無題:邂逅
「ふむむ?」
なんだか強い気配がある。
なんか、でかい生物がいる。
ふむぅ。
待機か、殺すか。
む、そういえば。
「ウィンドウ」
目の前にシュン、と多機能操作パネルが現れる。
ふむ。
さっきよりも数倍まで跳ね上がっているリアリティがすごすぎて錯覚しそうになるけど、ここもゲームの中みたいだ。
アイテム欄も開けるし、ログアウトもできる。
ただ……
「現実より、幸せ。」
そういうこと。
凡そすべてのプレイヤーが、ゲームの中にずっといたい、と考えたことがあるだろう。
だが、彼女にとっての、その気持ちとは全く違う。
足にほんの少し力を込め、ジャンプしてみる。
そして着地──どごぉぉぉん!という轟音とともに、地面が微かに揺れる。
「壊れない…!」
ジャンプしても地面が壊れないなんて…!と、わたしは不思議な感動を享受する。
「あ、気づかれちった」
ざっと、20kmくらい先にいるおっきなモンスターが、揺れに気づいて私の方を見つめている。
私のこと見えてるかな?
『………。』
「………。」
『キュルルォーン!!』
「おっ?」
なんか立ち上がって鳴き声上げてる!
鹿によく似た姿をしたモンスターだね。
……どうしよう?
戦うつもりはないんだけどなー…
……手振ってみるか
「……。」ふりふり
『……。』
「……。」……………ぺこり
『ギュウウーン…』
……あっ、横になって警戒を解いてくれた。
ほっとひといき。
あの子、この距離で私が見えてたみたいだねー。
目がいいねえ。
中々強そうだし、かっこいい鹿さんだなー。
現実の世界だと動物達は、皆、私のこと怖がるからなー。
ペット欲しいかも…。
……まだこっち見てるね。
警戒じゃなくて、好奇心の色。
手を振ったことで敵意がないことを理解してくれたのかな?もしくはお辞儀?
何にせよかしこい。
そして、二本生えてる角がかっこよき。
エメラルドの宝石みたいな色してて幻想的で、ざ・ふぁんたじーな光景だ…
後ろに荒廃した建物があるのを見なければ、だけど…
警戒解いてもらったところ悪いけど、ちょっと近づかせてもらおう。
私は君の後ろにある都市を見てみたいんだ。
ちょっと迂回めに動くか。
シュタッ
どーん
シュタッ
どーん
さて、ぴょんぴょん二歩で鹿ちゃんまで残り大体1km地点までやってきた。
じーっ、とこっちを見てるけど、警戒の色はない。
ごめんねー、ちょっと横通るねー。
『……。』ズッッ──
「むっ!?」
犬の伏せみたいな体勢の鹿ちゃんが徐ろに前足を振り上げた──
『……。』ドゴォォォォォン!
軽く地面にたたきつけた。
おわっ!?
真下から勢いよく樹が生えた。
その勢いで真上に結構ふっとばされたあと、落下中に掴める大きさの枝を掴んでくるっと一回転あんど着地。
んー、枝がどれも太い!
けど手触りよき。
RPGなら超強い武器の素材とかにできそう。
ユグドラシルの枝とか?
葉っぱも緑が濃ゆくて生命力溢れてるねい!
それにしても…この樹は鹿ちゃんの能力かな?
緑がない荒廃した世界に似合わず、生命的な能力持ってる鹿ちゃんだ。
鹿ちゃんの顔を見るに、ちょっとした仕返しみたいな感じだな。
大きな音立てたり、いきなり近づいたり、驚かせちゃったからね〜。ごめんよ〜。
あ、目瞑って寝始めた。
かわいい。
エメラルド色の幹をした大樹が、サラサラとこれまたエメラルド色の光の粒子になって散っていった。
時間で消えるのかー。
素材にはできなさそうだ。
ここがRPGゲームだってことを今更思い出したから少し残念に感じる。
まあ、鹿ちゃんの許可(?)貰ったことだし、遠慮なく、滅びた都市探索と洒落込みましょー!