
「最上君無茶よ!」
「氷見さん大丈夫。心配いらない」
「最上……まさか始皇帝!?」
「街の七つの中学全てを初めて支配した始まりの王か!?」
「か、勝てるわけねえ……」
「名前は知ってるようだな。それじゃいくぞ」
文人はビーカブースタイルで突進した。
「姫路さん大丈夫!?」
「ああ。大丈夫。しかし文人が始皇帝だったのか」
「始皇帝って?」
「この街にある七つの中学を初めて全部支配した男のあだ名さ。
それまで街の不良を全て束ねた奴はいなかったんだ」
「最上君がその始皇帝だってこと?」
「ああ。私も名前だけは聞いたことがあるだけだ」
そんなことを二人が話している間に、男達は全滅した。
「花音、終わったよ」
「ああ、ありがとな」
「最上君、不良だったの?」
「あー、火の粉を払ってたら勝手にそうなっただけ」
「逃げたら良かったんじゃないの?」
「最初はそうしてたけど追いかけて来たからね。
火の粉を払うしかなくなったのさ」
「そう……」
「…………」
「どうした花音?」
「いや、改めて文人はいい男だなって」
「それはどうも」
「本音だよ」
文人は照れくさそうに頭をかく。
「あー、褒め言葉として受け取っておく」
「それじゃあ帰りましょうか」
氷見の声で三人は帰り始めた。
「うーん。データが足りないわね」
「何を言ってんだ氷見?」
「最上君の能力よ。未来視はわかるけど、もっと根本的なことがわからないのよ」
「未来視!?。文人は未来が視えるのか!?」
「視えるといっても数秒先程度よ」
「いや、それでも最強クラスの能力だろそれ!?。じゃあこの前のタイマンも!」
「視えていたでしょうね。花音には勝ち目のない戦いだったのよ」
「文人!。ずるいぞ!」
「勝手に視えるからそう言われてもね」
「般若心経……本……読む……悟り……」
氷見はブツブツと言いつつ、目を見開いた。
「読んだ内容を理解できる?。それの再現?」
「どういうことだ鏡花?」
「最上君の能力は恐らく情報を理解し、再現できる」
「は?」
「例えばボクシングの本を読んだら、それを完璧に再現できる。
そういうことよね。最上君?」
氷見の確信めいた言動に降参の意を示す。
「だいたい正解だ」
「はあ!?。なんだそのチート能力!」
「出来るんだから仕方ない」
「ふふ。私、最上君に興味が出てきたわ」
「先につばつけたの私だぞ!」
「あら。それだけでしょ。関係も浅いみたいだし」
「ぐぬぬ……」
「ふふ」
にらみ合う二人を見て、勘弁してくれと思う文人であった。