天才
「はあ……」
文人は気が重かった。
あれから本屋により、家に帰ってあらゆる本を読んだ。
おかげで技能が随分と増えた。
休みには図書館へ行く予定だ。
ちなみに本に逃げたのは花音のことがある。
女の子を殴ったのはやはり気が引けたのである。
「おはよう」
文人が教室に入ると皆が一斉に集まってきた。
「昨日のタイマン凄かったぜ最上!」
「最上君ボクシングやってるの?」
「鬼姫に勝つなんて凄いぜ!」
皆がわいのわいの言う中、凛とした声が響いた。
「最上君。放課後空いてる?」
氷見だった。
「一応空いてるけど」
「悪いけど放課後屋上に来て。聞きたいことがあるから」
それだけ言うと氷見は自分の席に戻った。
なんだろうと文人は思った。
文人が自分の席に着くと、隣から声がかかった。
「おはよう文人」
花音が挨拶をしてきたのだ。
顔はやはり腫れているが。
「おはよう姫路さ……」
「花音って呼んで」
「……おはよう花音」
「何かぎこちないね?。どうしたの?」
「いや。花音の顔が腫れているから……」
「ああ。気にしなくていいよ。慣れっこだし」
「いやでも……」
「私が気にしなくていいって言ってんだ。気にすんな」
「わかった」
「ところで昼飯どうすんだ?」
「食堂で済まそうと思ってるけど?」
「弁当作ってきたんだ。一緒に食べようぜ」
「……それは花音が作ったのか?」
「そうだよ。味は自信あるから食べてみて」
「わかった。楽しみにしてる」
文人がそう返すと花音は笑顔になった。
本日はクラス全員でクラブ見学となった。
毎年この時期は部員獲得競争が激しいそうだ。
文人達はボクシング部を訪れた。
「ようこそボクシング部へ。武藤舞です。
皆さんと同じ学年ですがマネージャーを始めました。
ボクシング部どうですか?。特に最上さん!」
舞の指名に嫌な顔をする文人。
「えっと、武藤さん?。何で俺なの?」
「昨日のタイマン見ました!。ピーカブースタイルからの鮮やかなカウンター!
胃や肝臓を的確に攻撃するボディーブロー!。最後にデンプシーロール!
最上さんはボクサーに向いてます!」
舞は熱く語る。
「いや、たまたまだからね。そう熱く語られても……」
「いや、絶対向いてますって!。一度訪ねて下さい!」
「ははは……」
文人は曖昧な笑みを返した。
昼休み。
「じゃん!。これが私の弁当さ!」
花音が文人に弁当を渡す。
その弁当は彩りも良く、美味しそうに見えた。
「いただきます」
文人は弁当を一口入れる。
「どう?」
「美味い!」
「ふふ、どうよ?」
「いや、本当に美味いよ。花音、料理上手なんだな」
「まあ、ちょっと事情があってさ。家事全般得意なんだ」
「事情?」
「こっちの話。まあ、弁当食べなよ」
花音は何か隠してるなと思いつつ、文人は弁当を食べた。
放課後。
「来てくれたのね最上君」
「まあ、一応ね。それで何の用事?」
「昨日のタイマンの時不思議に思ったの。何で避けれるのかって」
「……」
「よく観察したわ。最上君、あなた見て避けてるわけじゃないわね」
「……」
「これは一種のオカルトだけどこれしか考えられない。
最上君。あなた未来が視えるわね」
「……」
「未来が視えるといっても恐らく数秒先程度。どう?。当たってる?」
「……だから戦うのが嫌だったんだ」
「やっぱり……!」
「むしろわずかな情報で真実に辿り着く氷見さんに驚いてるよ」
「ふふ。IQ200なのよ私。それよりどうやってそんな能力を?」
「般若心経を読んで悟りを開いたら出来るようになったのさ」
「え!?。悟りを開いた!?。お坊さんが一生かけてもたどり着けないような領域に!?」
「まあ、そうなるかな」
「まさか私と同じIQ200!?」
「IQは普通だよ」
「となると何か特殊な能力を持ってる可能性か……」
「親しくもない人間にそこまで教える気はないよ」
「それもそうね。まあ、これから親しくなればいいんだし」
「そろそろいくね。話は終わりだよ」
そう言って文人は屋上を後にした。